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夢の中の血縁者

作者: いと

 時々疑問に思う写真が家にある。

 私が生まれる前のアルバムに、両親の旅行の写真やお腹が大きくなった時の写真等がある。

 これから生まれてくる私の為に色々と準備をしているのだろうけど、赤ちゃん用のベッドが二つ置いてあったり、おもちゃも二つ置いてある。


 どうして二つなのかと昔聞いたことがあるが、母さんは毎回「親戚で使わなくなったおもちゃを貰ったのよ」と言う。

 父さんも「せっかく生まれてくる娘にできれば俺たちが買ったベッドやおもちゃを使わせたい。ただの自己満足だけどな」と言う。

 実は姉妹だったのではないかと思う。だが、仏壇には亡くなった祖父の写真しか無い。出産した時、私ではない方は亡くなったのではないかと思ったが、そういう証拠も無かった。

「こんなところにいたの?」

「あ、母さん」

「またアルバムを見て、どうしたの?」

「ううん、ちょっと探し物をしていた時に偶然見つけちゃって、気が付いたら見てた」

「そう」

 母さんはこのアルバムについて、多くは語らない。私から質問をしてもいつも簡素な答えしか言わない。家族の思い出のはずなのに、何故かこの時の話は寂しげに話す。

「えっと、凄い前に聞いたかもしれないけど、もしかして私にお姉ちゃんとかいたのかな?」

 そう聞くと母さんは少し黙った。

「いないわよ。春だけだったわ」

 苦笑する母さん。これ以上質問は出来ない感じに思えた。

「それよりも物置で埃を被って何を探してたの?」

「あ、うん。今度の剣道の大会に備えて、良い感じの棒を探してた」

「そう。無理に高い場所の物を取らないでね。怪我しちゃうから」

「はーい」

 そう言って母さんは去った。

「さて、良い感じの……ん?」

 作業を再開すると、奥で何か光った様に見えた。手を伸ばしてその光った物を取ると、何やら首飾りのような物だった。

「うわー、なんか不気味な首飾り。真ん中の宝石っぽいのは綺麗だけど、彫刻は……センスひどい」

 興味本位で首につけてみようと思ったけど、どうやらチェーンが壊れているのか、外せなかった。

「知恵の輪よりも難しい絡まり方してるわね。うーん、まあ良いか。最近じゃこういうのって魔除けとかで使われるんでしょ?」

 適当に腕にグルグルと巻いてみる。と、次の瞬間頭が殴られたような痛みが走った。

「いっ!」

 痛む部分に触れると、そこからわずかだが血が出ていた。

 思ったより強い打撃だったのか、意識が徐々に霞んでいった。

「かあ……さん」

 気を失う寸前で助けを呼ぼうとしたが、その声も届かなかった。


 ☆


「はっ!」

 意識が戻り、起き上がる。

 なんとなく体が重いと思ったら、布団に包まれていた。

「ここは……って、寒い!」

 窓の外を見ると、強い吹雪が目に入った。壁は石レンガで作られていて、まるで夢の国のアトラクションでしか見たことが無い家具が勢ぞろい。

 頭はまだ少し痛むが、意識はしっかりし始めて来た。その時だった。

 部屋の扉が開き、そこから水色髪の少女が入ってきた。

「◎▼◇▽◇◎?」

「え? 今、何て言いました?」

 水色髪の少女の肌は白く、眼は赤い。外国の少女……だろうか。

「え、ニホンゴ? あーあー、えっと、大丈夫ですか?」

 聞き覚えのある言語に安堵した。それにしても見た目はまだ小学生くらいなのに日本語が話せる外国人か。

「は、はい。えっとここは?」

「ここはワタチが経営する宿屋です。貴女は店の外で倒れていたので、とりあえずここに寝かせたのですよ」

 助けてくれたのだろうか。というか外で倒れていたのか。

「ありがとうござます」

「ワタチからも一つ質問です。貴女は『アキ』様では無いのですか?」

「へ?」

 突然の意味の分からない質問に少し驚いた。アキ……とは人の名前だろうか。

「えっと、私は春と言います。すみませんが貴女の名前を聞いても良いですか?」

「あー、ワタチは店主さんって呼んでください。名前を呼ばれるのは少し苦手なのです」

 変な人だ。とりあえず言う通り店主さんと呼ぼう。

 それにしても、そのアキという人かという質問が出たということは、その人と似ているのだろうか。

「話す言語がニホンゴなので、確かに貴女はアキ様では無いですね。どうやってここに来ましたか?」

