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森の重蔵またの名は柳生十兵衛

作者: 高橋ひかり

【なろうラジオ大賞2】の応募のために投稿した【森の熊さんの困った一日】の前日譚。

 柳生十兵衛が名前を変え、<猫猫長屋>にやって来るまでの話。

 時間は正午ごろ、江戸の柳生藩下屋敷に袖無し羽織に裁っつけ袴、深編笠を被った男が立っている。

「誰かおらぬか」

 深編笠の男が屋敷内に向かって声をかけると、一人の男が出てきた。表向きは下屋敷で下男として働いているが、裏柳生の忍びとして働いている佐平という男だ。


「へえ、どちら様で?」

 佐平が怪訝そうにしていると、「俺だよ」と言いながら深編笠をあげると、見覚えのある無精髭を生やした男の顔が見えた。

「じゅ、十兵衛さま!?」

 十兵衛様と言われて「様は止めてくれ。十さんと呼べと言っているだろ」と苦笑いをした。

 柳生藩下屋敷に現れた深編笠の男は、柳生但馬守宗矩の嫡男、柳生十兵衛三厳だった。


「ところで十さん。いったい江戸へは何しに? 確か柳生の庄にいたはずでは?」

 十兵衛は、実はなと言いながら懐から一枚の手紙を取り出した。

「又十郎から火急の用があるので、江戸へ来てほしいと書いてあってな。急いでやって来たというわけだ」

 火急の用? と佐平は首を傾げた。

「とりあえず中へ入っていいか?」そう尋ねると、佐平は十兵衛を屋敷内の奥まった部屋に通すと、慌てて上屋敷に柳生宗冬を呼びに行った。


 しばらくして宗冬が下屋敷に到着した。

「兄上、お早い到着で」

「おう又十郎、変わりないか?」

「お陰様で」そう言うと十兵衛の向かい側に座った。


 宗冬の眼を見据えながら「わざわざ忍びを使ってまで、俺のところに手紙をよこして、いったい何の用だ?」と口を開くと、宗冬は言い難そうにしている。

「俺にしかできないことか?」


 表沙汰にはなっていないが、十兵衛は秘密裏に堀一族の女たちの仇討ちを手助けしたり、死んで蘇った剣豪を使い幕府転覆を企んでいた賊を倒している。


「まだ確証はないのですが、兄上にしか頼めないことです」

 またしても徳川幕府の転覆を企んでいる輩がいる。しかもその背後には、大名が関わっているようなのだが、確たる証拠がない。


「そこで俺の出番ということか」

 宗冬に事の成り行きを聞きながら、十兵衛は無精髭を撫でた。そして「1つ条件がある」と切り出した。

「それは何ですか?」

「それは、俺が死ぬことだ」


 十兵衛の発言で、宗冬は眼を見開いた。


「会津や蘇った剣豪の一件で、俺は目立ちすぎた。仮に裏柳生を使ったとしても、秘密裏に行動するのは難しいだろ」

 宗冬に向かって落ち着けと宥めながら、話を続ける。

「そこでだ。柳生十兵衛()が死んだとなると、裏柳生の存在を知らない奴らは油断するだろ」

 十兵衛の奇抜の提案に宗冬は驚いている。

「しかし、そうなると、兄上は――」と言いかけた宗冬を遮って「言っておくが、兵法指南役をやる気はないからな」と十兵衛は口を挟んだ。

「俺は釣りをしたり、鷹狩をしている方が性に合ってる」


 しばらくして鷹狩のため出かけた先の弓淵で死んだ柳生十兵衛が発見された。しかしその実態は、心臓麻痺で死んだ背格好が似ている罪人の顔を十兵衛そっくりに変え、放置したのだ。放置したのは十兵衛が手足として使っている裏柳生の忍びだ。


 時を同じくして野良猫がたくさんいる長屋<猫猫長屋>に、一人の男が引っ越してきた。後に、長屋の子供たちから<熊さん>と呼ばれ親しまれる<森の重蔵>こと柳生十兵衛だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。  おもしろかったです。  楽しみました。  読み物として楽しみ、さりげない小ネタにニヤニヤが止まりませんでした。  どストライクなんです(笑)  つまり、『魔界転生』…
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