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「あの、これはいったい……」

「アイリーン嬢、私と結婚してください」


 なんの淀みもない口調でそう告げられて、アイリーンはパチパチと目をしばたいた。

 エドガーの言葉には、先程アイリーンに甘い言葉を囁いてきた男達のような下心が感じとれなかった。


 彼の左足はいまだに震えていた。先程のように体勢を崩さぬよう、ぐっと奥歯を噛みしめて体中に力を込めているのがわかった。エドガーはそっとアイリーンの手を取り、右手の甲に優しく口づけた。瞬間、大広間が一気に騒がしくなる。

 阿鼻叫喚とはこのことだろう。あちこちで令嬢の悲鳴があがるところを見るに、エドガーは相当な人気があるらしい。


「ええ、喜んで」 


エドガーの意図をすぐに理解したアイリーンは、何の迷いもなくにっこり微笑んで告げた。

彼の左足はもう限界だろうと見越して手を握る振りをして、そっと両手を貸してエドガーが立ち上がるのを補助する。


「なっ……お義姉さまが結婚……? お、おめでとう……。嬉しいわ」


 一部始終をそばで見つめていたソニアは、愕然としたように呟き両手で顔を覆った。

そばにいた男性が喜んで泣いているふりをするソニアを心配して、背中をさする。ソニアはこんなときでも、義姉を祝福する心優しき妹を完璧に演じきった。


「出よう」


 エドガーと共に大広間を出て、使用人の案内でゲストのために用意された別室へ移動する。

 部屋の扉が閉まり二人きりになる。


「座って少し話をしよう」


 テーブルを挟んで向かい合って座る。エドガーは怪我でもしているのか、ソファに座る動作がわずかにぎこちなかった。


「グレイス卿、先程はありがとうございました」


 アイリーンはスッと背筋を伸ばした後、丁重に頭を下げた。


「堅苦しい呼び方をされるのは苦手だ。エドガーと呼んでくれ」

「承知しました。では、エドガー様と呼ばせていただきます」


 容姿端麗なエドガーとの婚姻を望む令嬢は数多いることだろう。先程の舞踏会でもひと際目立つ彼にたくさんの令嬢が熱い眼差しを向けていた。

さらに彼は辺境伯爵だという。辺境伯といえば田舎の領主だと思われるが、我が国では国の国境を守る領主であるため、他の伯爵よりも強い権限が与えられている。強力な騎士団や交易ルートを持つ国の北側に位置するサンドリッチ領は特に顕著であった。

母が生きている頃、隣の強国が我が国へ攻め入ろうと奇襲を仕掛けてきたことがあった。王都の騎士団は待ちあわず、北のサンドリッチ領の騎士たちが一丸となり防衛した。

結果、敵国兵士を返り討ちにしたのだという。


そこからサンドリッチ領の騎士団は国内最強とうたわれるようになった。現在その騎士団を束ねているのは、アイリーンの目の前にいる男、エドガーで間違いなかった。

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