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第13話 過去の善行が今を救うという教訓

 ――重傷を負った楓香(ふうか)を連れ、ダンジョンから出る。


 そう決めたら早速行動開始だ。


 幸い、純粋な剣技は俺の方が上。

 ヴァイオレットの(フォーム)はナゴルニ―派の発展系だろう。


 攻撃を重視するナゴルニ―派の剣術。

 大きく踏み込んで攻撃を繰り出すため、体力及び魔力の消耗が激しく、長期戦には向かない。


「逃げるつもりか」


 俺の微弱な動きの変化から、思考を読んだんだろう。相当な手練れだ。


「このまま戦いを続けたとしよう。だいたい5分もすればお前は体力が尽きる。そして俺が勝つ。違うか?」


「……」


 図星か。


 いや、図星も何も、この戦況から考えれば誰だってわかる。

 俺も息を切らしているものの、ヴァイオレットはさらに余裕がない。体力の消耗が大幅に進んでいるということだ。


 隙を突いて逃げることはできなくもない。


 だが、それより確実に退散することができる賭け(・・)に出てみた。


「5分戦って俺が勝てば、そのままお前を政府に引き渡し、拘束してもらう。政府はお前を拷問にかけてお前の(ボス)の存在を聞き出そうとするだろう」


「……」


「だが、楓香の状態は一刻を争う。5分も戦い続けるわけにはいかない」


 今も楓香は苦しんでいる。


 戦闘時の冷たく無機質な感じはなくなり、普通(・・)の楓香が荒く呼吸をしているように見えた。


「そこで提案したい」


 剣の動きを止め、向かい合ったまま会話を続ける。


 お互いに攻撃を警戒しているものの、今は話し合いにシフトしている状況だ。多分ヴァイオレットもこの状況を理解して、攻撃してくることはないだろう。


「今日はここで戦いを中断し、俺は楓香を連れて地上に戻る。お前を倒すのは諦める、ということだ」


「私を倒した方がお前にとって利益は大きいはずだ」


「そうかもしれないな」


 ヴァイオレットはおそらく闇派閥に属している。


 冒険者界でも闇派閥の存在は長年問題視されてきた。

 未登録冒険者が集い、ダンジョンの奥底に眠る神秘を狙っている組織があると。


 だからもしここで俺がヴァイオレットを捕えれば、闇派閥を潰すための有益な情報が手に入るかもしれない。闇派閥は滅多に一般冒険者の前に姿を現さない。

 このチャンスを逃すと、もう二度と手がかりをつかめないかもしれない。


「だが、今の俺にとって、お前たちの存在はどうでもいい」


「……」


「俺の目的は別にある、ということだ。だからひとまず、救える命を救う」


「……そうか」


「お前も、ここで負けたらあの方(・・・)とやらに迷惑をかけることになるんじゃないのか? 俺たちをここで逃がした方が、まだマシだろうな」


 ヴァイオレットは最後に俺に剣を向けると、視線を背後に移し、そのまま剣をしまって歩き出した。


 俺がその隙を襲ってくるとも思っていないらしい。


 彼女が歩く方向はダンジョン10階層。

 俺たちと仲良く地上に戻るつもりはない、ということだな。当然か。


「俺も少しは丸くなったのかもな」


 俺は小さな溜め息をこぼすと、気を失っている楓香を横抱きにして、Aランク以上の冒険者にしか出せないようなスピードでダンジョンを疾走した。




 ***




 ――才斗(さいと)君、ダンジョンどこまで行ったんだろうなぁ。もう29階層(・・・・)も突破してたり……なんて、さすがにそれはないか。


 黒瀬(くろせ)の地上帰還を期待して待っている中島(なかじま)


 ダンジョンに出入りする冒険者たちを何度も眺めながら、黒瀬のことを思い浮かべていた。


 中島と黒瀬の出会いは2年前。

 ダンジョンの中でモンスターに蹂躙されかけているところを、黒瀬に助けてもらったのが始まりだ。


 その時も契約をして回復職としての冒険者をしていた中島は、ダンジョンの14階層でモンスターの大量発生に遭遇した。


 契約を結んでいたのは3人のパーティで、全員がBランク。

 それなりの実力はあったはずだが、14階層レベルのモンスターの大群の前では頼りないものだ。


『あんたが(おとり)になってくれ。Cランクだろ? あんたが足手纏いだったってことだよな? 責任取ってくれ』


『そうだそうだ。じゃないと俺らが死ぬんだよ』


 それは要するに裏切り。


 3人の契約済み冒険者たちは、中島を見捨てたのだ。

 

 当時はCランクだった中島にとって、14階層に生息するグールの大群とそれを率いるリッチは自分の能力の範疇外の化け物。


 その時にグールを殲滅し、圧倒的な剣術でリッチを塵に変えたのが黒瀬才斗だ。


 それ以来、中島は自分より年下の黒瀬をまるで師匠のように慕い、契約などの関係なしに冒険に同行したりもしていた。

 休日にランチに出掛けたりすることもあった。


 中島にとって、黒瀬は英雄。

 そして親友。


 黒瀬は、中島には自分の本当の目的(・・・・・)を明かしている。そして中島もそれに全力で協力することを約束していた。


 ――あ、才斗君だ。


「おーい、才斗くーん!」


 嬉しそうな声を上げる中島。

 だが、すぐに黒瀬が抱えている負傷した少女の存在に気付く。


富秋(トミー)か……助かった」


「何があったんだい? この()、凄い重症だよ?」


 こうして質問する間にも治療を始めている。

 中島は優秀な治癒師(ヒーラー)白桃(しらもも)の深刻な切り傷はすっかり塞がれ、壁に激突したことによる肉体へのダメージも軽減された。


 1分後には、白桃はスーッと穏やかな寝息を立てて眠りについていた。


 安堵の溜め息をもらした黒瀬は、力が抜けたようにその場に座り込むと、真剣な表情で中島を見る。


「闇派閥からの奇襲だ。奴ら(・・)がついに動き出した」






《キャラクター紹介》

・名前:中島(なかじま)富秋(とみあき)

・年齢:24歳

・職業:ダンジョン冒険者・治癒師(ヒーラー)

・身長:163cm


 黒瀬(くろせ)と親交のあるBランク冒険者。

 回復魔術が使えるため、冒険者の間で重宝される治癒師(ヒーラー)を担当することが多い。

 組織には所属せず、信頼の置ける冒険者とだけ契約を結んでフリーとして活動している。

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