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でくのボウの逆襲 ~スライムしか呼べない召喚士、スライムを大量に召喚する~

作者: もさお

「グライデン、コツコツやっていけば、いつかは成功するよ」

 これは僕の父さんの言葉だ。

 懐かしい。ずいぶん前に言われたのに、今でも鮮明に覚えてる。

 コツコツやればうまくいく。

 僕もそう思ってる。

 でも、結果が出るのはまだ先みたいだ。


「ほりゃ、グライよ。やってみなさい」

 これはおじいちゃんに教わって、初めてモンスターを召喚したときだ。

 僕のことをグライって呼ぶ人は多い。

 グライデンって名前、ちょっと長いんだよね。


「こ、こうかな?」

「そうじゃ、そのまま魔力をこめてみなさい」

「うん!」

 かざした両手の間に光が生じる。

 しばらくして、ポンッという音とともに、その光から何かが出現した。


「おお! さすがは我が孫。良い筋をしておる」

「こ、これは?」

 足元で青い塊がうごめく。


「それはスライムというモンスターじゃ。初歩の初歩じゃが、初めてにしては上出来じゃ」

「スライムかー。よろしくね!」

「おいてめえ、急に呼び出して何のつもりだ? ぶっ殺すぞ」

「……」

「まあ、モンスターにもいろんな性格があるからの」

 口の悪いスライムは、しばらく経つと消えていった。


「この調子でいろんなモンスターを召喚するんじゃ。そして、最強の召喚士となって、国王に仕えるんじゃぞ」

「最強の召喚士?」

「そうじゃ。お前ならできる!」

「うん! コツコツ頑張るよ!!」

 あの日から10年間、毎日鍛錬を続けてきた。

 でもまだ僕は、スライムしか召喚できていないんだ。


「おい、でくのボウ。召喚してみろよ」

 こいつはジータ。同じ召喚士学校の生徒だ。

 ジータはすごく優秀なんだけど、僕のことをバカにしてくるんだ。

 ちなみに、『でくのボウ』っていうのは、僕の名字の『ボウ』から派生したあだ名で、役立たずって意味らしい……。


「み、見てなよ」

 両手をかざし、魔力をこめる。

 光が生じ、召喚されたのは……やはりスライムだった。


「ぎゃははは! こいつまだスライムしか召喚出来ないの」

 ジータが周りの生徒と一緒に笑い転げる。


「体はでかいくせに、使えないやつだよな」

 何も言い返せない。まさに、でくのぼうだ。


 ちなみに、いつも出てくるスライムは、スラまるっていう名前だ。

 この10年間、毎日何回も召喚し続けてきた。

 最初の1年はこんな感じだった。


「おい、またかよ!! こっちにも生活があるんだよ!!」

「ご、ごめんなさい!!」


 2年目はこんな感じ。


「……なあ、そろそろスライムは卒業してくれよ」

「はい、頑張ります!」

 初めの1年で、怒りを通り越して、あきれられちゃったみたい。

 でも、一緒にいる時間が長いから、いろいろ話を聞くこともできた。

 スラまるは大家族で、親戚もたくさんいるらしい。

 しつこく召喚されて怒っていたけど、スライムがそんなに召喚されることはないらしくて、周りからは英雄扱いされてるみたい。

 戦闘は一回もしてないんだけどね。


 3年目以降は、スラまるの部屋も用意してあげて、快適に過ごせるよう整えてあげたんだ。


「なあグライデン。たぶん俺、人生で召喚されてる時間の方が長くなったわ」

「そ、そうなんだ」

「……ま、その調子で頑張れよ」

「う、うん。良かったら、部屋でジュースでも飲んでて」

「ああ、またな」

「ま、またね……」


 そして今日、召喚士学校を卒業することになった。

 実技は最低点だったけど、筆記試験と、基礎魔力の試験で頑張った分、何とかなったみたい。

 ちなみに、スライムしか召喚できずに卒業したのは、僕が初めてみたい。

 そりゃそうだよね。


「町の教会に、伝説の召喚士が立ち寄ってるらしいぞ」

 これまでのことを振り返っていたら、おじいちゃんが声をかけてくる。


「伝説の召喚士?」

「スカイとかいったかの」

「えっ!? あのスカイが来てるの!?」

「何かアドバイスでも聞けるかもしれんぞ」

「そうだね! 行ってきます!!」

 スカイという人物は、誰もが知る伝説の召喚士だ。

 どこの国にも属さず、数名の仲間と一緒に世界を飛び回っている。

 でも、そんなすごい人が、どうしてこの町に?


