悪役令嬢&モブ&ヒロイン
「アリステラお姉様! 今日もお茶会しましょ!!」
(そういえば今日はその日だったわ! 私ってば、なんでこんな重大な予定を忘れてたの……!!)
イザベルにせがまれたアリステラは、満面の笑みを浮かべる。
「いいですよ、行きましょっか!」
アリステラは勢いよく立ち上がり、イザベルの元へ駆け寄った。
するとイザベルがアリステラにギュッと抱きつく。
「会いたかったですわ!!」
「私もよ、ルル!」
ちなみに『ルル』とはイザベルの愛称。
原作のような悪女らしさは微塵もなく、2歳年下のイザベル。
妹ができたような気持ちになったアリステラは彼女が可愛くて仕方がないのだ。
(あー、ルル可愛い〜!!)
イザベルを受け止めたアリステラは、視線だけをシルべアンに向ける。
「じゃあシルビ、女子会してくるから! ちゃんと殿下と仲良くするんだよ」
「ギルバート様も、敵意丸出しはいけませんからね」
睨み合っているシルべアンとギルバートを横目に、二人は上機嫌で部屋を後にした。
♢♢♢
「お茶会の準備はできてますよ」
部屋に入ると、愛らしく微笑んだセシルが出迎えてくれる。
(やっと来れたわ! いつもはシルビがずっと一緒だから行けないのよねぇ)
いつもお茶会の会場として使われている部屋は、昔は客室として使われていた。
だが今は完全にアリステラ達の部屋となり、男子禁制の場所となっている。
その理由として、主に挙げられるのは……。
「やっぱシルビかっこいい〜!!」
「ギルバート様もかっこいいですわよ!!」
壁にかかっているシルべアンとギルバートの肖像画、棚の上に置かれているシルべアンとギルバートのぬいぐるみ、うちわ、ペンライト、タオルなど etc……。
うちわなどは自作したが、ほとんどは秘密裏に作らせたもの。
金に物を言わせるとはまさにこの事だ。
「お二人とも、とりあえずおかけになったらどうですか」
「そうね、一旦落ち着かなきゃ」
(まだお茶会は始まってもないのに……でもうちのシルビかっこかわいい〜〜)
スーハーと深呼吸したアリステラはゆっくりと椅子に腰掛ける。
テーブルを囲んだ3人は早速お茶会という名のオタ活報告会を始めた。
「セシル、最近どーお? 推しは見つかった?」
「いえ、それがまだなんですよね」
残念そうに首を左右に振るセシル。
「セシルさん、きっとあなたにもいつか運命の出会いがありますわよ」
イザベルがセシルの両手をギュッと包み込む。
アリステラはその光景を嬉しそうに見守っていた。
セシルの表情がパァッと明るくなる。
「そうですよね……ありがとうございます!」
ここから本格的に推しについての語り合いが始まった。
アリステラの推しは夫であるシルべアン、イザベルの推しは婚約者であるギルバート。
昔からシルべアンを推そうと決めていたアリステラは、今もなお隠れオタを続けていた。
まずはアリステラが手を挙げる。
(やっぱりまずはあの事から……!!)