「えっと、目が覚めたらここにいたので……」

 正直、夢の世界という印象が大きい。だって、周囲は石レンガ。そして水色の髪に赤い目の小さな少女。日本とはかけ離れた風景に夢以外考えられない。

「そうですか。その腕に巻いている物は何ですか?」

「ああ、家の物置にあったものです。見ますか?」

 そう言って渡すと、店主さんは首飾りをじっと見た。

「微小な魔力を感じますね。これを腕に巻いていたからこっちに来たのでしょうか?」

 魔力。

 やはりここは夢の中なのだろう。魔法とかオカルトの類は現実に存在しない。

 出来事をまとめると、この首飾りを腕に巻いていたからこの夢の世界に来た……という設定の夢なのだろう。

「お返ししますね。それと、この首飾りは次に目覚めた時、どこかに保管するか、その首飾りについて詳しそうな人に渡した方が良いかもしれませんね」

「わかりました」

 しばらく沈黙が続いた。


 ……うーん、夢からいつ目覚めるのかな。


「あー、えっと、そうだ。そのアキって人に会ってみたいです」

「アキ様ですか。まあ、今日は休暇で自宅にいると思いますので、ご自宅にいるでしょう。通訳も必要でしょうし、ワタチもついて行きますよ」


 ☆


 外は雪が降り続ける銀世界だった。

 北海道の森の中ってこんな感じなのかな。

「ここです」

 到着した瞬間、その建物の大きさに驚いた。

「えっと、集合住宅ですか?」

「いえ、アキ様はこの国ではそれなりに地位の高い騎士です。なのでそれ相応の家が報酬として渡されました。それでは入りますね」

 そう言って店主さんは扉を叩いた。すると、スーツを着た初老の男性が扉から出てきた。

『おや、『寒がり店主の休憩所』の店主様ではありませんか。いかがいたしました?』

『ちょっとアキ様に会いたいのですが、良いでしょうか?』

 何を言っているのかわからなかった。まあ、雰囲気的にアキという人に会えるかどうかの交渉をしているのだろう。

「許可が下りました。こちらです」

「は、はい」

 ついて行くと、長い廊下を歩く。所々にこの屋敷の使用人が作業をしていたのだが、私を見ると急いで頭を下げていた。

「貴女は本当に似ているのですよ。さ、こちらですよ」

 そして奥の部屋に到着。二度扉を叩いて部屋に入ると、そこには一人の女性が立っていた。

 黒い髪にキリっとした目つき。そして細身の体。


 まるで、鏡で自分を見ているかのような感覚だった。

 服装は違うが、例えて言うなら大きな遊園地で働く衣装を着たスタッフという感じだ。民族衣装と言うか、コスプレを着ているという感じ。


『店主殿、その方は?』

『ハル様といいます。えっと、理由があってこちらの言葉はわかりません。幸いワタチが知ってる言語で、通訳できます』

『うむ』

 私をちらちらと見ながら話している。多分私について話をしているのだろう。

「アキ」

 そう言って右手を差し出してきた。

「あ、は、春です」

 握手を交わすと、アキさんは微笑んだ。それにしても手の皮は凄く固い。何か力仕事をしているようなどっしりとした重みもあった。

「アキ様は騎士としても活躍していますが、剣術に関してはかなりの腕なのですよ」

「す、すごいですね」

 と言っても、どれくらい凄いのかわからない。まあ、とりあえず褒めるしか無いか。

『貴女はとても私に似ていますね。海の向こうから来たのですか?』

 アキさんの言葉を店主さんが通訳してくれた。

「多分海の向こうです。日本という国に住んでいます」

 と言っても夢の中の世界だから、ここは適当な設定を作って乗り切れば、いずれ目を覚ますだろう。

『そうですか。ここへは何をしに?』

「目を覚ましたらここに来ました」

『それは……ご家族が心配されるでしょう。今日は私も休みなので、ご協力しますよ』

「いえいえ、多分大丈夫です」

 説明が難しい。夢の世界だし、現実の私が目を覚ませば大丈夫……ってどう言えば良いのかな。

『そうですか。もし帰れない場合は相談してください』

「どうしてそこまで心配してくれるのですか?」

『私には血のつながった家族がいません』

 その言葉に耳を疑った。亡くなったのだろうか。

『実は、私は物心がついたときからここで育っていましたが、十歳を迎えた時に真実を言われました。親だと思っていた方たちは偶然外で泣いている私を見かけ、保護し、育ててくれたと』

