そっくりな一人と一匹
(うちのシルビ、可愛すぎでは? 尊いが過ぎるんですけど)
誰の前でも完璧なシルべアンがたまに見せてくる甘えた姿。
信頼されている証だろうと、アリステラは嬉しくてたまらなかった。
シルべアンがアリステラの肩に頭をコツンと乗せる。
「……ルアン、喜んでもらえてよかった」
穏やかな顔をしている彼を見て、微笑んだアリステラ。
今のシルべアンは猫というより、大型犬のように思える。
「うん、ありがとね。━━そういえばどうしてルアンを連れてきてくれたの?」
シルべアンは今まで事あるごとにプレゼントをくれた。
ぬいぐるみだったり、アクセサリーだったり、花だったり。
それらは全て『モノ』であった為、ルアンを貰った時は少し驚いた記憶がある。
「リーシャが猫を膝に乗せながら本を読みたいって言ってたから。猫好きなのかと思って」
(本当は、私が思いつくスローライフを言ってみただけなんだけど……でも私、モフモフには憧れてたんだよね……!)
前世では、ペットを飼いたいなどとは到底言えなかったし、そもそも時間がなかった。
たまの自由時間に小説を読むと、モフモフな動物が出るたびに憧れだけが増していったのである。
「確かに猫は好きかも」
「そうか」
こうしてしばらく二人は、たわいない会話を続けた。
最近の出来事、何が嬉しくて、悲しくて、面白くて。
笑い合い、時には軽口を叩き合って。
アリステラが求めていた穏やかな日常、気心の知れた大切な人。
ふいにシルべアンが顔を上げ、アリステラを見つめた。
「━━なぁリーシャ、この前話したことなんだけど」
「うん? なぁに?」
「俺がリーシャと離婚したくないのは、俺が━━」
ギュッとシルべアンの手に力がこもる。
シルべアンが覚悟を決めたその瞬間、「ニャー」という気の抜けた声が部屋に響いた。
チラリと視線をやると、窓辺で寝ていたルアンが起きており、ピョンっとアリステラの膝に飛び乗る。
「ルアン? 起きたの?」
アリステラの意識もルアンに注がれてしまい、甘かった雰囲気もどこへやら。
(あっ……シルビが話してる途中だったのに……)
慌ててシルべアンを見やると、彼はひどくうなだれていた。
過剰すぎるその反応を見て、思わず呆気に取られるアリステラ。
(そんなに大事なこと言おうとしてたの……?)
「ごめんね、なんて言おうとしてたの?」
「……また今度言う」
恨めしそうにルアンに目を向けたシルべアンに対して、ルアンは満足げな笑みを浮かべている。
その様子を見たアリステラは「ふふっ!」と笑みをこぼした。
「シルビとルアン仲良しだね!」
「仲良くない」
「にゃーにゃー!」
シルべアンとルアンは声を合わせて否定する。
本気で嫌がっている表情もそっくりな一人と一匹。
「やっぱ仲良しじゃん!」
などと言うやりとりを続けていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
(? セシルかな?)
「セシル? 入っていいよ」
アリステラが返事をすると、中に入ってきたのはセシルではなく、1組の男女。
「残念だけどセシルじゃないですわよ」
「二人とも、相変わらず仲がいいね」
イザベルとギルバート、つまるところ原作小説の悪役令嬢と主人公である。
二人は原作通り婚約していたが、仲はそこまで悪くない。
むしろ良好である。
(ギルバート怒ってるじゃん……なんかやらかしたっけ?)
ギルバートの瞳があまり笑っていないことに気がついたアリステラはシルべアンに目線を送る。
「また来たぞアイツら」
「ね、皇子って意外と暇なのかな?」
こそこそと会話した直後、シルべアンはわざとらしくため息をついた。