「はい! この前シルビが猫をプレゼントしてくれたの! ルアンって言うんだけどねぇ」
「その子ですわよね。やっぱり公爵様からの贈り物だったのですね!」
アリステラの膝の上でくつろいでいるルアンに目を向けたイザベル。
ルアンのツノを一度見つめ、もう一度視線を送った。
(やっぱりルルもルアンのこと普通の子じゃないなって思ってるなぁ)
もはやデジャブとも言えるこの光景に、アリステラは苦笑いする。
「猫みたいな生き物らしいですよ」
見かねたセシルがそう付け加えた。
「それって猫じゃないって事ですわよね……でもルアンは可愛いから猫かどうかなんてどうでもいいですわ〜」
「「確かに(ですね)〜」」
「んで、この前シルビにルアンのこと抱っこしてもらったんだけど、イケメンとモフモフの組み合わせ神すぎるの〜」
アリステラはその時のことを思い浮かべる。
『なぜ俺がルアンを抱かねばならない。俺よりリーシャに懐いているだろう』
などと言いながらもルアンを手渡されると、落ちないように気を遣うシルべアン。
だがルアンは彼にだけ全く懐かず、いつも指を噛もうと奮闘している。
シルべアンはそれを軽々避ける為、成功した試しはないのだが。
その度に彼が、
『やはりコイツは山に返そうか』
と言うと、ルアンが助けを求めるようにアリステラにすり寄ってくるのだ。
(シルビもルアンも可愛いよねぇ)
当時の光景は脳裏に焼き付けていた為、今でも鮮明に思い出せる。
アリステラは「ふふふっ」っと笑みをこぼした。
「相変わらずお二人は仲がよろしいですわね」
「ね、本当そうです!」
皮肉のようにからかうイザベルと、純粋に頷くセシル。
「えへへ、そういうルルは最近どうだったの〜?」
「え? 私はですねぇ━━」
(楽しいなぁ)
友達との時間、これもアリステラが憧れていたもの。
前世では友達がいなかった彼女は、推し活についてネットに書いてあるぐらいの知識しかなかったし、推しに熱中する気持ちも理解できなかった。
が、今なら分かる。
(推しは世界を救うわ!!)
「今日も楽しかったねぇ」
「です(わ)ね!!」
結局今日もお茶会は、昼前に始まり日が暮れるまで行われた。
ちなみに、アリステラが二人に『推し活』を布教した事から始まったこの茶会。
主催者のモットーが『隠れオタになろう! オタバレしないように!』である為、イザベルもセシルも隠れて推し活を満喫している。
「やっぱりシルビが1番!!」
グッと拳を突き上げたアリステラ。
するとイザベルが不満げにボソッと呟いた。
「……ギルバート様の方がかっこいいですわよ」
一瞬ムッとしたものの、推しが誰かなど人それぞれ。
(シルビの良さなんて私がいっぱい知ってるもん……)
「シルビも殿下も、ファンクラブがあるくらい人気だもんね」
微笑んだ彼女は少しだけしみじみとした。
「そういえばお二人は入らないのですか、ファンクラブ?」
セシルにそう聞かれ、アリステラとイザベルは顔を見合わせる。
イザベルは、少し困ったように答えた。
「そういう発想には至りませんでしたわ。アリステラお姉様は?」
「あぁ、私? 私は入ってるよ。だってシルビのファンクラブの会長だもん」
当たり前のように答えたアリステラに、二人は驚いたような顔を見せる。
余談だが、会長職どころかシルべアンのファンクラブを設立したのはアリステラである。
同担と語り合いたい!! と切実の思っていた彼女。
今の柔らかいシルべアンならばファンも沢山いるだろうと考え、ファンクラブを作った。
(ここも楽しいけど、シルビについていっぱい話せるあっちもいいんだとねぇ)
「意外ですわね」
「ね、アリステラ様は入ってないと思いました」
その言葉に、心外だと言わんばかりの表情を浮かべるアリステラ。
「さて、そろそろ戻りましょうか? お姉様?」
「そうだね、シルビに会いたくなってきちゃった」
(シルビ、殿下と仲よくしてるかな? ……ま、喧嘩するほど仲がいいって言うよね)
イザベルに続いて、アリステラも席から立ち上がった。
終始笑いが絶えなかった3人。
第一皇子の婚約者である侯爵令嬢と、悪魔公爵家の公爵夫人、そして平民のメイド。
原作での悪役令嬢&モブ&ヒロイン。
誰がどう考えても歪な組み合わせであることは間違いないが、とても親しいこの3人。
この『オタ活報告会』は一ヶ月に2回開催されている。
やはり『推し』とは最強であるなと再認識したアリステラだった。
3人がキャッキャうふふとお茶会を繰り広げていた頃、取り残されたシルべアンとギルバートはというと……。




