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「アイリーン嬢と結婚したいという私に違う女を勧めるとは、私を侮辱しているのか?」


 わずかな怒りのこもった口調に継母が慌てて首を横に振る。


「そうではありません! ただ、アイリーンは――」

「言い訳など聞きたくない。あなたたちは今までもこうやって彼女へ心無い言葉を浴びせてきたのだろう」

「エドガー様! どうしてそんなに冷たいことをおっしゃるのですか? わたくしもお母様もアイリーンお義姉様にそのようなことはしておりませんわ」


 ソニアは子犬のようにうるうると目を潤ませ、ぽろりと涙を流して見せた。腹黒いソニアは見た目だけでいえば純粋無垢に見える。

迫真の演技で騙してきた男性はひとりやふたりでは済まないだろう。もちろんそれは男性だけに限らない。

今までもアイリーンは何度もソニアによって陥れられてきた。一体どの口が言うのかと、アイリーンは内心で呆れた。


「私を勝手に名前で呼ぶのはやめろ。気分が悪い」

「なっ……」


 堅苦しい呼び方は苦手だと言っていたエドガーは、心底不愉快そうにソニアを睨み付けた。媚びを売ったにも関わらず受け入れてもらえなかったソニアは唖然とし、口元を引きつらせたまま固まる。


「そんな分かりやすい泣き落としが通用するとでも思っているのか? 私も舐められたものだ。ここへ来るまでになにも調べずにいたとでも?」

「そ、それはいったいどういう意味でしょうか?」


 継母の顔が初めて強張った。エドガーの存在が自身にとって脅威になると今更ながら気付いたようだ。


「クルムド家の内情はすべて調べがついている。我々の諜報力を侮るな。もしまた私の前でアイリーン嬢を侮辱してみろ。次はないぞ」


 エドガーは二人を一瞥した。どちらも悔しそうに唇を噛みしめているだけで、なにも言い返すことができない。


「アイリーン嬢、どうやら結婚を認めてもらえたようだ。これから私の屋敷へ向かう。用意をしてきてくれ」

「エドガー様、お待ちください」


 アイリーンはエドガーを引き留めた。エドガーは隣に座るアイリーンに目を向けた。


「実は、舞踏会の翌日、母の形見であるネックレスが消えてしまったのです。あのネックレスを見つけるまでは私はこの屋敷を離れることができません」

「舞踏会の翌日とはなんとも妙だな……。あなたたちはなにか知らないか?」

「いえ、わたくしたちは何も知りません」


 継母の目が分かりやすく泳ぐ。


「ネックレスが勝手にどこかへ行くとは考えられない。となれば、この屋敷のどこかにあるのだろう。屋敷中を隈なく探す必要があるな」

「お、おやめください! いくら辺境伯様とはいえ、そのような権限はございませんわ!」

「では、この家にいる使用人全員をここへ集めてくれ。アイリーン嬢のネックレスを見つけた者には、手柄として1000万ポルズを支払おう」

「なんですって!?」


 継母が叫ぶのも無理はない。1000万ポルズはこの国で一年間は豪華に遊んで暮らせるほどの金額だった。

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