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 黙って話を聞いていたエドガーは不思議そうに尋ねた。


「なぜ見知らぬ少女のためにそこまで体を張ったんだ?」

「子はみな、国の宝ですから」

「だが、そのせいであなたは顔に深い傷を負ってしまったではないか。後悔しているだろう?」

「いえ、しておりません。もしもあのまま誘拐されてしまっていたら、あの少女はきっと人身売買などの被害にあい、命の保障すらありませんでした。それを未然に防げたと思えば、顔の傷などとるに足らぬことです」


 けれど、今日アイリーンは改めて顔の傷が与える印象について考えさせられた。

アイリーンの顔の傷を見た人たちは皆、同情的な目を向けてきた。気の毒そうに遠巻きに見つめる人もいれば、悲鳴を上げたり「酷い傷だ」とわざわざ口に出す人もいる。

仮面をつけている間はチヤホヤしてきた貴族の男性たちは、アイリーンの顔に傷があると知った瞬間手のひらをかえした。


 この顔の傷は人の心の善悪を推し量る上で、最大の武器になるのかもしれない。

 アイリーンがそんなことを考えていると、エドガーは何かを考え込むように押し黙った。

室内に訪れる静かな時間にも関わらず、気まずさはない。

 エドガーがなにも言わないのを良いことにアイリーンは向かいに座るエドガーを注意深く見つめた。


(見れば見るほど、素敵な人だわ)


 黒いジャケットは青と金色の艶やかな刺繍が施され、ボタンは金にダイヤを埋め込んだものだ。首元に巻かれたクラヴァットの折り目の中からは、青いダイヤが燦然と輝いている。彼が身に着けているものはすべて上質なものだ。けれど、アイリーンはそうした装飾品よりも、なぜか彼自身に興味をひかれた。


アイリーンの目の下の傷を見ても顔色一つ変えなかったのは、あの場にいた大勢の中でエドガーただひとりだけだった。さらに、初対面ながらその理由まで尋ねてきたから驚きだ。


「あなたは美しいだけでなく、強い人だ」


 ふいにエドガーが微笑んだ。アイリーンはその笑顔に釘付けになった。冷徹で生真面目で堅物そうな男性だと思っていた彼が見せた不意打ちの笑みに、心臓がトクンッと音を立てて鳴る。


(しかも、わたしを美しいと言ったわよね?)


体温が急上昇したかのように頬が熱くなり、みるみるうちに赤くなる。それを悟られるのが恥ずかしくて、アイリーンは膝の上のスカートを両手で握りしめてうつむいた。


「この後はどうする?」 


 その言葉にアイリーンは弾かれたように顔を上げた。

 さきほどまでの笑みは消え、エドガーは固い口調で尋ねる。


「……もしかして、わたしを誘っておられるのですか?」


 匿名性の高い仮面舞踏会では、各々部屋をとり気に入った令嬢を部屋へ誘い込み、不謹慎な行為を楽しむ貴族も多い。現にこの部屋の奥にも整えられた寝台がある。

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