第22話 現役冒険者が体育祭に出るという鬼畜
楓香には2日連続で学校を休ませた。
心身共に元気そうだったが、念のためだ。
そして翌日の金曜日。
慌ただしかった夏休み明け最初の週も、今日で終わりを告げる。
「転校してきていきなり2日も休むなんて最悪ですよね」
「死にかけたんだから仕方ない」
ガッツリ俺の腕を奪って登校するのは、完全復活を遂げた楓香。
彼女にとって、転校によるストレスはそんなに大きくないものと思われるが、確かに少しだけ可哀想だ。楓香には早く女子の友達を作ってもらって、俺離れしてもらいたい。
「黒瀬!」
「なんだ佐藤か」
「なんだって何よ! あたしがせっかく挨拶してあげたんでしょ!」
挨拶された記憶はない。ただ名字を呼び捨てにされただけだ。
佐藤は俺と楓香が冒険者であることを知っている唯一の生徒。
正体がバレてから楓香と顔を合わせるのは初めてだ。
「白桃さん、黒瀬から聞いたかもしれないけど、あたし、あんたたちのこと知ってるから」
「もうバレちゃったんなら仕方ないですよね。わたしと才斗くんが付き合ってるって」
「は? どういうこと!?」
殴りかかる勢いで俺を見る佐藤。
佐藤に殴られたところで痛くも痒くもないはずなんだが、思わず後退してしまった。
「俺たちは付き合ってない」
「そ、そうよね! 白桃さん、いい加減なこと言わないで! あんたが冒険者だってこと、知ってるんだからねっ!」
「声が大きいぞ」
幸い、周囲に話を盗み聞きしているような人間はいない。
「ていうか黒瀬、あんたへのお願い決まったわよ!」
「そうか」
「あたしを椅子の女にしなさいよね!」
***
最近の授業は体育が多い。
再来週の日曜日に体育祭が控えているからだ。
今日の時間割は6校時のうち半分は体育。体を動かすのが好きじゃない生徒にとっては地獄だろうな。
俺たち2年3組は2年生の集団演技であるペアダンスの練習のため、体育館に来ていた。
「才斗くん、わたしたちって、体育祭どうすればいいんでしょうね?」
「何が言いたい?」
「いや、だってわたしたち普通にやれば無双できちゃうじゃないですか。手加減とかしちゃいます?」
「逆に今までどうしてきたんだ?」
「わたし……体育祭はずっとサボってきまして……」
どこか気まずそうにボソボソ呟く楓香。
何か話しずらいことを聞いてしまったような気がする。無理に話させるわけにもいかないか。
「話したくないなら構わない。別の話題を考える」
「やっぱり才斗くんって優しいですよね。ツンデレさんなんですか?」
ツンデレなのは佐藤だと思うが、言わないでおく。楓香の前で佐藤の名を口にしない方が良さそうだし。
そういう佐藤は、友達がいないので1人でダンスの練習をしている。ステージの壁にプロジェクターからダンスのお手本映像が投影されているので、それを真似して踊るわけだ。
今のところ立ち位置は自由。
だから楓香が隣にいる。
幼馴染設定にクラスメイトも馴染み始めたのか、俺は相変わらずのモブ生徒だ。良かった。
「わたしはその……冒険者になってからはダンジョンに潜るので忙しくて、結構学校を休んだりしてたんです。お母さんは反対してたけど、わたし、こう見えても頑固なので」
「そうだったのか……」
「だから学校に友達は少なかったし、気付けばグループから外されてたりとか、そういうこともあって……」
俺も確かにダンジョン攻略に没頭してきた学校生活だったが、無難な高校生活のために体育祭や文化祭といった学校行事には欠かさず参加してきた。
友達だっていなかったわけじゃない。
「わたし、才斗くんと同じ学校で嬉しいです。同じ境遇なわけですよね。もちろん、才斗くんの方がずっとずっと凄いですけど」
「買い被りすぎだ」
「才斗くんは謙虚すぎです」
ここはお互いに譲らなそうだな。
「体育祭はほどほどにやっておけばいい。運動が得意な生徒にできるくらいのことはして、クラスに貢献できればいいんじゃないか」
「ですね。そうします」
楓香が爽やかに笑う。
それを微笑ましく眺めている自分がいた。
***
昨日は1人でダンジョン15階層まで潜ったが、今日はまた楓香と2人だ。
これ以上休ませて感覚を鈍らせてしまうのも良くない気がしたので、放課後は一緒にダンジョンへ向かっている。
だが、もう1人、歩く方角が同じ少女がいた。
「何度も言ったが、椅子の女は無理だ」
「やってみないとわからないでしょ!」
椅子の女をやりたいと言い出した佐藤だ。
椅子の女とは、実際に任務を遂行している人の裏で、椅子に座って指示を出す女性のこと。
「ダンジョンの中では通信機器が使えない。外部と連絡することはできないし、ダンンジョン内部で仲間と連絡を取り合うことも不可能だ」
「じゃあダンジョン配信はいいわけ?」
「配信といってもライブ中継じゃない。特殊なカメラで録画したものをネットに公開してるだけだ」
それを説明して断ったはずだが、佐藤は諦めが悪い。
「いい加減諦めたらどうですか? 佐藤さん、友達がいないんでしたよね? わたしが友達になってあげますから、才斗くんにしつこく絡まないでください」
「あたしにだって友達くらいいるわよ!」
「へぇ、誰です?」
「……黒瀬」
「そうですよね。才斗くんは優しいので、誰とでも仲良くできちゃうんです」
うるさい女子が2人になってしまった。
これからの仕事の邪魔でしかない。
「楓香、佐藤を虐めないでやってくれ。佐藤も楓香に突っかかるな」
「むぅー」
「あたしは別に突っかかってるわけじゃ――」
「わかった。とりあえず今日は帰った方がいい。ダンジョン・ドームの周辺は意外と危険だ。感じ悪い冒険者が襲ってくることもある」
政府が監視しているので比較的安全なのかもしれないが、これぐらい言っておいた方が効果的だ。
「今日のダンジョン探索は1時間くらいで終わるから、話がしたいなら6時になってからまた来てくれ」
そう言って、俺たち冒険者は走る。
佐藤から見れば、それは瞬間移動のようなものだ。
***
――6時になってからって……あたしが1時間で諦めて帰るとでも思ってんの! ずっとここで待っててやるから!
黒瀬と白桃に逃げられてからも、佐藤は2人を待っていた。
あの時と同様、街路樹に隠れてドームを見張る。
「――ッ」
張り込んで3分がたったちょうどその時。
佐藤は何者かによって口にハンカチを当てられ、抵抗する暇もないまま気絶した。




