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「噂で聞きましたわ。辺境伯様がお義姉様に求婚されたのは、お義姉様を見初めたからではないと」

「ずいぶんくだらない噂だな。一体何を根拠にそんなことを言っているのか分からない」


 貴族たちの暇つぶしの噂を真に受けるソニアを心の中で嘲笑う。


「辺境伯様はたくさんの令嬢から交際を申し込まれていたようですね。それを煩わしく思われて、あの舞踏会の日にお義姉様に白羽の矢を立てたんではありませんか? もらい手のいない傷モノのお義姉様が相手なら、辺境伯様の意のままに操れますものね?」


 ソニアは確信を持ったように尋ねた。

令嬢から交際を申し込まれてうんざりしていたのは事実だ。見たことも聞いたこともない令嬢から写真が送られてきたことも一度や二度ではない。興味のない女性からの一方的な好意はエドガーにとって煩わしいだけだった。

 けれど、毎回丁重にお断りしていた。

エドガーの両親は政略結婚ながら、仲の良い夫婦だった。二人が喧嘩をしている姿を見たことは一度もない。父は愛人を作らなかった。一途に母だけを愛する父をエドガーは誇りに思っていた。いつか自身が大人の男になった暁には、父のように妻だけを愛そうと心に固く決めていた。


「……だったらなんだ」


 辟易した。同じ空気を一分一秒たりとも吸いたくないぐらいにソニアの存在に嫌悪感を抱いた。ここで否定したとしても無駄だ。あらぬ噂を流し、アイリーンとの仲を引き裂こうとソニアが躍起になるのが目に見えている。


「やっぱりそうなんですねっ。お義姉様ってばなんて可哀想なのかしら! 一生、辺境伯様にこき使われて生きていく虚しい人生を送るのね。ふふふっ、それでは、わたしはこれで。失礼いたします~」


 ソニアはアイリーンの不幸を喜び、クスクス下衆な笑い声をあげながらエドガーの前から去っていく。


(なんと心の汚い女だ……)


 アイリーンが今までどれだけ苦しめられてきたかと考えると、胸が苦しくなり張り裂けそうになる。イベルトン伯爵にもオゼットにも事情を説明し、もう二度と義妹をパーティに誘うなと釘を差しておく必要がある。 アイリーンと義妹を会わせたくない。


「――エドガー様」

「アイリーン、遅かったな」


 エドガーが振り返る。そこにいたアイリーンの顔は青白く、わずかに体を震わせていた。


「どうした、具合が悪いのか? 今すぐ帰ろう」


 エドガーはアイリーンの体を右腕で支えてゆっくりと馬車へ向かって歩き出した。 

 真っ黒い雲が空を覆う。馬車に乗り込んだタイミングで雨が降り始めた。馬車の車体をぽつぽつと叩く雨はどんどん激しさを増していく。行きと違い帰りの馬車は重苦しい空気に包まれていた。

 アイリーンは窓の外を見つめたまま言葉を発しようとしない。

具合が悪いのかと尋ねても黙って首を横に振るだけだ。アイリーンの様子がおかしくなったのは手洗いから戻ってきてからだ。もしかしたら、義妹のソニアとの会話を聞かれたのかもしれない。だとしたら、きちんとその誤解を解かなければならない。


「アイリーン、話を――」


 言いかけてエドガーは口をつぐんだ。アイリーンは明らかに元気を失い憔悴した様子で、声を掛けることすら憚られた。今は無理に話をしようとしないほうがいいのかもしれない。

 エドガーは不甲斐なさを抱きながらもそっとアイリーンを見守ろうと決めた。

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