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「何て言い草かしら! アンタ、ソニアがやったって言いたいの!?」

「お義姉さまったら、酷いわ! それにお母様にもなんと無礼なことを……」


 目を吊り上げて激怒する継母と今にも泣き出しそうに目を潤ませるソニアの姿に、やれやれと息を吐く。


「溜息をつきたいのはこっちよ! 引きこもって絵ばっかり描いて、なんの役にも立たないゴミを家に置いておかなければならないわたしたちの気持ちがアンタにわかる?」


 それを見ていた継母がギリギリと奥歯を噛みしめてアイリーンを睨んだ。


「傷モノで価値のない人間の分際で偉そうなことを言うんじゃないわよ! ああ、嫌だ。その顔の傷を見るだけでゾッとするわ! 汚らわしい!」

「奥様……! そんな言い方あんまりです。アイリーンお嬢様のお顔の傷は――」


 継母は短気な性格ですぐに癇癪を起こす。使用人に怒りの矛先が向くことを案じたアイリーンは、すぐに使用人を手で制した。


「汚らわしい……? わたしの顔の傷は伝染病ではありませんので、ソニアにはうつりません」

「揚げ足をとるんじゃないわよ! 見た目が汚らわしいって言ってるのよ! 醜いその顔のせいでもらってくれる男性もいないくせに、生意気な口を叩くんじゃないわよ!」


 アイリーンは動じず、冷静さを保ったままだった。

彼女は十六歳になるまで心優しくも厳しい母に淑女教育や行儀作法だけでなくありとあらゆる教養を叩き込まれた。そのため、彼女の自尊心は高かった。継母たちにいくら虐げられたとしても、心を折られることはない。クロムド子爵家の正当な血を引くのは自分なのだと口には出さずとも自負し、誇りに思っていた。


「おっしゃる通りです。ですが、わたしは社交界デビューもできず、顔に傷を負ってからはこの家から一歩もでておりません。継母様はわたしがこの家から出て行くことを望まれているようですが、このままでは一生男性と出会うキッカケがありません」


 すると、継母とソニアは目を見合わせて、ブッと吹き出した。二人は嘲りを含んだ笑い声をあげる。


「ふふっ、お義姉さまったら、笑わせないでちょうだい。社交界デビューできればお相手が見つかるなんて思っていらっしゃるの?」

「アンタの醜い顔の傷を見て、見初めてくれる男性がいるなんて、そんなのおとぎ話よ。確かにその傷がなければアンタは引く手あまただったでしょう。でもね、わざわざ傷モノと結婚しようなんていう物好きはいないのよ。いたとしても年の離れた貧乏な庶民でしょうけど」


 負けず嫌いの継母の操り方を、アイリーンは心得ていた。


「では、来週行われるイベルトン伯爵家の仮面舞踏会への参加をお許しくださいませ」


 イベルトン伯爵家は今は亡き父の親友が当主を務めている。先日、わたしとソニア宛に招待状が送られてきていたのは確認済みだ。


「お義姉様も考えたわね! 仮面舞踏会なら顔の傷が見えないものね。ふふっ、お母様、いいんじゃない?わたしもお義姉様と一緒に参加したいわ」

「そうね。まあ、好きにしたら? 例えうまくいったとしても、その仮面を剝がされたら全て終わりよ」


 こうしてアイリーンはうまく参加を取り付けたのだった。

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