第27話 主人公とヒロインが結ばれそうな雰囲気
キングオーガは大きくて鋭い角を持った、鬼の最終形態だ。
普通は10階層に出てくるモンスターじゃない。
階層に適さないモンスターが出てくることは、ダンジョン3大悲劇の1つとして数えられている。
ちなみに、残り2つは仲間を見殺しにすることと、半殺しにされて地上に帰還すること。
楓香はこの3つをセットで一度に経験した。
強烈なトラウマが残るには十分すぎるくらいだ。
「才斗くん、もしかしてここは……」
「まだダンジョン10階層だ」
目の前で楓香が怯えたような声を上げる。
彼女にとっては因縁とも呼べる場所、ダンジョン10階層。できるだけ近付きたくないのかもしれないが、ここを乗り越えられなければ次のレベルに進むことはできない。
「嫌です……地上に帰りたい……」
「楓香……」
「わたしは弱くてもいいから……お願いします、才斗くん。わたしを抱えて上の階層に……」
「悪いが、それはできない」
俺がしていることは残酷なことだ。
無理やり過去のトラウマと向き合わせようとしている。
楓香が本気で恐れ、避けてきたものを差し向けようとしている。
「今からキングオーガに会いにいく。楓香はそのキングオーガを倒す必要がある」
「……お願いだからぁ……」
ぽろぽろ、と。
こぼれる涙。
それは恐怖と絶望の涙だ。
「大丈夫だ。俺がいる限り、楓香が死ぬことはない。もちろん、俺が死ぬこともない。お前なら無傷でキングオーガを殺れる」
無表情のまま楓香を起こすと、グイッと階層の奥に引っ張っていく。目指すは11階層の入り口。
そして11階層のボス部屋。
白桃楓香は今日――進化する。
***(白桃楓香視点)
全身が震え、力が入らない。
わたしを引っ張る才斗くんの顔からは、何の感情も感じ取ることができなかった。
――怖い。
才斗くんが怖い。
彼は今、わたしを絶望に案内している。
ずっと憧れ、目指してきた才斗くん。
わたしもいつかAランク冒険者になって、お金だっていっぱい稼いで、ママにいい暮らしをしてもらうんだ。
でも……あの時からわたしの中の向上心はすっかり拡散してしまっていた。
強くなることより、10階層を避けること。
別に、9階層までしか行けなくても結構稼げるし。無理に下層に降りていって死んじゃったら、それこそ本末転倒。
――だからいいんだ、これで。
わたしはCランク冒険者のままで、いいんだって。
「俺は楓香が今までどんな生き方をしてきたのか、どんな考えを持っているのか、そんなことは知らない」
わたしを引っ張りながら、才斗くんが語りかけてくる。
「だが、少なくとも今の楓香は知ってる」
「――ッ」
「俺の知る楓香は、いつも元気で前向き。ふざけることも多いし、下ネタも平気で言うような奴だが、俺は結構好きだ」
「……」
才斗くんがわたしを見つめてきた。
好きだ、だってさ。
そんな言葉、才斗くんにかけてもらえるなんて。
嬉しくてたまらない。
目の前の才斗くんに強いところを見せたいし、才斗くんに褒めてもらいたい。
でも――。
「わたしは戦えません。こんな状態じゃ……キングオーガに殺されます……」
――なんて弱いんだろう、わたし。
「あれだけ濃厚なキスをしておいて、戦えないとはな」
「……え? キス……?」
「俺のファーストキスだったんだ。それをあんなに強引に奪った女には、もっと強くあってもらいたい」
「ファ、ファーストキス? え、わたしが?」
――どういうこと?
わたし、才斗くんにキス、したの?
「まあ、キスしたのはお前のもう1つの人格だがな。見た目は楓香だったから、そう言っても間違いじゃない」
「もう1つの人格?」
待って。
才斗くんが何言ってるのか全然わからない。
真剣な顔で言ってくるし、この状況だし。
嘘ではないんだろうけど……そんなのって……。
「もう1人の楓香は、俺を殺そうとしてきた。だが、その猛烈な殺意の裏に、猛烈な愛を隠してた」
「殺意? どうしてわたしが才斗くんを……?」
「第二の俺を期待され、俺の過去と比較され、ライバル心が芽生え、気付けば殺意に変わっていた、そんな感じか」
「わたしが……」
自分でも不思議なことに、その説明をすんなりと受け入れてしまった。
ダンジョンに潜った時、わたしは半分意識を失っている。
ぼやぼやとしたまま、モンスターと戦っている感覚がある。そして気付けば戦いは終わっている。
それが日常茶飯事だった。
でも、もしそれが普通のことじゃなくて、別の人格が引き起こしてることだったら? わたしの体を使う、もう1人の人格があるとしたら?
「……」
「楓香」
名前を呼ばれて、才斗くんの顔を見る。才斗くんは謙遜しているけど、整った顔立ち。
わたしの好きな顔だ。
「話してるうちに、11階層に着いた。ボス部屋の前だ。10階層なんて、大したことなかっただろ?」
「え?」
才斗くんがほんの少しだけ微笑んでくれたかと思ったら……いつの間に。
あんなに怖いと思っていた10階層を、難なく突破。多分才斗くんが襲ってくるモンスターを蹴散らしてくれていたからだと思うけど。
――ああ、やっぱり。
――この気持ちは間違いじゃなかった。ただの憧れの延長なんかじゃなかった。
「才斗くん」
「ん?」
「わたしがキングオーガに勝ったら……その……わたしと……えっちしてくださいっ!」
「はぁ?」




