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アリステラのオタ活計画とシルべアンの本心

 いきなりセニーゼ伯爵に執務室に呼び出されたアリステラ。


「今度王宮で開かれるパーティーにお前も参加しろ」


 開口一番にそんな事を言われ、思わず耳を疑った。


(はぁ? 今まで恥晒しとか言って私をパーティーに参加させなかったのはそっちでしょ?)


「えと、なぜ私を連れて行くのか理由を疑っても?」


「このパーティーは第一皇子殿下の誕生日を祝う会だ。同時に殿下の婚約者を探す場にもなる」


 そう言われた時点で、伯爵が何を言いたいのか理解した。


(あわよくば私を婚約者に、ってことね。第一皇子って主人公のギルバートでしょ。ムリムリ、アイツは将来セシルに惚れるもん。 ━━まぁシルビに会いに行ってることがバレてなくてよかったわ)


 シルべアンに関する話ではなかった事に安堵したアリステラ。

 一刻も早くこの場から去りたい為、全力で伯爵の機嫌を取る事にする。


「分かりました。王子殿下の婚約者になれるよう尽力いたします。敬愛するお父様のお力になれるように!」

 

(よくやった私! 微塵にも思ってないことをこんな笑顔で言えるなんて!)


 少女が心の中でガッツポーズしていると、伯爵がフンっと鼻を鳴らす。


「あぁ、魔力が少ないお前でもこの父親の役に立ってくれ」


(口を開けば魔力の話ばっかり……もう耳にタコができそうなぐらい聞いたわ)

 

 あからさまに機嫌の良い伯爵に内心うんざりしながらも、笑顔を保つことは忘れない。


「はい、もちろんです! ……それでは失礼します、敬愛するお父様!」


 ぺこりとお辞儀をした少女は、走るように伯爵から逃げ去った。



♢♢♢



 次の日、いつも通りシルべアンに会いにきたアリステラが昨日の出来事を少年に話した。


「は?」


(久しぶりに見た、こんな怒ってるとこ……)


 憤怒している少年の姿に、ビクッと震えるアリステラ。

 それに気がついたシルべアンが慌てて殺気を鎮める。


「……悪い……それで何だって?」


「第一皇子殿下の誕生日パーティーに出席するの。クソ伯爵が殿下の婚約者になって来いって。だから明日からしばらく来れないと思う」


「お前、アイツと結婚するのか……?」


「え?」


 突拍子もない事を聞かれ、一瞬思考回路が停止した少女。


(……いやいや! あの伯爵の思い通りに動くはずないでしょ!)


「ないないない! 絶対ないから!」


 全力で否定するアリステラを見たシルべアンの顔がほっと、安堵に染まる。


「そうか」


 小さく呟いた少年は、今までアリステラが見たことのないくらい嬉しそうな表情をしていた。


(何その顔……ちょー可愛い……)


 すっかりシルべアンオタクとなった少女がじっとシルべアンのことを見入っていると、ふいにシルべアンがアリステラに顔を近づけた。


「どうしたんだ?」


 その距離は、初対面で首を絞められた時ほどの近さだ。


(ちょっ、近!? うわ〜、見れば見るほど整ってる……)


 アリステラがシルべアンの顔を食い入るように見つめる。

 少女は気付かぬ間に、どんどん顔を近づいていった。

 そして、もう少しで2人の顔がくっつきそうという時。


「━━ッ近い……」


 ついに耐えきれなくなったシルべアンが顔を真っ赤にしながらパッと顔を背ける。


「え? あぁ、ごめんね」


 謝ったものの、2人の間にはしばらく気まずい空気が広がっていた。

 アリステラのせいではあるが、元の原因はシルべアンである。



♢♢♢



(疲れたぁ〜〜)


 ボフッとベットに倒れ込む少女。

 アリステラはこの所、ドレス選びに追われていた。

 皇子殿下に見初めてもらえるようにと、伯爵が大量の金を注ぎ込んだからである。


(足りない……最近シルビに一回も会えてない……)


 マナー教育の時間、ドレス選びの時間、勉強の時間、ダンスの時間。

 最近のアリステラに自由時間など存在するわけもなく、当然シルべアンにも会いに行けない。


(ちゃんとご飯食べてるかな……? 元気にしてるかな……?)


 数日会っていないだけでも確実に不安は降り積もる。


(いやいや、大丈夫よ。うちのシルビは強い子だもの! むしろ私こそシルビ離れしなくっちゃ!!)


