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【完結済】堕ちた神父と血の接吻 ― Die Geschichte des Vampirs ―  作者: 譚月遊生季
外伝 ある破戒僧の愛

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中編(1) Il fratello

 宿に帰ると、ヴィルくんとコンラートくんの声が扉の隙間から漏れ聞こえてくる。どうやらイチャついているらしい。

 意気揚々と部屋に入ろうとして、フラテッロ・マルティンに首根っこを掴まれた。


「時間潰してから行くわよ」

「ええー、楽しそうじゃないか。僕も混ざりたい」

「頼むから自重なさい。……後で何事も無かったフリして帰るのよ、良いわね」


 マルティンは耳まで真っ赤になりながら、僕を引き摺って部屋の前から退かせる。あっ、助けて。首が絞まって苦しい。

 宿の入口まで来て、マルティンは「はぁ……」とため息をついた。僕の襟首もようやく解放される。ふぅ、窒息するかと思った……。

 

「ストレス溜まってんのね、きっと……」

「僕も溜まっちゃったよ。色々」

「お黙り」


 キッと睨まれたけど、実際かなり興奮してしまって仕方がない。

 コンラートくんの能力(ブーケ)が何かはわからないけど、鎮静作用? みたいなのがあるようには感じる。もしそうじゃなかったら、ドアを開いてすぐにでも乱入していたところだ。

 吸血鬼は個人差もあるけど、大抵××の×××がいいし、何より×××××が上手い。××××中の吸血行為は脳が蕩けるほど気持ちいいしね。


「じゃあフラテッロ、代わりに構ってくれるかい?」

「何が『じゃあ』なの??? 何の流れでそうなるのよ???」

「だって乱入しちゃダメって言うから……」

「そこら辺の路上でイチャつけって? 絶対嫌よ」

「じゃあ新しく宿を取ってあげるから」

「これだからボンボンは……」


 マルティンはやれやれと溜息をつき、それでも僕の後についてくる。

 とは言っても、そんなに手持ちに余裕があるわけじゃない。そこら辺の安宿でも取って、手っ取り早く済ませようかな……。


「…………ねぇ、この宿…………」

「さぁ行こうか!」

「待ちなさい。さすがにここでするのは……んっ」


 文句があるみたいだから、キスをしてみる。

 ……しかし、大きいな。背伸びをしなきゃ届かない。大きい身体の女の子、素敵だけどね。


「嫌かい?」


 見上げて首を傾げると、彼女は真っ赤になって「もう……」と呟いた。よし、ちょろい。畳みかけよう。


「優しくするから、ね? いいだろう?」

「し、仕方ないわね。そこまで言うなら、わたしも腹を括るわ」


 マルティンはどこからどう見ても人間の男性だし、はっきり言ってまったく好みじゃない。……なんて、言ったら殴られてしまうんだけど。

 ……だけど、彼女の想いには、答えてやりたいと感じるほどのいじらしさがある。星の数ほどいる女性の一人として扱うことしか出来ないけれど、彼女が「女性になりたい」と願うなら、付き合ってあげたい。


 それに、側にいると楽しいのは事実だ。


「……こっちの眼、見せた方がいいんだったかしら」


 部屋に入ると、ベッドの脇に立ったまま、マルティンは前髪を気にする。


「今日はいいよ。コンラートくんのおかげで準備できてるからあいててててなんで怒るんだい!?」

「……他の女のおかげで準備できた、なんて言うバカがいるなんてね……」

「こ、コンラートくんは男だよ?」

「…………そう言えば、そうだったわね。いや関係ないわよ。男だろうが女だろうがわたし以外に欲情してるのは間違いないでしょ」

「正直なところ、君はそういう枠じゃないし……」

「あんた、本当そういうところよッ!!!」


 なんていつもの如くじゃれ合いながら、ベッドに押し倒す。

 マルティンはぶつくさと文句を言いながらも、キスをすると大人しくなった。特殊な能力を持っているとはいえ、ただの人間ではあるけれど、純な態度が愛らしい。


「可愛いね、ちゃんと女の子みたいだよ」

「からかわないで……!」

「ごめんごめん、からかったつもりはないよ」

「……どうせ、誰にでも言うんでしょ」

「もちろん言うよ。可愛い女の子にはね 」

「最ッ低!」

「そう怒らないでくれよ。君も、可愛い女の子ってことさ」

「……もう……」


 今度は頬にキスを落とすと、照れたように静かになる。露骨な口説き文句は気持ち悪いと言ってくるけれど、あっさり目に口説かれるのはむしろ好きなのかな。覚えておこう。


 身体や外見に囚われるなんて、勿体ない。

 神様だって本当はそんなこと気にしていなくて、僕たち人間が勝手に気にして、恐れて、傷つけ合っているんだ。……少なくとも、僕はそう思う。




 ***




「……ちょっと、疲れたわ。先に帰ってて」

「おや? 良いのかい? まだ続いてたら混ぜてもらうつもりなんだけど」


 ベッドに寝たままのマルティンと会話しながら、服を整える。


「ああ、もう……勝手になさい。……ただ、二人にちゃんと聞くのよ」


 もう諦めたように、マルティンはごろりと寝返りをうつ。


「ありがとう、フラテッロ。何とか説得してみるよ」

「あんたねぇ……」


 溜息をつき、彼女は静かに呟いた。


「『フラテッロ(修道士)』じゃなくて、『ソレッラ(修道女)』とは呼んでくれないのね」


 人目につかない時は、修道女の服を身につけることもあるのが彼女だ。……その望みは、至極真っ当なものだろう。……だけど……


「…………。ごめん、それは……まだ、無理かな」

「なにか、事情があるの?」

「そ……そう、だね。一応は」


 金の瞳が僕を見る。……前髪が乱れて、あの真っ白な義眼も見える。


「良いわ。あんたがそんな顔するくらいだもの、よっぽどでしょ。わたしだって、無理に聞き出すほど鬼じゃないわよ」

「……ありがとう。いつか、話すよ」

「そうしてちょうだい」


 枕に頭を沈め、フラテッロ・マルティンはうとうとと船を漕ぎ始める。……ほとんど徹夜だからね。仕方がない。


「一つだけ……聞きたいことがあるんだ」

「何……かしら?」

「君の、妹の名前は?」

「……マルゴット……だけど……それが……?」

「いや、気になっただけさ。ありがとう」

「ええ……」


 燃えるような赤毛が、懐かしい記憶を思い出させる。眠りに落ちたフラテッロ(お兄さん)を背にし、僕は静かに安宿を後にする。


 ……そうかい。愛しい人(アモーレ)。君は、マルゴットという名前だったんだね。

「兄」

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