「おい、でくのボウ」

 ジータだった。

 声のした方を振り向く。


「や、やあ」

「お前、卒業できたらしいな」

「うん。なんとか……」

「ふんっ、お前なんかがな」

 ジータは杖を取り出し、魔力を込めた。

 空中に光の輪が出現し、その中からモンスターが飛び立つ。


「見ろ! これが俺のワイバーンだ」

「す、すごいなぁ」

「お前がスライムばっか呼んでる間に、俺はここまで鍛練してきたんだ。同じ卒業生だと思われたくないな」

「……僕だって、鍛練してきたさ」

「だったら見せて見ろよ! その成果を」

「……」

 努力の量だったら、誰にも負けない自信があった。

 だけど、僕はジータのように上達できなかった。


「ほら! 早く! やってみろよ!!」

「み、見てなよ」

 両手を前にかざす。

 目を閉じて、今までにないくらい、意識を集中させる。


 お願い!!


「ぎゃはははは!」

 ジータの笑い声が響く。

 目を開くと、そこにはスラまるがいた。


「こいつ、なんで笑ってやがる?」

「なんでもないよ。気にしないで」

「戻れワイバーン」

 ジータが召喚したモンスターを帰還させる。


「俺はドラゴンだろうがトロールだろうがすぐに呼べるようになるぜ。お前は一生スライムと遊んでろ」

 そう言ってジータは去って行った。


「なんだあいつ。ムカつくな。やるか?」

「やめなよ。ジータは、僕と違って優秀なんだし」

 そう。僕みたいな出来損ないとは違うんだ。


「悔しくないのか?」

 背後から聞いたことのない声がする。


「え?」

「誰だ?」

 スラまると同時に振り返る。

 そこには、伝説の召喚士スカイが立っていた。

 銀髪で、背が高く、スラリとした体型。

 そして、整った顔立ちに鋭い目。間違いない。


「スカイさん!」

「誰だ? それ」

「質問に答えろ。悔しくないのか?」

 ジータとのやり取りのことだろう。


「……はい。だって、事実だし」

 本当は悔しかった。

 見返してやりたかった。

 だけど、努力だけじゃどうにもならなかった。


「僕、スライムしか呼べないんです。召喚士としての才能がないんです」

「だからどうした?」

「え?」

「俺だったら、スライムでも、さっきの小僧に勝てるな」

「そ、そうかもしれないですけど」

「お前に足りないのは才能じゃない」

「じゃあ、何が足りないんですか?」

「それは自分で見つけろ」


 足りないのは、才能じゃない?