 つまり、捨てられていたのだろうか。

「本当の親を探したりはしたのですか?」

『あらゆる手を使いました。この国随一の頭脳を持つ方にも会い、私の本当の両親について探す方法を考えてもらいましたが、結果、今の時点ではできないという答えだけでした』

 見たところ技術的にも電気が無い世界。情報も飛び交っていないこの世界では人探しは困難っぽいよね。

『随一の頭脳を持つ方から、わずかな可能性として考えられるのは、別の世界から来たかもしれないと言われたよ』

 その言葉に何か引っかかりを感じた。私と似ていて、生まれる前は双子だと言われていたのが、いざ生まれたら私だけだったという状況……まさか……?

「そう、ですか。もしそうならどうするのですか?」

『何もできない。私はこの国で色々な恩を受けた。騎士として国民を守る。だから……もしも別の世界に両親が居るのであれば、元気に過ごしていることを祈るばかりだな』

 私と顔つきはとても似ていて、多分年齢も同じくらいなのに、どこか大人な感じがした。よく見ると顔の所々に擦り傷があり、怪我なども沢山したのだろう。

 と、そんな話をしていたら、扉が叩かれた。

『クアンだ。失礼するよ』

 扉が開かれ、そこから栗毛の小さな少女が入ってきた。

『この辺を歩いていたら足が冷えてな。悪いが少し暖を……おや?』

 最後の『……おや?』まで店主さんは通訳してくれた。いや、そこまで通訳してくれなくても良いのだけど。

「こほん。君は日本人かい?」

「はい……え? 日本語?」

「何も変では無いだろう。先程から通訳をしてくれているそこの水色髪の店主が日本語を話しているのだし、クーも母国語では無いが、日本語は少々話せる。申し遅れた、クーはクアンだ」

「はあ、えっと、如月 春です」

「なるほど。春か。ここまで雑な運命のいたずらというのは予想ができないから大嫌いだ。クーの足が冷えたというふざけた理由で来たらこんなことになっていたとはな」

「こんなこと?」

「なんでもない。……ふむ、なるほど、若干の日焼け以外は同じだ。ここでディーエヌエー鑑定ができれば、断言できるのだが、残念なことにこの世界には技術が存在しないからな」

 ブツブツと話すクアンさん。ディーエヌエーという単語が出たということは、やっぱりこのアキという人は私の……。

「おっと。結論は出しては『ダメ』だ。君にとってこの世界は夢の中だと思った方が良い。仮説だが、君に似合わないその腕に巻いた道具の影響でこの世界に来たのだろう。二度とこの世界に踏み込むのは止めた方が良い」

 何も言っていないのに、まるで心を読んでいるような感じすら思えた。

「日本の昔話にもあるだろう。君は今、カミカクシのようなものに遭っているんだ。ここでの出来事は全て夢。そしてその腕の道具は元の世界の怪しい店にでも売った方が良い。地球で育った君がこの世界で生きるには、厳しい環境過ぎる」

 全て日本語で話しているため、アキさんは首をかしげていた。

「これはあくまでも私の大きな独り言ですが、アキさんに真実を伝えなくて良いのですか?」

「断言ができない。世界には顔が似た人は沢山存在する。証拠が無い発言は虚言と一緒だよ」

 欲しい答えを言ってくれないクアンさんに若干のいら立ちを感じた。この人は多分全部理解している。なのに隠している?

「おっと、そんな顔をしないで欲しい。クーはわざと意地悪を言っているのではなく、本当に断言できないだけだ。意地悪だと思うのであればそう思ってもらって構わない。金輪際クーと君は関わらないから何を思ってもらっても良い。ただ、本当に君たちの間に血縁関係が証明できるなら、即時事実を言うだけさ」

「私が生まれる前の検査では、双子と言われていました。いざ生まれたと思ったら一人だったと教えて貰いました。これは証拠になりませんか?」

「そっちの世界の今の技術がどれほど進んでいるかはわからないが、何かの影が映り込んで双子だと当初は判断した等だろう。強いて証拠を探すのであれば、当時担当した医師に聞いた方が良い。ただ、真実は言ってくれないだろうからな」

