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第102話 ソードナイトが強すぎてダイジェストでお送りする準々決勝第4試合

 一ノ瀬(いちのせ)雷電(らいでん)の戦いはなかなかに見応えがあった。

 悔しいが、雷電もまた実力者。


 俺よりも早いうちからSランク冒険者として活躍していただけに、経験の差と言うべきか――一ノ瀬と戦ってもしっかりと攻撃に対応する姿を見せていた。


 それは観客の(まい)ちゃんコールも影響しているだろう。


 一応は大人気のダンジョン冒険者。

 可愛いルックスでありながら、大手企業【ウルフパック】に所属するSランク。


 雷電を応援するために来たっていう観客も多そうだ。その次に西園寺(さいおんじ)推しが来るのかもしれない。


「雷電さん、人気ですね。可愛くて強いなんて、そりゃあ人気出ちゃいますよね」


「雷電はダンジョン配信市場が小さい時から活動していた古参だし、その時からのファンもいるだろうな」


「確かに、結構前から有名だった気がします」


「それに、楓香(ふうか)はそのうち雷電を超える。雷電より可愛いし、雷電より強くなるからな」


「……」


「どうした?」


才斗(さいと)くんって、ズルいですよね」


 ふと隣を見ると、顔をかーっと赤くした楓香が。


 そんな照れる必要はあるんだろうか。

 俺はただ本気で思ったことを言っただけだ。


「よう一ノ瀬さんとやり合えるなぁ。おれには絶対無理やわ」


 トーナメント初戦敗退で安心していた真一(しんいち)が呟く。


「死んでも生き返るのに、そんな怖いのか?」


「あのな、才斗。才斗は死んだことないやろ?」


「そりゃあ……まあ」


「死ぬのってとんでもなく(つら)いんやで。それに生き返るのだって条件付きやし、簡単なもんやない」


 少し憔悴した様子を見せる真一。

 姉さんがどこか申し訳なさそうに彼を見つめる。


「ごめんなさい」


「あ、いやいや気にせんでええて。いや、そうやなぁ……実はまだ気にしてるから、おれと付き合ってくれへん?」


「ごめんなさい」


 真一に彼女ができる日はまだまだ遠そうだ。




 ***




 いくら雷電が奮闘しようと、一ノ瀬が負けることはなかった。

 西園寺(さいおんじ)を本気でライバル視しているだけはある。


 雷電も一ノ瀬の攻撃に対応できてはいたものの、彼女が一ノ瀬を追い詰めるような展開にはならなかった。


「結局こうなるかぁー」


 真一は少し悔しそうだ。

 どちらかというと雷電の方を応援していたみたいだからな。


 俺としてはどちらも苦手なタイプだったので、感情的に観戦することはなく、冷静に一ノ瀬の勝利を眺めていた。


 準々決勝の最後の舞台に上がったのは、【バトルホークス】のSランク冒険者と、お待ちかねの山口剣騎(けんき)


 もしここで剣騎が勝ち上がれば、準決勝は4人のうち3人が【ウルフパック】所属の冒険者ということになる。

 そもそも【バトルホークス】から出場しているSランク冒険者が3人しかいないという話もあるが、【ウルフパック】のアピールには十分だろう。


 剣騎とフィールドで向かい合っているのは、【バトルホークス】の梶山(かじやま)千尋(ちひろ)

 30歳くらいの女性冒険者だ。


 何度か会ったことはあるものの、直接会話をしたことはない。


「千尋さんも強いけど、剣騎には敵わんやろなぁ」


 真一が言った通り、剣騎は開始1分ほどで勝利を確定させた。

 決して梶山が弱かったわけじゃない。剣騎が強すぎた。


 梶山のトーナメント1回戦での相手は真悠(まゆ)姉さんだった。真悠姉さんはもちろんSランクなので強いものの、治癒師(ヒーラー)としての実力が高いので、対人戦はさほど得意じゃない。


 今この観客席にいないのは、負傷した冒険者の治療を担当しているから。

 日本でSランクの治癒師(ヒーラー)は真悠姉さんしかいないのだ。とんでもなく貴重な存在ということでもある。


「でも山口さん、準決勝の相手は神宮司(しんぐうじ)さんですよね? さすがに勝つのは……」


「剣騎には悪いが、かなり難しいだろうな」


「ですよね……」


「最初から決め付けるのは好きやないけど……そうやな、それに関してはうんとしか言えんな」


 準々決勝で勝利を収めた剣騎は、次の準決勝のことを考えていたのか、勝利の笑顔や余裕の笑みを見せることなく、緊張した表情のまま控え室に戻っていった。


「あの人、諦めてない」


「え?」


 その様子をじっと見ていた姉さんが、何かを感じ取ったように呟く。


「さっきの西園寺(さいおんじ)さんと同じ。オーラが膨れ上がってきてる」


「準決勝の前準備ってことか」


「スピードで倒そうとしている可能性がある」


 ――スピードか。


 確かに長期戦に持ち込めば持ち込むほど、強者との戦いはきつくなる。


 なら自分の出せる全ての力を、最初の一撃につぎ込むしかない。そこで大きなダメージを負わせることができれば、いくらか有利に戦いを進めることができる。


 とはいえ、相手は神宮司。

 エルフだからこそ出せる、人間離れした速度で俺たちを圧倒する男。それでいて、魔法も使うことができる。


 神宮司の強さについて考えれば考えるほど、彼の異常なまでの隙のなさが際立っていく。


「どうすれば神宮司さんに勝てるんだろうな」


「おれには無理やな。ま、結局西園寺さんも神宮司さんも仲いいんやろ? やったら対立関係になることもないやろーし、おれたちが戦うのはダンジョンのモンスターだけ。そう思ったらええんちゃう?」


 俺の口からぽろっとこぼれたセリフに、気楽な感じで答えてくれる真一。


 ――対人関係になることはない。


 そうかもしれないが、もし何かの間違いで神宮司皇命(こうめい)が人類の敵になってしまったら……それは日本にとっての最大の脅威だと、この時思った。

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