「スカイ、いつまで話してるのよ」

 スカイの仲間の女性が声をかける。


「悪いなラミア。もう行くよ」

 そう言って、スカイは右手を天に掲げる。

 すると、空から光が差し込み、ドラゴンが現れた。


 す、すごい……。


 ドラゴンは、スカイとラミアを乗せて飛び立った。


「あいつ偉そうだな。襲撃するか?」

 スラまるが、とんでもないことを言う。


「絶対にやめて」

 無意識に、スラまるの頭をわしづかみにしていた。


「グライくんじゃない?」

 声をかけてきたのは、幼なじみのセナだった。

 僕のことを名前(一部省略だけど)で呼んでくれる数少ない友達だ。


「セナちゃん、こんにちは」

「さっきうちの教会に、スカイさんが来てたんだけど、会えたかな?」

 彼女の父親は、この町の教会で神父をしている。


「うん、やっぱりすごかった」

「おい、さっきのヤツの何がすごいんだ?」

「あら、スラまる君。こんにちは」

 セナちゃんも、スラまるとは何度も会っていて、よくおしゃべりしてる。


「スカイさんは、1人でも国王軍に勝てるそうよ」

「そんなにすごいモンスターを呼べるのか?」

「すごいモンスターを、同時に何匹も召喚できるんだ」

 スカイさんのすごさを、スラまるに説明する。


「へー、それってすごいことなのか?」

「もちろんだよ。普通は3匹くらいが限界なんだ」

 スカイさんの召喚能力はすごい。

 でも、さっき言っていた通り、もしスライムしか召喚できなくても、めちゃくちゃ強いんだろうなと思う。

 だから、僕も少しだけ、強くなれるかもって希望が持てる。


「そういえば、スカイさんは教会に何をしに来たの?」

 セナちゃんに質問する。


「なんか、お父さんとちょっと揉めてたみたいなの」

「揉めてた?」

「うちの教会にある召喚石が、誰かに狙われてるとか」

「セナちゃんとこの教会に、召喚石があるの?」

「そうみたい。それを守ってくれるって言うんだけど、お父さんは預けるわけにはいかないって断っちゃって……」

 確かに、召喚石を使えば強力なモンスターを呼び寄せて、いろんなことができる。

 悪いヤツの手に渡ったら、悪用されるかもしれない。


「召喚石を利用した事件が増えてるらしいから、気をつけないとね」

「うん」


「スカイのやつめ。召喚石を守るつもりだろうが、それはお前のいる所に召喚石があるって教えているわけだ」

 背後からいきなり声がした。

 振り向くと、黒い服に身を包んだ、見るからに怪しい男が立っていた。


「君がセナちゃんだね。君のお父さんと話がしたいんだ。紹介してもらえるかい?」

 男がセナに近付く。


「い、いやです……」

「そんなこと言わずに、さっさと呼べよ」

 男が、早速本性を現した。


「嫌がってますよ。やめてください」

 勇気を振り絞って、男に話しかけた。


「なんだお前」

 男がこちらを睨んでくる。

 怖くて声が出なかった。


「こいつは召喚士のグライデンだ。そして俺はスラまる」

 スラまるが僕の代わりに声をあげる。


「消えろ」

 男は、杖をスラまるに叩きつける。

 ダメージを受けたスラまるが消えてしまう。


「スラまるくんっ!」

「大丈夫だよ、セナちゃん。帰還しただけだから、また呼び出せる」

 召喚モンスターは、召喚士の魔力を原動力として動く。

 体力が尽きても、召喚士のMPが減るだけで、モンスターは無傷で帰還する。


「お前みたいなクソガキ、相手するつもりはねぇよ」

「じゃあ、俺ならどうだ?」

 ジータの声だった。


「スカイがいるって聞いて戻ったら、怪しいおっさんしかいねえじゃん」

「ジータ君、気をつけて! こいつヤバそうだよ」

「でくのボウは黙ってな。こんなヤツ、俺が瞬殺してやるよ」

「いいねー。生意気なクソガキをボコすのが、俺の趣味なんだ」

「こいつを見てもそんなことが言えるのか?」

 ジータが杖をかざす。

 空中に光の輪が生じ、ワイバーンが召喚された。


「すごい」

 セナがつぶやく。

 ワイバーンは、大きな両翼を羽ばたかせ、上空から男を見下ろしていた。

 翼から生じる風が、こちらに吹き付ける。


「見ろよおっさん、クソガキにやられるってのはどんな気分だ?」

 さすがは性格の悪いジータ。

 煽りの才能もレベルが高い。


「クソガキにしてはやるじゃねえか。なら、こいつを使ってやろう」

 男がポケットから何かを取り出す。

 それは、召喚石だった。


「ほらよ、出てこい!」

 男が召喚石をかかげる。

 すると、地面に大きな黒い影が生じる。

 その影の中から、大きな手が這い出て来た。

 現れたのは、巨大なトロールだった。

 緑色をした一つ目の巨人は、右手に巨大な棍棒を持っていた。


「な、なかなかデカいじゃねーか……」

 男が召喚したトロールは、ワイバーンの数倍デカかった。


「だがな、そんなとろいやつの攻撃、ワイバーンには当たらねえぞ」

 ワイバーンが空中を飛び回る。


「ふっ……」

 男は不適な笑みを見せる。


「やれ! ワイバーン!」

 ワイバーンがトロールに向かって火の玉を吐く。

 火の玉が直撃するが、トロールは微動だにしなかった。


「おいお前、なんかしたか?」