「え!?」

「当り前だ。もちろん生まれてすぐに適切な処置を行うだろうが、跡形もなく消えていたのであれば、誰も何も言えない。もしも何かの間違いで床に落ちてしまった等であれば、それこそ証拠が残る。本当の意味で『消えた』のであれば、医師たちは集団幻覚を見たと思う他無いだろう」

 私もクアンさんも、一つの結論には辿り着いているはずだ。そしてここまでクアンさんが話しているということは、本当に意地悪で話さないわけではないのだろう。

 完全な証拠が無い。そういうことなのだろう。

『えっと、クアンさん、ハルさん、言い合っていますが大丈夫ですか?』

 店主さんの通訳でアキさんが私達の心配をしていることを教えてくれた。

 ……アキさん……秋さん。

「質問です、何故、この人はアキさんという名前なんですか?」

「嘘偽りなく答えよう」

 話始めたのはクアンさんだった。

「この子が見つかったのはこの街のとある家の布団の中だった。突然現れた赤子に家主は驚き、どこから来たかわからないため、相談役としてクーの所へ来た。布に包まれており、手首にはタグがついていて、そこに名前のような物が記載されていた」

 見た目は少女だが、このクアンさんはアキさんよりも年上なのか。全然そう見えなかった。私よりも半分くらいの身長だし、もしかして人間では無い?

「そこまで分かっていて、まだ私と無関係と言い切れるのですか? 日本語でアキと書かれているタグはかなり重要な証拠だと思います!」

「無関係とは言い切っていない。断言できないだけだ。関係があるかもしれないという可能性だけはある物の、不明点が多すぎる。考えてみたまえ、突然日本国からこの世界に前触れもなく転移してきたのだよ? 科学的な照明を君はできるのか?」

 その言葉に私は何も言い返せなかった。

 ワープや瞬間移動はフィクションだ。とくに異世界に転移なんて、小説や漫画の世界でしか見たことが無い。

 でも……それでも、本当だったら姉妹だったかもしれないという可能性。そして姉だったかもしれない目の前のアキさんを見て、色々と感情が崩れてきた。

 私は何不自由も無く生きてきて、普通の高校生活を送ってきた。

 一方で、アキさんは……秋姉さんは傷を負いながら必死に生きていた。夢の中の物語かもしれないし、

「あの、ちょっと良いですか?」

 と、店主さんが私の背中を突いてきた。

「色々と悩んでいるようですが、こういう解釈はいかがでしょう。この世界は夢なんです」

「ゆ……め?」

「そうです。考えても見てください。貴女にとってここは異世界かもしれませんが、都合よくニホンゴを話せる人が二人いる。こんな都合が良い場面は夢以外考えにくいと思いませんか?」

「……た、たしかに」

 夢であれば、多少無理がある設定ですら受け入れることができる。

 つまり、今までさんざん悩み、このクアンさんと言い合っていたことも、夢だからこそ色々と頭が回っていたから?

「良い解釈だ店主。夢の住人がここは夢だと言うのは変だが、君にとってはそれこそ夢だからありえる現象だ。夢の中で自分に似た人が登場するなんて、可能性としてはあるだろう?」

 その通りだ。夢は現実では考えられないことが普通に起こりうる。じゃあ、ここは夢?

 季節由来の名前で、偶然顔も似た人が出てくることも、夢だったらあり得る。

『ハル……』

 考え込む私をじっと見るアキさん。うん、これも全て夢なのだろう。

「さて、暖も取れたことだし、クーはそろそろ出て行くとするよ……っと、その前に、春殿。首元になにやらゴミがついている。クーが取ってあげよう」

「え、は、はい」

 クアンさんの身長じゃ届かないため、私は少し屈んだ。


 次の瞬間。


「これが、最善手だ。悪く思うな」


 強い衝撃が後ろから伝わり、私の意識は飛んだ。


 ☆


「はっ!」

 目を覚ますと、私は物置の中で寝転がっていた。

「いっ、頭が痛い……」

 周囲を見ると、どうやら少し高いところに置いてあった木箱が私の頭に当たったらしい。それで気絶していたのか。

「はるー、まだ物置にいたの?」

「へ、あ、うん。ごめんごめん」

「春にお客さんよ」

 客?