 シルべアンはゆくゆく、この伯爵家から逃れて立派な公爵へと成長する。

 物語のようにラスボスにはならないだろうが、アリステラと身分が違うのもまた事実。


(完璧な公爵の隣に魔力ほぼナシ顔だけ女がいるのもねぇ……)

 

 確実に批判が殺到するような構図に、少女は苦笑いした。


(シルビは私がいなくても大丈夫だろうけど、私はもうそうじゃないから。━━シルビが大きくなったら私は隠れオタになろうっと)


 遠くからシルべアンの成長ぶりを眺め感激する、それぐらいなら許されるだろうと思った少女は、大人になったシルべアンを妄想しながら上機嫌で眠りについた。



♢♢♢



 時を同じくして、シルべアンもまたアリステラのことを考えていた。


「アイツがいないと静かだな……」


 そう呟いた少年は、今までのアリステラとの思い出を一つづつ振り返っていく。



♢♢♢



 アリステラ・セニーゼが変わった。

 シルべアンがその事に気がついたのは、少女が前世の記憶を思い出してすぐのことだった。


 いつも震えながら俯いていた少女が自分の事を庇い、代わりに殴られた。

 突然の変化だったが、シルべアンにとっては心底どうでも良かった。


 だが、


『ねぇ、大丈夫?』


(は? 俺を鞭打ちするのはお前の父親だろ?)


 無性に怒りが湧いてきた。

 実際は、何もできない自分への苛立ちだったのだろう。

 衝動的に少女の首を絞めたのは、八つ当たりだった気がする。


『はなして……って…言ってるでしょ!!』


 今はまだ殺すつもりはなかった為、手を離そうとしたらアリステラに頭突きをされた。

 あの気弱な少女が取るような行動ではなく、一瞬反応が遅れてしまう。


(やっぱりこいつはアリステラ・セニーゼじゃないな)


 ドンっと突き飛ばされた時、シルべアンはそう確信した。

 

 別に目の前の少女が誰だろうと自分には関係ない。

 だが、人の体に乗り移れるというのなら、それには少し興味があった。

 結果、アリステラの返答は自分を小馬鹿にするようなものだったが。

 

『そ、そんなに怒んないでよ! 本当だもん! 本当に前世思い出したんだからぁーー!』


(ちょっと殺気を放っただけなのにビビりすぎだろ)


 別人の体に乗り移るなどという高度な魔法が使える奴だとはとは思えない。

 この少女は嘘をついているわけではない、シルべアンはそう判断した。


 それから度々アリステラに、同情の様な視線を向けられる様になった。


(可哀想な少年を演じて利用してやるか)


 利用価値がある、最初はただそれだけだった。

 だからアリステラが毎日訪れる様になっても追い出さなかった。


 だがある時、


『シルビって呼んでいい?』


 少女にそう言われた時、一瞬ビクッとした。


(母上が呼んでた愛称をなんでコイツが知ってるんだ?)


 それはともかく、許可する気持ちは微塵もなかった。

 だが、少女の不安そうな顔を見た時、そんな気持ちはどこかへ消えてしまった。


『好きにしろ……』


『ほんと!? ありがとう!!』


 アリステラの満面の笑みを見た時、少年は気づいてしまった。


 アリステラ・セニーゼは既に自分にとってかけがえのない存在になってしまった事に。

 元々、少女を受け入れた時点で負けは決まっていたのだろう。

 いつの間にかアリステラと過ごす日々は、心地の良い時間になっていたのから。


『シルビ!』


 アリステラにそう呼ばれる度、胸がくすぐったくなる。

 その感情を何と名づけたら良いのか、その時はまだ分からなかった。


 分かったのは、つい先日の話。


『今度王宮のパーティーに行くんだぁ。伯爵が皇子殿下の婚約者になれって。だからしばらく会えないかも……』

 

(は?)


 怒りで頭が真っ白になった。

 アリステラがアイツと結婚するかもしれないと思うと、はらわたが煮え繰り返るほどの怒りを感じる。


『お前、アイツと結婚するのか……?』


『ないないない! 絶対ないから!』


 この時ほど安堵した事はないだろう。

 そして、自分の中で膨らむ感情の正体が分かった。


 それは恋情。


 誰かをこんなに好きになることなんてないと思っていた。

 自分の一言に一喜一憂するアリステラが可愛くて仕方がない。


(アリステラが俺だけのものになれば良いのに……)


 そう思った少年は、アリステラのことを想いながら眠りについた。

 

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― 新着の感想 ―
「最初は利用しようとした」というのはリアリティがありますね〜。 パーティーで一波乱あるのかどうか、楽しみです。
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