 男が挑発する。


「お前、ムカつくヤツだな! ワイバーン!」

 ワイバーンが男に向かって火の玉を放つ。


「よく分かってるな。召喚士を狙うのが定石だ」

 トロールが男の前に立つ。

 飛んでくる火の玉を、トロールが受け切った。


「だがそれは、お互い様だ」

 トロールが、ジータに向かって突進する。


「ジータ君! 危ないわ!!」

 セナちゃんが叫ぶ。


「ちっ、ワイバーン!」

 ワイバーンがジータの元へと飛んでいく。

 トロールが棍棒を振り下ろす。

 その一撃は、ワイバーンに直撃した。


「ワイバーン!!」

 ワイバーンは、消滅した。


「おいクソガキ。誰を瞬殺するって?」

「……やるじゃねーか。楽しかったぜ」

 そう言ってジータは走り去って行った。


「……行っちゃった」

 セナちゃんは唖然とした様子だった。


「仕方ないよ。多分もう召喚する魔力が残っていないんだ」

 男がこちらに近づいて来る。


「く、来るな!」

「うるせーな。お前に用はないんだよ」

 男の背後から、トロールも近づいて来る。


 どうしよう? スライムじゃ勝てない……。


「そこまでだ!」

 誰かの声が響きわたる。


「お父さん!」

 声の主は、セナの父シルヴァだった。


「お前の狙いはこの召喚石だろ? 子供たちには手を出すんじゃない」

 シルヴァの手には、召喚石が握られていた。


「潔いじゃねぇか。助かるぜ」

 男が、シルヴァに近づいて行く。


「ダメよ、お父さん。それは命より大事なものって言ってたじゃない」

「そうだ。命より大事なものだ。だから、持って行くなら私を殺してからにしろ!」

 シルヴァが杖を掲げる。


「良い覚悟だな。約束通り子供には手を出さないでやる。そしてお前を殺す」

「そう簡単にはやらせんよ」

 シルヴァが魔法を放つ。

 杖の先から火炎弾が放たれ、男へと飛んでいく。


「無駄だ」

 トロールが男の前に立ち、火炎弾を受け止める。


「やれ!」

 トロールがシルヴァに向かって行く。


「逃げて! お父さん」

「悪いな、セナ。逃げるわけにはいかんのだよ」

 トロールの棍棒が、シルヴァの頭上に振り下ろされる。


「お父さんっ!!」

 セナちゃんの悲痛な声が響く。


「スラまる」

 とっさにスラまるを、シルヴァの近くに召喚した。


「どけっ」

「ぐあっ」

 スラまるはシルヴァに体当たりをして、体を弾き飛ばした。

 トロールの一撃は、スラまるに直撃し、スラまるは消滅した。


「シルヴァさん! 大丈夫ですか?」

「私は大丈夫だ。君は逃げなさい!」

 シルヴァが叫ぶ。

 気づけば、彼が握りしめていた召喚石が足元に転がっていた。

 召喚石を拾い上げる。


「これは……」

「おいクソガキ、そいつを俺によこせ!」

「そういえば、君も召喚士だったね。もしかしたら、その召喚石を使うことができるかもしれない」

「無理だよ。僕なんかに」

「グライ君、お願い、やってみて」

 背後からセナちゃんが言う。


 多分無理だ。

 無理だけど……やるしかない!


 正面からトロールが迫って来る。

 両手を召喚石にかざし、深呼吸をする。

 全ての神経を集中させ、魔力を込めた。


「お願い! 出て来て!!」

 かざした両手の間から、光が生じる。

 そして、その光の中からモンスターが現れる。


 召喚されたのは、スラまるだった。


「ぎゃはははは!! そりゃこんなクソガキに召喚石が使えるわけねーよな」

 男が笑い転げる。

 まるでジータにバカにされた時みたいだった。


「……やっぱり、僕には無理か」

「おい、俺のこと呼び出しておいて、何ガッカリしてんだ」

「ご、ごめん。僕がわるいんだ」

「そんなことより、さすがの俺でも、あのデカいのは倒せないぜ」

 トロールがゆっくりと近づいて来ていた。


「でも、何とかしなきゃいけないんだ」

「じゃあ、もっとやってみろよ」

「え?」

「まだ召喚できるだろ。やれるだけやってみろよ!」

 手元の召喚石に目を向ける。


 そうだ、一回でできるわけないんだ。

 だったら、できるまでやってみれば良い。


「やってみる」

 召喚石に手をかざし、魔力を込める。

 光が生じ、モンスターが現れる。

 それは、やはりスライムだった。


「ぎゃはははは!」

 男の笑い声が響く。

 だけどもう、そんなの気にならなかった。


「お、スラよしじゃねえか」

「スラまるさん? 僕も召喚されたってこと?」

「そうみたいだな」


 気を取り直して召喚する。

 やはり、またスライムが現れる。


「よう、スラみ」

「あら、スラまるちゃん」

「まだまだ」


 召喚する。

 またもやスライムが現れる。


「今度はスラやすか」

「おう、久しぶりだな」

「流石にもう飽きたぜ。ここで終わりだ」

「おい、あのデカぶつは俺たちで引きつける。お前は召喚に集中しろ」

「わかった。任せたよ」

 スライムたちがトロールの方に向かっていく。


「そんなやつら蹴散らしてやれ!」

 トロールが棍棒を振り下ろす。

 しかし、体の小さなスライムたちは、その攻撃をひらりと交わしていく。


 僕が、僕が頑張らなきゃ。

 今度こそ!!


