第101話 最強同士が仲良しだとなんか安心するというアレ
結論から言うと、神宮司と【バトルホークス】冒険者の川崎の戦いは、一瞬で終わった。
川崎は初めて見たSランク冒険者だ。
彼が実力者であることは間違いないが、今回ばかりは戦う相手が悪い。
神宮司もまた、西園寺と同様に――いや、西園寺以上に理不尽な力の持ち主。
俺と楓香が全力で戦って敵わなかった相手を、ワンパンで倒した男だ。
何かブツブツと呪文のようなものを唱えていたかと思うと、オーラが神宮司に一点集中し、真っ赤な炎となって川崎に降り注いだ。
「あれ、魔法ですか!?」
「……魔法だ」
「嘘やん! あんなんチートやって!」
「……」
「嘘でしょ」
西園寺の光波動に引き続き、こちらもまた、信じがたい光景だった。
西園寺と違うのは、彼の攻撃が威圧感を生んでいないというところ。
神宮司のオーラは実に自然で、実力者の気配を意識させないほどにまで抑えている。
火炎放射を済ませると、右手を顔にさっとかざし、勝利のポーズを取った。
『きゃー! かっこつけてる! 可愛いー!』
『おい、号外スクープだ! 神宮司は中二病だぞ!』
『強すぎる……こりゃあ優勝確定だな!』
多様なコメントが流れてくるが、神宮司という個性強すぎな冒険者もまた、人気が出そうだな。
神宮司ブームが起こったりするのかもしれない。
例の会見後の西園寺ブームみたいに。
「才斗……」
歓声が落ち着くと、妙に悟ったような表情をした真一が俺を優しく見つめてきた。
「あの化け物と戦わずに済んで、良かったな」
珍しく真一がまともなことを言う。
俺は素直に頷き、真一とグータッチを交わした。
***
神宮司は準々決勝での出番を終えると、常人が目視できないほどの速度で会場の外に繋がるベランダに出た。
新鮮な空気を吸いたいという気持ちからだったが、もう1つ、大きな理由があった。
「余の力はあまりに強大すぎた……また伝説を残してしまったか……」
可愛げのある声で、イタいセリフを吐く迷宮の主。
その背後には外のベンチに腰掛ける西園寺がいた。
神宮司と西園寺の密会。
ここはベランダだ。
試合に出場する冒険者しか入ることができないし、外からの一般客の視線が入らないように作られている。
西園寺はちょうどその時、一瞬で現れた神宮司に気付かず、ベンチで静かに読書していた。
「ちょっと、龍河殿! 無視するとは酷いではないかぁ!」
「……皇命?」
「や、やっと気づいたのかぁ。もう、ちょっと寂しかったんだぞ」
「読書に集中していた」
「ならば許そう。読書は時を忘れる素晴らしき異世界への扉だ」
神宮司がちょこちょこと西園寺の方に寄り、すぐ隣にちょこんと座る。
そのまま西園寺の太ももにぽんぽんと、小さな手を置いた。
「久しぶりであるな、我が友よ」
「その口調も相変わらずか」
「えっへん」
神宮司と西園寺は友人だった。
今日に至るまで、日本の冒険者界を盛り上げてきたトップの2人。
親交があってもおかしくはない。
しかし、会う機会は少なく、お互いについて知っていることはさほどなかった。それでも、ダンジョンで顔を合わせれば親しく会話するし、日本を引っ張る存在同士、ライバル意識も持っている。
「どうやら、決勝で戦うことは避けられないようだ」
「ふむ。余も日々の鍛錬で力を増した。決勝が楽しみである」
「準々決勝はどうだった?」
「一撃。余の炎魔法に川崎殿も撃沈であった」
ここでもポーズを決める神宮司。
「そうか」
「貴君は……準々決勝であの技を出しても良かったのか? 確か寿命が5年も失われるのでは?」
「あの超能はいざという時にしか使わないつもりだったが……思っていた以上に追い詰められたようだ」
そう言って、一度は斬り落とされたはずの右腕を動かす西園寺。
今ではすっかり元通りにくっついていた。
これもまた、超能によるものだ。オーラで腕を接合した。
「鬼龍院殿もなかなかに侮れない存在になりつつあるも、やはり貴君には及ばぬ」
「腕を斬り落とされたのは予想外だ」
「ふぅ。じゃあ鬼龍院殿めっちゃ凄いね」
ほんの一瞬だけ微笑み合い、そしてまた真剣な表情に戻る。
「もし準決勝、そして決勝でも超能を使うのなら、貴君の寿命は今日だけで15年も失われることになる。友として……それは悲しきことだ」
「心配することはない。Sランクへの昇華により、私の寿命も常人よりずっと伸びている。15年など……さほど大きなものではない」
「小さな蓄積が、ここぞという時の切れ味を落としてしまうこともある」
「そうかもしれない」
ダンジョンの恐ろしさ。
モンスターの狡猾さ。
ダンジョンの理不尽。
この多くを経験してきている西園寺と神宮司にとって、命というのは儚いものであり、同時に何よりも大切なものだ。
話が一旦詰まったので、神宮司がごほんと咳払いして話題を転換する。
「龍河殿の準決勝の相手は信長殿になる感じ?」
「口調がブレているぞ」
「えーい、これも結構疲れるんだ。普通に話していいー?」
「構わない」
「やったね」
無邪気な笑みを浮かべる日本最強冒険者。
ちなみに、西園寺にふにゃふにゃな姿があることを、神宮司はまだ知らない。
「それでまあ、ノブたんと戦っても余裕で勝てるでしょ?」
「近くで見ている限りだと、追い抜かれてはなさそうだ。だが……ちょうど今あっている準々決勝で雷電舞姫が勝ち進む可能性もある」
「あーね。みんなのアイドルだもんね、あの娘。観客からの人気とか凄そう」
「最近の冒険者業界は人気商売な傾向がある……ファンの力も侮れない」
「だね。でもそれでいったら、龍河たんの人気も凄いじゃーん」
「そんなことはない」
「そんな謙遜しないでいいってー。威厳ある、才たん想いの社長ってことで、若い世代を中心に盛り上がってるらしいし」
「……」
「そういえば、噂で耳にしたんだけど、西園寺龍河、実はふにゃふにゃ社長だった、なんて都市伝説、面白いよね。龍河たんがそんなふにゃふにゃなはずないし」
「……そうだな」
衝撃の事実が噂として流れていることを知り、冷や汗をかく西園寺であった。