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「こちらでの生活に早く慣れるよう、アイリーンに力を貸してやって欲しい」

「承知しました」


 使用人は合わせたかのように同時に頭を下げる。使用人たちが当主であるエドガーに信頼を置いているのが手に取るように分かった。

 すると、すらりと細身の男性がアイリーンの前まで歩み寄り丁重に頭を下げた。


「初めまして、私は執事のルシアン・クインと申します。どうぞルシアンとお呼びくださいませ。この屋敷のことでお困りのことがありましたら、なんなりとお申し付けください」


 ルシアンは中世的な雰囲気を醸し出した美麗な男性だった。グレイ色の長い髪を一つに束ねて洒落た丸メガネをかけている。身長はエドガーよりはほんのわずかに低いが、高身長に分類されるだろう。

 年齢は三十代半ばほどだろうか。話し方やテンポから知的さがにじみ出ている。ルシアンがこの巨大な屋敷を管理する重要な役目を任されているのも頷ける。 


「ありがとうございます」

「それにしても、お美しい方だ。堅物のエドガー様もさすがに美女には弱――」

「――ルシアン」


 エドガーが口を挟み、ルシアンをギロリと睨み付けた。ルシアンは臆することなく柔和な笑みを浮かべて、肩を竦めた。

聡明そうな見た目に反して、ルシアンは意外にお茶目なところがあるようだ。エドガーとの仲の良さを感じてほっこりした気持ちになる。

ルシアンと簡単な挨拶を済ませたあと屋敷へ入り、アイリーンは言葉を失った。


 玄関を抜けた先には、金の帯飾りのついた大理石の列柱が石敷きの床のはるか先まで続いている。左右には大きな銅像が点々と置かれ、壁には古めかしい旗や武器が飾られている。

 アイリーンは自然に開きそうになる口をしっかりと結んだ。


「食事の時間までまだ少し時間がある。長旅で疲れているだろう。部屋で休んんでもいいし、風呂へ入って疲れをとってもいい。この屋敷の中では自由に過ごしてくれて構わない」

「ありがとうございます」


 エドガーの配慮にお礼を言って去っていく背中を見送る。ルシアンとともに部屋の前まで辿り着いたとき、バタバタと足を踏み鳴らして若い女性がアイリーンの元へ駆け寄ってきた。


「アイリーン様、お待たせして申し訳ありません!」

「シーナ、少し落ち着きなさい。この者がこれからアイリーン様の専属侍女として身の回りのお世話をいたします」


 ルシアンはやれやれと息を吐いた後、シーナの背中にそっと触れて優しく促した。


「は、は、はじめまして。シーナ・ワイズと申します。シーナと呼んでくださいませ。どうぞよろしくお願いいたします」


 侍女のシーナは焦げ茶色の髪を後ろで一つに束ねていた。前髪は眉の下で切りそろえられている。ぱっちりとした二重の瞳と素朴な表情が印象的だった。


「こちらこそよろしくお願いします」


 シーナとの挨拶を済ませたのを確認し、ルシアンはアイリーンに小さく頭を下げて去っていった。

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