第100話 美女たちが一緒に暮らすとか言い始める恒例のハーレム
準々決勝の1回戦。
西園寺VS鬼龍院の激戦は終わりを告げた。
西園寺の放った派手な必殺技のせいで、多くの観客が気を失い、改めて我らが社長の恐ろしさを実感できた。
あれだけの攻撃を浴びていれば鬼龍院が死ぬんじゃないかと心配したが、殺しはルール違反だ。西園寺もいろいろ考えて手加減したに違いない。
鬼龍院はピクリともしない状態で倒れていたが、普通に息はあるようだった。
「これが西園寺さんの本気……怒らせたら終わりやん……」
真一の震えは止まらない。
今回の一件で、真一の西園寺恐怖症がさらに深刻なものになったのは間違いなかった。
***
「派手な光だったね。西園寺さんに超能を使わせたってことだ」
「……」
控え室にいる山口と一ノ瀬。
東京全体を明るく照らした西園寺の光は、当然ながら控え室にも大胆に入り込んでいた。
その光を見て、戦場で何が起こったのかを察した2人。
「西園寺さんも、ここで貴重な1発を使っちゃうとはね。それだけ勝ちにこだわってるってことなのかな」
「当然だ。負けを望む冒険者などいるはずがない」
「でも西園寺さんは……代償が重いよ」
「……」
「あの光は勝利の光でありながら、破滅の光でもあるんだからね」
「代償なしで力など手に入らない」
「かっこいいこと言うね。でも僕は嫌かな。とんでもない強さと引き換えに、自分の寿命を差し出すなんて」
山口の一言が控え室に静寂をもたらした。
2人の他の待機者は、観客席でギリギリまで観戦を楽しむことを選んでいるため、ここにはいない。
この時、実力者2人の頭の中にあったのは、西園寺の寿命がまた5年縮んだ――その事実だった。
***
次の冒険者が入場してくる。
この準々決勝に残ったのは8名。
ベスト8に残っているという時点でかなりの実力者であることは確定だが、その細かい能力や戦闘の癖もまったくわからない以上、どちらが勝つかなどと容易な予想は立てられない。
準々決勝2組目の冒険者は、俺の知らない【バトルホークス】のSランク冒険者と、優勝の最有力候補、日本唯一のSSランク冒険者、神宮司皇命だった。
神宮司が入場してくると、会場全体がどよめく。
絶対的強者の登場でテンションが上がっているだけだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「今回はフード外してるみたいですね」
「フード?」
楓香のさらっとした一言を受けて、聞き返す。
「1回戦ではフードを深く被っていたので、顔がよく見えなかったんですよ」
「そういうことか」
すでに一度ダンジョンで会っているからわかるが、神宮司は人間じゃない。
強すぎるという意味でも人間じゃないが、生物学的な話でも、ヒトじゃないことは確かだ。
背丈が120センチほどしかない、小さなエルフ。
肌はほんのりと緑っぽく、特徴的な耳はツンととんがっている。
「ここで派手に公表しても大丈夫なのか?」
「意外と、みんな受け入れてる」
俺の疑問に答えたのは姉さんだった。
周囲をボーっと見つめながら、淡々と述べる。
その答えもあながち間違いじゃなさそうだ。
『きゃー! 可愛いー!』
『お耳がツンツンしてるー!』
『おい! あれ見ろ! 号外スクープだっ! 神宮司はエルフなんだっ!』
少し耳をすませてみただけでも、ポジティブな言葉が多く飛び交っている。
可愛いとか言ってたら、この後の戦いのギャップで頭がおかしくなるぞ。
そう警告してやりたい。
「まじか! ロード・オブ・ダンジョンってエルフやったん?」
ジト目で真一を見る。
「なんや才斗! 知ってたん?」
「ダンジョンで会ったことがある」
「遭遇率かなり低いぞ。それ偶然?」
「多分」
真一曰く、神宮司に遭遇する確率は宝くじに当選する確率よりも低いらしい。
いくらダンジョンが広いといっても、ずっとダンジョンに潜っていれば低い階層ですれ違ったりしそうだが……神宮司があまりに早くダンジョンを移動するせいで、ランクの低い冒険者にはまったく見えないそう。
Sランク冒険者であっても、それは一瞬だとか一瞬でないとか。
どっちなんだ。
「つまり、神宮司さんは謎に包まれてるってことですね」
単純だがまさにその通りな結論を、楓香がまとめてくれる。
「いいですね、ミステリアスな感じ。わたしと才斗くんの夜の生活とか、ミステリアスだと思いません?」
「えっちとか、してないよね?」
姉さんが氷の瞳で楓香を見る。
「それはミステリーです。まあでも、とりあえず最高に気持ちいい――」
「今日から才斗の家に住む。才斗の家は私の両親の家だから、私の家でもある」
「姉さん?」
「実家に帰るのは問題ない、よね?」
「……確かに」
「むうー! 才斗くーん!」
部屋は他にもあるし、あと3人くらいは余裕で住めそうだな。
「だったらあたしも住ませなさいよね! あたしの家も東京にあるから、あんたの家もあたしの実家みたいなもんでしょ!」
その佐藤の理論こそミステリーだ。
「ならおれも! 美女3人と暮らせるとか楽園やな!」
可哀想な真一。
ノリで言っただけなのに――そうだと信じたい――美女3人には本気で嫌そうな顔を向けられていた。