 一体誰だろう。

 軽く服についた埃をはらい、部屋に入ると、そこには水色髪の少女がお茶を飲んでいた。

「へ!? 店主さん!?」

「あら、知り合いなのね。何をしている方なの?」

「へ、あ、えっと、なんというか」

 夢の中にいた店主さんそっくりな少女とは言いにくい。

「ワタチはちょっとマニアックな雑貨を扱っているお店を持っていて、春様とはそこで数回会ったことがあるのですよ。今日はその……腕に巻いているネックレスを引き取りに来ました」

 私は現実で店主さんと会ったことは無い。が、夢の中で会ったとも言いにくいし、何より店主さんの『話を合わせてください』と目で語っていた。

「そ、そうなの。えっと、これですよね」

「はい。これは悪い夢を見せる道具ということで、ちゃんとした人が管理しないと危ないのですよ」

「へー、そんなオカルトな物がこの家にあるってどうやってわかったのかしら?」

 母さんの素朴な疑問に店主さんは答えた。

「春様の祖父の友人……と言ってもかなり遠い繋がりになりますが、そこから譲ったという情報をもらい、尋ねました。ちなみにこれを譲っていただけたらそれ相応なお金は支払います」

「うーん、と言っても私達も知らないネックレスだし、ちょっと不気味だし、差し上げますよ」

「それは助かります。最近は不景気で稼ぎが少ないのですよ」

 ペコペコと頭を下げる店主さん。私はそっとネックレスを腕から取り、店主さんに渡した。

 すると、今まで絡まっていたつなぎの部分が、まるで絡まった糸が解けるようにスルっとほどけて、ようやく首につけることができる状態になった。

「おや、これは最初からこの状態でしたか?」

「いえ、なにやら絡まっている感じで、初めてほどけた状態を見ました」

「そうでしたか。これは……あー、つなぎの部分がちょっと特殊で、一度つけると人の手を借りても外すのが難しいんですよね」

 おおー、じゃあ腕に巻いたのは正解だったのか。

「ではワタチはこれで」

 そう言って店主さんは立ち上がった。

「あ、あの」

「はい?」

「変な話だと思うのですが……店主さんの事を夢の中で見た気がするんです。声も同じで……」

 夢の話を人に言うのはかなり変だ。だが、今まで見た夢の中でも一番はっきり覚えている。偶然このネックレスを取りに来たということは、もしかして、夢の中の店主さんとこの人は何か接点があるのだと思った。

「そうですか。夢の中のワタチと……いえ、夢のお話ですよね。凄い偶然でしたね。ですが、夢は夢です」

「そう……ですね」

 そして店主さんは靴を履いて扉を開けた。

「では失礼しました。もしよろしければ都内の裏路地の店に来てください。このネックレスはお売りできませんが、他の商品ならサービスしますよ」

 そして、夢の中に出てきた店主さんそっくりな店主さんは、ニコッと笑って出て行った。


 夢と現実が交差する不思議な経験を、この短時間で味わった。そんな気分のままこれから普通の日常を迎えるのだった。


 了

 こんにちは。いとです。

 凄く久々に短編を書きました。

 今作は凄くざっくりと言うと『消化不良な物語』となります。

 というのも、夢というのは時々面白くなるところで目が覚めたり、気がつけば夢の内容は忘れていたりなど、凄く曖昧で中途半端な感じという考えがあり、今作では何一つ解決しない、ただ主人公春が自分にそっくりで名前が『アキ(秋)』というあからさまなのに、結局のところ本当に双子なのかどうかわからないという中途半端な物語になります。

 主人公は春ですが、クアンが話を逸らす方向で動いていたり、最後に夢にも出てた店主そっくりな少女が出て、都合よく道具を回収するなど、かなり強引で消化不良で何も解決しない物語となりました。

 実際、この春が現実と思っている部分も夢かもしれないという……。


 少しでも楽しんでいただけたら幸いです!

 連載も行っているので、そちらもよろしければどうぞ!

 では!

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― 新着の感想 ―
[一言] 夢を題材にするのって、鮮度と勢いが大切ですよね。自分なりに形を残したい!と思って文章にすると、大抵「何こりぇ?」となりますが、逆にそれが良いのです。
[一言] おお!? 今回は、2つの世界がつながっていますね。 どちらも本当かもしれないしどちらも夢かもしれない、こういう感じは好きです!
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