 魔力を込めてモンスターを召喚する。

 しかし、現れたのはまたしてもスライムだった。


「僕はスラじろう、よろしくね!」

「う、うん。よろしく……」

「あれ? もしかして、グライデンさん?」

「そうだよ」

「うわー! 伝説の召喚士じゃん!!」

 スラじろうは飛び跳ねて喜びを表現していた。


「違うよ。誰かと勘違いしてるんじゃないかな?」

「ううん。間違いないよ。スラまる兄さんから聞いた通りだ」

「スラまるから?」

「スラまる兄さんは、いつも伝説の召喚士グライデンに呼び出されてるんだって」

「それは、スラまるが大げさに言ってるだけだよ」

「伝説の召喚士グライデンは、毎日毎日修行を積んでいて、成長し続けてるんだって」

「まあ、それはそうだけど」

「それに、時には勝てない相手と戦っても、絶対に諦めない人間なんだって」

「それは……まだこれからの話だよ」

「兄さんは、そんな召喚士に呼んでもらえることを誇りに思ってるんだ」

 スラまるの方を見る。

 彼は、トロールの攻撃をひたすらに避け続けていた。


「僕は、そんなんじゃないよ」

「え?」

「才能もないし。スライムしか召喚できないし。召喚石も使えないし……でも」

「でも?」


 ……でも、全然ダメだけど、期待には応えたい。

 だから、絶対に、最後まで諦めない!


