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第3話 放課後はダンジョンに行く仕事

 ――放課後デート。


 白桃(しらもも)がそう呼んだのは、男女の付き合いではなく、ダンジョンの付き合いだ。


 ダンジョンが都市にあるだけで、観光が潤う。

 資源にも恵まれ、ダンジョンでしか手に入らないような珍しい食材も注目されている。


 それがダンジョン。


 東京の中心だ。


 俺が通う私立清明(せいめい)高校から徒歩15分。

 多くの人で賑わう喧騒の中心に、ダンジョンは堂々と存在していた。


「それで、わざわざ腕を組む必要はあったのか?」


「はい! 一応形式上は放課後デートですから」


「これは仕事だぞ。遊びじゃないんだ」


「そんな説教みたいなことはやめてくださいって。ちゃんとわかってますから、才斗(さいと)せーんぱい」


 呆れて溜め息をこぼすことしかできない。


 俺のランクがAであることに対して、白桃のランクはC。

 低くはない。が、高いわけでもない。冒険者の中では中堅といったところか。


「クラスメイトに誤解されてないといいが……」


「別に気にすることないですって。わたしと先輩は特別な関係なんですから」


「ずっと思ってたが、先輩っていうのはやめてくれ」


「なんでです?」


「同い年だし、なんか嫌だ」


 俺も子供みたいなことを言うようになったな。


 だが、こういうのは理屈じゃない。

 嫌だから嫌なんだ。


「それなら、才斗ボス、ですか? 一応直属の上司ですし」


「普通でいいんだ、普通で。才斗とか、才斗君とかで」


「くん付けを推奨するんですね? 可愛いとこあるんですね、才斗『くん』」


 あとで上に文句を言っておこう。

 こいつを俺の部下にしたのは、自分たちじゃ扱いきれなかったからだろ、と。それで俺に押し付けてきたんだろ、と。


 白桃はにこっと笑うと、俺をビルの裏に無理やり引っ張った。


「ここなら誰も見てませんよね?」


「ビルの監視カメラがある。誰も見てない場所なんて、トイレの個室くらいしかない」


「でも、トイレで変身はちょっとダサくないですか?」


「それはそうだな」


 俺は深く頷くと、白桃とお揃いの腕時計を2回、ぽんぽんと指でタップした。


 一瞬で高校の制服が黒いスーツに変わる。

 これは魔法ではなくて科学テクノロジーだ。


 白桃も同じ動作で制服からスーツ姿に変身する。


 それと同時に、髪の色がピンクに、瞳の色が真紅に変わった。


「どうです? 惚れました?」


「目の色は同じなんだな」


「そうなんですよ! 運命ですね」


「たまたまだろ」


 冒険者は選ばれし存在だ。


 なろうと思って簡単になれるものじゃない。


 まず、冒険者になるには【選別の泉】という、ダンジョンと同時に地上に発生した泉に入らなくてはならない。その泉で10分間、意識を失ったり死んだりすることなく苦痛に耐えることができれば、晴れて冒険者となる。


 泉の試練を終えた際、冒険者になった者は髪の色と瞳の色が変わることがある。

 といっても、ほとんどの人は変わるわけだが。


 俺は【選別の泉】を乗り越え、髪の色は黒のままだが、瞳の色だけ真紅になった。どこまでも真っ赤な瞳だ。


「それにしても、この腕時計凄いですよね。おかげで学校にも普通に通えてますし」


「初めて使ったみたいな言い方だな」


「それなりに昇級しないともらえないので。才斗くんの部下になることが決まってからもらったんです」


「だとしたら、今までどうやって――」


「髪は普通に黒に染めて、目はカラコンです。めんどくさかったな~」


 自分で言うのは自惚れかもしれないが、俺は組織のエリートだったので最初からこの万能腕時計を持っていた。


 だから白桃の苦悩をわかってあげられない。

 この件に関しては同情する。


「大変だったな」


「むぅー。それ、全然嬉しくないです。才斗くんって、コミュニケーション下手ですよね」


「そうなのか?」


「自覚ないんですか?」


「さあ」


 コミュニケーションが下手だと言われたことはなかった。


 思われてたのに言われなかっただけかもしれないから、真相はよくわからない。

 とはいえ、今では(・・・)親のいない俺が、コミュニケーションの達人であるはずがない。


 10歳の頃から、ダンジョン。


 毎日ダンジョン。


 ――戦い、倒れ、戦い、敵を倒す。


 その繰り返しだった。


「でもわたしは、そういう不器用なところがあるのもギャップがあって可愛いって思っちゃいました」


「可愛い?」


「はい。推しはどんなことをしても尊いって言うじゃないですか」


 推しについてはよくわからないが、彼女の熱意は伝わった。


 かなりウザい部下だが、一応俺のことは尊敬してくれているし、好きでいてくれている。

 嫌われるよりはマシなのかもしれない。




 ***




 監視カメラに映っていたかもしれないものの、人目を避けてスーツに着替えた俺たち。


 ついにダンジョンの入り口へと歩みを進める。


 ダンジョンは政府が管理するドーム型の建物、ダンジョン・ドームの中にあった。

 ドームの入り口で冒険者カードをスキャンすると、自動ドアが開く。


 スーツ姿なので、出勤するサラリーマンと言っても違和感はない。それに実際、俺たちは仕事に行くわけだしな。


「Aランクにもなれば、カードが銀色なんですね。かっこいいです」


「せっかくなら銀より金がいい」


「欲張りですね~」


 軽い会話を交わしながら、いよいよダンジョンの前へ。


 圧倒的な存在感を放つ、重厚感ある扉。


 これこそ、異界への入り口――ダンジョンへの門だ。

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