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「美味しいわ。シーナの淹れてくれる紅茶は格別なのよ。ほら、冷めないうちに飲んで?」


 オゼットはまるでこの屋敷の主人のような振る舞いをする。けれど、嫌な気持ちにならない。彼女からの悪意が全く感じられないからだ。


「そうするわ」


 紅茶をこくりと飲み下す。鼻に通り抜ける香りとちょうどいい紅茶の甘みに思わず頬が緩む。


「美味しい……」

「このクッキーとの相性も抜群よ」


 お皿のクッキーをつまんで口の中へ運ぶ。


「本当ね。すごく合うわ」

「でしょ?」


オゼットは得意げな表情で鼻を鳴らした。

 好きなお菓子の話題でアイリーンとオゼットは盛り上がった。どちらも甘党で洋菓子に目がない。さすが伯爵令嬢だけあってオゼットはアイリーンが知らない洋菓子をたくさん知っていた。特に隣国のお菓子の話は興味深く、アイリーンは長い時間オゼットの話に耳を傾けた。

 二杯目の紅茶を飲み終えて、オゼットはこう尋ねた。


「そういえば、シーナはあなたの専属侍女になったの?」

「ええ。いつも笑顔でいてくれるから、こちらまで明るい気持ちになるの」

「でも、あの子っておっちょこちょいでしょう?」

「少しだけね。でも、それが好ましいの。シーナといると笑ってばかりよ。一緒にいると、心が癒されるの」


 屋敷を案内してくれている間も、ちょっとした裏話を付け加えてアイリーンを笑わせてくれた。なにもないところで躓いたり、壁にぶつかったりちょっとだけ天然気味なところはあるけれど、仕事ぶりは完璧だ。彼女は優秀な侍女だった。


「わたし、あなたが好きだわ」


(え? 急にどうしたのかしら……)


 あまりに唐突な告白にアイリーンは固まった。


「子供の頃に何度か遊んだことはあったけど、わたしと友達になってちょうだい。他の令嬢はくだらない噂話と陰口しか言わないから一緒にいて楽しくないのよ。でも、あなたは違うわ」

「ええ、わたしでいいならぜひ」

「あなたがいいのよ、アイリーン」


 オゼットは穏やかに微笑んだ。


「さすがエドが選んだだけあるわね。浮いた話のひとつも聞いたことがなかったエドが求婚するなんて正直言うと驚いたわ。でも、今日あなたと言葉を交わして納得がいった。エドはきっとあなたの優しさに惹かれたのね」

「そんなこと……」

「謙遜してはダメよ。あなたは優しいけれど、もっと自分に自信を持って胸を張らないといけないわ。あなたにはそれだけの価値があるもの。舞踏会のときみたいに義妹に屈辱的な扱いを受けて黙っているなんて、絶対に許さないわ。あの日のことを思い出すだけで、わたしはいまだにあの可愛い顔をした小悪魔を引っぱたいてやりたい強い衝動に駆られるんだから」


 アイリーンは同意するように深く頷いた。尊厳やプライドはもちろん、目に見える形で奪われた物もたくさんある。


「オゼットの言う通りだわ。わたしは継母とソニアにたくさんのものを奪われたの。母がいつもつけていたイヤリングも結局取り戻せなかったわ」

「思い出深い物だったの?」

「ええ。祖母にもらったもので、母は亡くなる直前まで付けていたの。涙の粒のような形の翡翠色のイヤリングだったのよ」

「そう……。残念ね。あの義妹にはきっと遅かれ早かれ鉄槌がくだされるはずよ。少なくともわたしはそれを願ってる」

「ありがとう。あなたが味方になってくれると思うだけで心強いわ」


 オゼットは目が合うと、少し照れくさそうに頬をかいた。


「話が脱線しちゃったわね。とにかく、わたしが言いたいのはエドと正式に結婚したら、彼の妻になってサンドリッチ領をふたりで支えていかなければならないってこと。選択には常に責任がつきまとうわ」


 厳しい言葉も友のアイリーンを思ってのことだろう。しっかりしろと言われているようで、背筋が伸びる思いだった。


「そうね、わたしにはまだその自覚が足りていなかったわ」 

「ああ……ううん、違うの。あなたを責めるつもりはなかったの。ああ、もう。こういうところが、ダメなのよ。だから友達ができないのに……」


 確かに舞踏会のとき、男性陣からひっきりなしに声を掛けられてはいたものの、令嬢からは白い目で見られてコソコソと噂されていた。


「わたしは、裏表のないさっぱりした性格のオゼットが好きよ」


 オゼットはどちらかといえば、気が強くて言いたいことはなんでもハッキリ言う性格だ。恐らく敵も多いだろう。けれど、外面がいい人よりもよっぽどいい。

傲慢で我儘放題の振る舞いをしながらも、一歩外に出ると猫を被って穏やかに微笑む。そんな二面性のあるソニアのような人間とは真逆の性格のオゼットをアイリーンは好ましく思った。


「……本当に?」

「ええ。わたしも友達がいないの。だから、もっとあなたと仲良くなりたいわ」


 アイリーンの言葉にオゼットは喜びを堪えきれない様子で口をもごもごさせた。

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