ギャング
人間界の日本のとある県のとあるの野原にて。
「ヒィエエエエエ」
初めまして。
神薙心輝。
男子高校一年生。
とあるヤンキーアニメに心を撃ち抜かれて、その感動、衝撃を抑える事ができず、うちの高校のヤンキー部に入部届を出しに言ったら、先輩ヤンキーにヤンキーにしてやるよと言われて気が付けば、ヤンキー同士の闘いの場に連れて行かれていた。
やっぱり、ヤンキーは闘ってなんぼの種族なんだな。
眼鏡型の防具マスクを手渡された僕が、盛り上がっている先輩たちの動きを観察してから参戦しようとした時だった。
なんと、ハロウィンの仮装をしたおこちゃまが、お菓子をくれと僕に話しかけてきたのだ。
カールした羊の角グッズを頭に装着して、銀色のタキシードで全身を豪華絢爛に、紳士的に着飾っているおこちゃまだった。顔が凛々しく見えるのは、タキシードのおかげではないように思う。育ちがいいのだろう。
西洋系と日本系のダブルのおこちゃまだろうか。
髪の毛も白ではなく銀色だし、瞳の色も水色だし、目鼻立ちがはっきりしているし。おこちゃまなのに。あと数年経てば、モテモテになるだろう。
う、羨ましくなんかないんだからね。
(じゃなくて、)
もしかして、ギャングの子ではないだろうか。
だって、そうだろう。
こんな拳と拳を激しく叩きつけている場所に、闘いとは無縁のおこちゃまが、いかにおこちゃまが怖いもの知らずとはいえ、入り込んでくるだろうか。
しかもこんな無邪気な笑みを浮かべて、お菓子をくれと言うだろうか。
否。
入り込んでくるわけがないし、言うわけがない。
導き出される答えは一つ。
ギャングの子である。
品定めに来たのだ。
ギャングに勧誘する為に。
いやいやいやいや。
僕は青春真っ只中の高校時代だけヤンキーにどっぷり浸かりたいのであって、高校を卒業したら堅実な職業に就く事を希望しているのだ。
まさか、ずっと綱渡りの人生を歩みたいとは思わない。
断固拒否である。
というのに、僕は、僕は。選ばれてしまった。
ギャングの子に。
ギャングに逆らえるか。
否。
逆らえるわけがない。
「ヒィエエエエエ」
「おまえよく息が続くな」
(2024.10.22)