第19話 お食事デートの相手はまさかのツンデレヒロイン
「西園寺さん、僕の前では情けないよね……」
「いろんな意味で君のことは信用してるんだ。だからこんな情けない社長を許してくれー」
高級ソファに顔面を擦り付けている西園寺。
そこには強者の威厳などなく、わがままな子供のような若々しさがあった。
「そろそろ社長モードに戻ってほしいな……」
「うん、わかった」
ソファから顔を上げた西園寺は涙ぐんでいた。
やれやれ、と山口が呆れる。
幹部であっても、山口しか西園寺のこの姿は知らなかった。
深呼吸をしてから、ソファに座り直す西園寺。
山口にも反対側のソファに座るよう促すと、真剣な表情に戻って話を始めた。
「才君はまだ、29階層にこだわっているのか?」
「それは間違いないね。その復讐に白桃君や周囲の仲間を巻き込みたくないんだと思う」
「そうか……」
西園寺が言及した29階層。
そこは、黒瀬の両親が死んだ場所だ。
「才斗は29階層で両親を殺した【漆黒のデュラハン】討伐を狙っている。違うかい?」
「……」
黒瀬の両親が亡くなった際、当時10歳の黒瀬本人に詳しい情報は与えられなかった。
――黒瀬夫妻を殺したのは【漆黒のデュラハン】である。
この情報は政府が制限している機密事項であり、【ウルフパック】では西園寺と山口しか知らない情報だ。
だが、黒瀬才斗は知りたがった。
真実を。
両親の死の真相を。
そこで、両親の死から2ヶ月がたち、黒瀬が勝手に【選別の泉】に入り、冒険者としての力を手にした時――山口の口からその真実が告げられたのだ。
「才斗はあれ以来、ソロで黙々とダンジョンに潜り続けている。何かに憑りつかれたようにね。復讐心が彼を強くした、そうとも言えるかな」
「……」
山口は次々と言葉を並べていく。
才斗の強さの根幹にあるのは強烈な復讐心。
そう言い切った上で、彼の次なる成長のためには復讐心ではなく、仲間を守る心や想う心が必要だと。だからパーティを組ませようとしているんだろと。
そう西園寺に問いかけた。
西園寺は無言のまま山口の推理に耳を傾けていた。
肯定も否定もしないまま。
しかし、一通り話が終わると、憔悴したような表情で小さく呟いた。
「違う……そもそも根本から、間違っている……」
「間違ってる?」
「才くんの両親を……北斗さんと才華さんを殺したのは【漆黒のデュラハン】なんかじゃないんだ……」
「――」
「オレなんだ……オレが弱かったせいで……2人は冒険者に殺された……」
***
朝になっても、楓香はベッドに横になっていた。
「すっかり心は元気なんですけど、立ち上がろうとしたら脚に力が入らなくて」
「今日は休んだ方がいい」
「嫌です。今凄く、才斗くんとイチャイチャしたいんです。体がうずうずしてます」
それなりに膨らみのある胸をちらつかせながら、ベットでもごもご動く楓香。
俺が普通の男子高校生なら悶絶していたかもしれない。
「剣騎からも休ませるように言われた。楓香の母親にも連絡してある。これは俺が個人的に言ってるわけじゃなく、組織の命令だ」
「むぅー、才斗くんはわたしのこと心配じゃないんですか?」
「元気そうだからまったく心配してない。だが、回復魔法をかけられた後は体力が一時的にグッと落ちる。数日はダンジョンに潜れないだろう」
「この世界は残酷ですね」
「あの重傷を治療してもらったんだから文句は言うな」
「あ、そうそう、わたしを治療してくれた治癒師の方にお礼を言っておいてください。復帰したらわたしからも直接お礼に行きます」
「わかった」
人としての礼儀は兼ね備えているようで何よりだ。
これで、今日は楓香のいない学校生活を送れる。
***
今日はダンジョンが閉鎖されている。
明日にはまた開放される見込みだが、とりあえず放課後はあの場所に立ち寄ろう。
ほぼ毎日ダンジョンで戦い続けてきた俺だが、たまには息抜きも必要なのかもしれない。
明日からのダンジョン攻略はさらに力を入れたいと思っているが。
「黒瀬、ちょっといい?」
「佐藤か」
帰りのホームルームが終わり、多くの生徒が部活動の準備をし始めた頃。
生徒玄関で靴を履いていた俺に、佐藤が絡んできた。
珍しいことでもない。
適当に流しておけばどうにでもなるだろう。
少しだけ気がかりなのが、昨日俺たちを尾行していた件。もしかしたらそのことを探ってくるかもしれないな。
「この後、時間ある?」
「放課後のことか?」
「そうだけど……デートに誘ってるとかじゃないから、勘違いしないでよね!」
「勘違いはしてない。俺はこれから行く場所があるんだが……佐藤もついてくるか?」
「え……いいの?」
「話したいことがあるんだろ?」
「うん……別に、告白とかじゃないから! ただちょっと確認したいことっていうか、学校では聞きにくいことっていうか……とにかく、あんたが拒否しても、あたしついていくから!」
俺は最初から許可してるだろ。
相変わらず面倒な奴だ。
楓香とはまた別の角度の厄介さだな。
***
「――って、ここ凄い高いとこじゃない!?」
「思い入れのあるレストランなんだ。全部俺が出すから、好きなコースを頼んでくれ」
俺と佐藤は学校から徒歩3分圏内にある、小さなイタリアンレストランに来ていた。
両親が生きていた頃、よく連れてきてくれた場所で、個室は完全なプライベート空間を守るために防音仕様になっている。
ここなら、どんな話でも盗み聞きや盗み見される心配はない。
「これって、さ。デートってことよね?」
「デートじゃないって自分で言わなかったか?」
「完全個室でしょ? 今からあたしとえっちなことでも――」
「本題は何だ? 学校では言いにくいことなんだろ?」
楓香みたいなことを言い始める前に、本題に入る。
面倒な前置きはなしだ。
佐藤は呼吸を整えると、意を決したように真剣な顔で言った。
「あたし、見たの。あんたが白桃さん抱えてダンジョン・ドームから出てくるとこ。黒瀬って、冒険者なんでしょ?」