「あっ、スラまる兄さん!」

 スラじろうが叫ぶ。

 スラまるに視線を向けた。


「デカぶつが、調子に乗りやがって!」

 スラまるはトロールに向かって突進していた。

 体当たりが、トロールに命中する。


「そんなカスみたいな攻撃、無意味だぜ」

 男がにやけながら言う。

 次の瞬間、トロールの拳がスラまるに叩きつけられる。

 そしてスラまるは消滅した。


「スラまる兄さん!」

「大丈夫。帰還しただけだから」

 すぐにスラまるを召喚する。


「あのデカぶつ、やっぱり硬いな」

「スラまる兄さん」

「お、スラじろうじゃねぇか」

「スラまる、ごめん、召喚石は使えそうにないや」

「グライデン、俺に考えがある。あと何匹召喚できる?」

「どうだろう? わかんないや」

「まあいい、やれるだけやってみてくれ」

「わかった。やってみる」

 今まで、何匹もスライムを召喚したことなんてなかった。

 一体、どれだけ呼び出せるかわからない。

 でも、とにかく今はできることをやるしかない。


「出て来て!」

 両手を前にかざし、魔力を込める。

 了解の間に光が生じ、スライムが現れる。


「お、スラゆき」

 間髪入れずに次のモンスターを召喚する。

 またしてもスライムが現れる。

 スラまるは、呼び出されたスライムに声をかけていく。


「スラぼうじゃん」

「スラすら!」

「スラばんぬ」

「えっとー、誰だ?」

 スラまるでさえも知らないスライムが呼び出される。

 気づけば、召喚したスライムの数は100匹に到達していた。


「……グライ君、すごい」

 父シルヴァのそばで戦いを見守っていたセナが声をもらす。


「彼には、こんな才能があったのか」

 シルヴァも自分の目を疑う。

 これだけのモンスターを呼び出せる召喚士など、見たことがなかった。


「おいおい、こんなに要らないぜ」

 スラまるも、スライムの多さに引いてしまう。


「え、嘘? どうしよう?」

「召喚した本人が戸惑ってるんじゃねえ!」

「ご、ごめんよ」

「おい、お前ら! あのデカぶつをぶっ倒すぞ!!」

 スラまるがスライムたちの指揮を執る。


「は? なんだお前? 偉そうだな」

 スラまるのことを知らないスライムが、文句を言い出す。


「おいグライデン、みんなを従わせろ」

「できるかな?」

「できる! 当たり前だろ」

「うん」

 スラまるに背中を押され、スライムたちの前に立つ。


「みんな! とりあえずスラまるの指示に従って!」

 精一杯声を張り上げる。

 大量のスライムからの視線が怖くて、つい目を閉じてしまっていた。


「……」

 恐る恐る、目を開けて見る。


「おう!!!」

 スライムたちが一斉に返事をした。


「相変わらずスライム任せだな。だけど、それで充分だ」

 そう言ってスラまるが前に出る。

 気づけば、トロールが棍棒を振り上げて、こちらに突撃していた。


「お前ら! 全員で壁を作るぞ!」

 スラまるの指示に従い、大量のスライムが積み重なっていく。

 あっという間に、目の前にスライムの壁が完成した。


「おいグライデン、俺が何を考えてるか、わかってるな?」

「もちろん。僕のことは気にしないで」

「ああ、そのつもりだ」

 すでにトロールは目の前まで迫っていた。


「行け! スライムごとぶち壊してやれ!!」

 男の指示を受け、トロールがスライムの壁を目掛けて、渾身の一撃を振るう。


「今だ! 逃げろ!」

 スラまるの声と同時に、スライム達が逃げ去る。

 スライムの壁は一瞬で無くなり、グライデンが無防備になる。


「はっはっはっ! 召喚したスライムにまで見放されるとはな。トロール、そいつをぶち殺せ!」

 トロールの棍棒が振り下ろされる。

 両腕をクロスさせ、その一撃を受け止めた。

 しかし、その威力によって、体が吹き飛ばされる。


「ぐわっ!!」

 どこまでも地面を転がっていく。

 体のいたる所が擦り切れ、血が流れる。

 何メートルも転がった所で、ようやく勢いが収まった。


「グライ君!」

「だい、じょうぶ……」

 何とかその場で立ち上がった。


「は!? 嘘だろ? 何で生きてるんだ?」

 男が驚きの声をあげる。


「僕は、生まれつき、体が丈夫なんだ!」

「は? 何だよそりゃ。だったらもう一発だ。行けトロール!」

「やらせねえよ」

 スラまるがトロールに飛びかかる。

 他のスライム達も、一斉に飛びかかる。


「そんな雑魚どもの攻撃なんて、効くわけねぇだろ」

「戦ったことあんのかよ?」

 スラまるが男に向かって言う。


「は?」

「お前、100匹のスライムと、戦ったことあんのかよ!?」

 スライムたちがトロールに突撃していく。


「これは、いけるぞ」

 シルヴァがつぶやく。


「え? お父さん、どういうこと?」

「1匹の攻撃は1ダメージしか入らないかもしれない。だが、100匹でやれば100ダメージだ」

「100ダメージ……」

「さすがのトロールも、耐えきれんだろうな」

 スライムたちの攻撃が、積み重なっていく。


「おい、トロール! 何やってんだ!? おい!!」

 シルヴァの言葉通り、トロールは消滅した。

 

「う、嘘だろ?」

 男が手にしていた召喚石が、崩れ落ちる。


「お前、覚悟しろよ!」

  スラまるが男に詰め寄っていく。


「く、くそ! トロールを倒したくらいでイキがるなよ」

 男が杖をかざす。


「スラまる! 気をつけて!」

 そう指示を出した時には、敵のモンスターが召喚されていた。

 それは、大きな鳥のモンスター、ゴーバードだった。


「熟練の召喚士はな、ちゃんと逃げるだけの魔力は残しておくもんだ」

 男はゴーバードの背に乗り、飛び去って行った。


「逃げるんじゃねえ!」

 スラまるが叫ぶが、すぐにゴーバードの姿は見えなくなった。


「グライデン君、助かったよ」

 シルヴァが立ち上がって言う。


「スライムたちのおかげですよ。みんなありがとう!」

 100匹のスライムたちは、嬉しそうに帰還していった。


「いや、これだけのモンスターを召喚した君のおかげさ」

「うん。すごかったよ! グライ君」

「そ、そうかな?」


 こんなに褒められることなんて無かったから、なんだか歯がゆい感じがする。


「私の考えが甘かった。またあんな奴らが来たら追い返せない。これは君に預かってもらおう」

 シルヴァが召喚石を差し出してくる。


「でもそれ、命より大切なものなんじゃないですか?」

「そうだ。だから信頼できる、君に託したいんだ」

「そうよ。グライ君、受け取って」

「でも、僕じゃ使いこなせない……」

「いいから、早く受け取りなさい!」

 セナが圧をかける。


「は、はい」

 シルヴァから召喚石を受け取った。


「今は使えなくても、君なら使えるようになるさ」

「はい、頑張ります」


 さっき試したときは、何の反応もなかったけど、僕に使えるようになるのかな?

 でも、とにかく頑張るしかないか。


「おじさん、ありがとう!」

「うん、頼んだよ」


 こうして、波乱の幕開けから、召喚士としての冒険が始まった。

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