猫みたいな生き物って何!?
「リーシャ、プレゼント」
次の日、そう言ったシルべアンに渡されたのは猫だった。
……正確には猫ではないだろうが。
(猫? 猫って頭にツノなんか生えてないよね……いやでもここは異世界だし、これが普通なのかも?)
可愛らしい生き物に生えている、一本の大きなツノ。
これは普通なのか、そうでないのか。
相変わらずこの世界の常識というものが理解できない。
「可愛い〜。猫、だよね……?」
シルべアンから手渡された猫? を抱いたアリステラは不安げに訊ねた。
目の前にいる彼の笑顔に一片の陰りもなく、逆に怖い。
「あぁ、まぁ猫みたいな生き物だ。躾はされてあるから心配しなくていい」
(猫みたいって何!? それって猫じゃないってことじゃない!)
即座にこわばったアリステラの顔。
ただ、シルべアンが危ない生物を渡してくるはずはないだろう。
未知の生き物との遭遇に彼女は猫? をじっと見つめた。
(え、シルビそっくりじゃない……!)
艶々と輝いている銀色の美しい毛並み、赤色のつぶらな瞳、少し気怠げな表情まで。
見れば見るほど愛らしく思えてくる。
シルべアンを彷彿とされるその生き物をぎゅっと抱きしめたアリステラは、にぱっと満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうシルビ! 大切に飼うね!」
「あぁ、喜んでくれてよかった」
頬を緩めたシルべアンに対して、猫? がシャーっと威嚇する。
しかし彼と目線が合うなり、すっかり萎縮してしまった。
(確かにシルビって動物に怖がられそうだなぁ)
クスリと笑みを漏らしたアリステラにスリスリと顔を押し付ける猫。
その様子を見たシルべアンの顔がすぐさま険しくなる。
「やっぱりソイツ山に返してこようか」
「え? だめだよ、この子は私が飼うんだし。━━この子野良猫だったの!?」
毛並みが整っていて血色も良い猫を思わず二度見してしまう。
「? あぁ、山で拾ってきた」
シルべアンは、それがどうかしたかと不思議そうな顔をしている。
そんな彼を横目にアリステラは猫を抱く手にギュッと力を込めた。
(山で拾った……? きっとこの子は今まで大変な思いをしてきたのね……これからは私が大切に育てるから!!)
すっかり猫に愛着が湧いた彼女は、シルべアンの執務室にいる間、片時も猫を離さなかった。
♢♢♢
「名前どうしようかな?」
自室に戻った直後から、アリステラは猫の名前を考えることに耽っていた。
クッションの上でくつろいでいる猫をじっと見つめるアリステラとセシル。
「ちなみにこの子って猫、ですよね……?」
セシルが遠慮がちに訊ねると、アリステラはふふふっと諦めたような笑みを浮かべた。
「猫らしい生き物だって。らしい生き物」
「らしいって何ですか!? それって猫じゃないってことですよね?」
(やっぱりそう思う……?)
自分は正常な反応をしていたことが分かり、嬉しくなったアリステラは立ち上がり、セシルの手をギュッと握る。
「同志……!!」
セシルがポカンとしていることにも気づかずに一人舞い上がってたアリステラが落ち着くまでに、3分ほどの時間を要したことはご愛嬌してほしい。
「名前ねぇ、うーん?」
「直感的に決めることもあるらしいですよ」
悩み込んでいるアリステラに見て、長丁場になる事を察したセシルはそっと毛布を掛ける。
アリステラはありがとうと微笑み、セシルに隣に座るように促した。
昔は渋っていたセシルも、今はすんなり腰掛けてくれる。
「直感? ララ、リリ、ルル……は周りにいるし、レレ、ロロ?」
なぜかラ行の名前を連呼していく彼女は、どこか腑に落ちず首を捻った。
「どうしてラ行ですか?」
「ん? だって、ラ行ってなんか可愛いでしょ?」
自慢げに告げるアリステラは、セシルが曖昧な笑みを浮かべたことには全く気がついていない。
撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らす猫。
その嬉しそうな顔もシルべアンそっくりだと感じるアリステラ。
(うーん、この子シルビそっくりなんだよねぇ。やっぱりシルべアンに似た名前がいいかな?)
「シルべアン……シルビ……べアン……シル……ルアン? ━━ルアンにしよう! この子の名前!」
この直後、猫が「ニャー」と鳴いたこともあり、その猫は無事『ルアン』と名付けられたのだった。
♢♢♢
「可愛いねぇ、ルアン〜」
ボールで遊んでいるルアンを温かい目で眺めているアリステラ。
ルアンが来てから2週間、彼女はもうルアンにメロメロだった。
たまに猫パンチを食らっても笑って許せるし、むしろ構いすぎてルアンに逃げられる始末。
だが、そんなところも愛らしくて仕方がないのだ。
「リーシャ、最近ルアンばっかりじゃないか」
ガチャリと扉を開けて入ってきたシルべアン。
ぴたりとアリステラの隣に腰掛けると、不満そうな瞳でルアンを見つめる。
「確かにそうかも。でもルアン可愛いんだもん〜」
「……俺にも構ってくれ……」
小さくそう呟いたシルべアンを見て、アリステラの心臓は爆発寸前となった。




