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Ich liebe dich

 一番ガキの頃の記憶は、悲鳴の中で誰かに抱き締められていた記憶と、死体の山の中を泣きながら歩いた記憶だ。

 どれだけ探しても親父もお袋も見つからなくて……その後は色んなものを奪って、必死で生きてきた。


 最低な生き方だってのは認める。

 古い記憶の中で、「死にたくない」「助けて」って、オレのお袋かもしれないし、姉貴かもしれないし、親戚かもしれない声が叫んでた。

 ……殺すって、そういうことなんだろ。だから、悪いことだってのはわかるんだ。


 そうやって長い間、神も人も何もかも信じずに生きてたけど……神父様と出会って、希望だけは信じるようになった。




 なぁ、神父様。アンタはきっと、分かってないんだろうけどさ。

 オレを救ったのは神様じゃないし、教会でもない。

 他でもない、アンタ自身だよ。


「貴方に神のご加護があらんことを」


 あの日、オレみたいなろくでなしにアンタは笑いかけてくれた。

 その時から、オレは「神父コンラート」に夢中になった。

 みんなオレのことを煙たがったし、みんなオレのことを嫌った。オレだって、自分のことなんか大嫌いだった。

 そんなオレに、アンタは手を差し伸べてくれた。「奪う以外の生き方がある」って、言ってくれた。

 助けたって何もいいことないのに、利用するわけでもないのに、真剣にオレの未来を考えてくれた。


 口だけかもしれない。仕事で仕方なく言っただけかもしれない。……それでも……それが、どれだけ有難いことだったか。


 呆れるくらい真面目で、不憫なくらい優しくて、大人しそうに見えて(かたく)なで、しっかりしてそうに見えて(もろ)くて、儚そうに見えて強くて、冷たく見えて温かくて……


 そんな人だから、オレは救われた。

 そんな人だから、ここまで惚れ込んじまったんだ。




 ***




 眠りに落ちた神父様の髪を撫で、額にキスをする。指の隙間をサラサラと流れる銀の髪は相変わらず綺麗で、ついつい見とれちまう。

 彫刻みたいに整った顔と身体が、直接触れられる場所にある。……今日も、オレにたっぷり()()を与えられた綺麗な身体が、オレの腕の中にある。


 オレの腕の中で、愛しい人は穏やかに寝息を立てている。


「神父様、愛してます。ずっと、ずーっと、オレが(まも)りますからね……」


 叶わない恋だと思っていたし、生きる世界が違うから仕方ねぇと諦めるつもりでいた。

 ……だけど、神父様はオレの元に堕ちてきた。

 オレみたいなクソ野郎に……自分を傷付けたヤツらと同じ「盗賊」に縋りついて、護られて生きる羽目になっちまった。


 今の状態を、どっかで嬉しく思ってるオレがいて……マジで、最低だと思う。

 神父様は本当に苦しい目に遭って、痛い思いをして、身も心もズタボロにされちまったのにさ。

 オレだって、できることならそんな思いして欲しくなかった。上手く笑えなくなって、悪夢に苦しんで、自分を救ってくれない神様に祈って……そんな姿を見てたら、オレまで悲しくなってくる。


 でもさ、無理して冷静に振る舞う姿とか、強がってツンケンしてる癖にベッドの上では気持ち良さそうに鳴いてるトコとか……

 ホントに、めちゃくちゃ可愛いんだよなぁ……。


「ん……」


 ……と、神父様が寝返りを打ち、オレの胸に擦り寄ってくる。最近寒くなってきたからか、こういう仕草がだんだんと増えてきた。

 っていうかさ……なんつーかさ……あーーーー……超可愛い……マジ好き……オレの赤ちゃん産んで……いやダメだな。今産ませても苦労させるだけだしな。でも正直いつかは欲しい。三人ぐらい産んで欲しい。

 この前も「私は男だ」って言われたけどさ、あんまし関係ねぇと思うんだよな。だって神父様、子供産めそうな顔してんだもんよ。


 体温の低い身体をぎゅっと抱き締め、心臓の音に耳をすませる。

 とくん、とくんと響く音が、ちゃんと生きてることを伝えてくれる。


 ああ、愛しの神父様。

 人殺しのオレに護られて生きる、聖職者失格の美しいお方。

 いくら冷たくされたって、いくら邪険にされたって、一生護ってやる。

 ……例え神様がアンタを見放しても、オレは地獄の底までついていくよ。


 でもさ、本当は神様より……いいや、他のどんな奴よりも、オレだけを見て欲しいんだ。

 祈っても祈っても救ってくれない薄情な野郎なんかより、オレの方がよっぽど神父様を愛してる自信がある。


 神父様の身体が怪物になってたとしても、神父様の心が傷ついて歪んでいたとしても構いやしない。

 かつてオレは、間違いなくこの人に救われた。クソみたいな世界の中で、神父様だけがオレの救いだったんだ。


 神父様に寄り添い、オレも目を閉じる。

 この様子なら、今日はちゃんと深く眠れたっぽいな。……せめて、少しでも良い夢を見てて欲しいもんだ。


 神父様……オレ、きらきら輝く銀の髪も、時々赤色に変わる灰色の瞳も、血色の悪い滑らかな肌も、色っぽく鳴いてくれる喉も、よく鍛えられた引き締まった肉も、敏感になった傷痕も……アンタの身体も心も表情も態度も仕草も、とにかく全部が好きだ。

 オレだけは、何があってもアンタの味方でいるから。……だから……


 いつか、また笑ってくれよ。

 オレが今、いっちばん見たいのは、アンタの笑顔なんだ。


 ……冷たい目で見下されるのも、ゾクゾクするし嫌いじゃねぇけどな!

愛してる

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