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 いつものように庭の花のスケッチをしていたとき、アイリーンは騒ぎに気付いた。

 スケッチブックを置いて青い顔をしている使用人に近付いて行き声を掛ける。 

 どうやら義妹が庭でイヤリングの片方を落としてしまったようだ。


「ないわね。本当にここに落としたのかしら」

「アイリーンお嬢様! このような雑用は私たちにお任せください」


 使用人が慌てるのも無理はない。園庭の芝生の上に膝をついているのは、この屋敷の当主であったクルムド子爵の長女、アイリーン・ロンバルドだからだ。

彼女は宝石のように青く透き通った瞳を持つ絶世の美少女だった。

小さく形の良い顔のパーツはどれも綺麗に整っている。腰まであるブロンドベージュの髪はまるで絹糸のように艶やかだった。


すれ違う誰しもが彼女の美貌に一目で心を奪われ、うっとりと羨望の眼差しを向けた。

さらに天使のような美声が彼女の美しさをより一層際立たせた。

男性貴族は十六歳になり社交界デビューを控えた彼女を口説き落とそうと、鼻息を荒くしていたという。


 順風満帆だった彼女の人生に陰りが出たのは、ちょうどこの頃だ。

病を抱えていた最愛の母を亡くし、その直後に彼女はある出来事をきっかけに目元に縦五センチほどの切り傷を負ってしまった。五年経った現在も、彼女の美しい顔にはその痛々しい傷跡が残っている。

不幸はさらに続く。その翌年に父が再婚したのだ。継母となったノエビアもまた再婚で、先夫との間に生まれたソニアというアイリーンより三つ年下の娘がいた。


アイリーンを溺愛していた父は、顔に傷を負ったことで手のひらを返すように義妹のソニアに愛情を向けた。


『顔に傷がある娘に価値はない。お前は大病だということにする。この家から出ることは絶対に許さない』


アイリーンは二十一歳を迎えた今日まで一歩も屋敷を出ていない。最低限の衣食住には困らないが、刺激もない。趣味の絵を描いたり、読書や刺繍をして過ごす毎日だ。

彼女を軟禁した父は昨年、大病を患い帰らぬ人となった。

父の生前もアイリーンをネチネチとイジメていた継母と義妹の行為は、父の死後エスカレートし、アイリーンは二人に虐げられるつらく苦しい日々を送ることになった。

 園庭には赤やピンクの薔薇が咲き誇っている。薔薇の茂みにくまなく視線を走らせる。

(もしかして……)

そこにきらりと光る物を見つけたアイリーンは「見つけたわ!」と声を弾ませた。

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