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プロローグ〜青森ガール〜

 中学生というのは、多感な時期だ。周りの人や環境の影響を受けやすく、さらにそれによって人格が形成されていく。相手の考えなども否定することなく受け入れてしまう。


 ―――耳を澄まさずとも、セミの鳴く音が聞こえる、嫌でも耳に入ってくる。

 この音を鬱陶しく思う人は多いかもしれないが、少女はこの音を聞くのが意外と好きだった。

 青森といえども、気温自体は都会とそう大して変わらない。救いがあるとすれば、アスファルトが比較的少ないので、地面からの照り返しが少ないことだろう。緑が多いことも、視覚的な暑さ緩和になっているかもしれない。しかしここは山であり、太陽がじりじりと頭を照りつけている。


 炎天下の中、山道を歩く男女2人がいた。黒のセーラー服姿の少女と、学生服の少年であった。少年の片手には、ケーキの入った箱が握られていた。


「おい白雪、本当にこっちで合ってんのか?」

 前を歩いていた黒髪の少年が振り返り、その大きな瞳が雪へと向けられた。

『合っているわよ。先を歩かないで黙ってついて来なさい、ニート』

 黒のセーラーを着た少女は顔を上げた。

 夏とは思えないほど白く透き通った肌と、黒くて真っ直ぐと長い髪の毛が印象的だ。


 ―――真白雪は、高校1年生になった。王子と初めて出会った日から、約2年半もの月日が経つ。

 あれから雪は、王子や妖魔たちと共に生活してきた。自分でも驚くほどにその生活に馴染み、快適に過ごしてこられた方だと思う。

 …自分の隣には、元ストーカー(仮)まで増えているのだから、随分と賑やかになっただろう。


「全然俺らの家見えてこないけど?全然知らない道だし」

 この男こそが元ストーカー(仮)であり、現在の同居人でもある。名前は内藤新人(ないとう あらと)

 雪とは正反対な性格で、感情表現が豊かでとにかく騒がしい。近くにいると、こっちが若干疲弊するような存在だ。理由あって…というか、それもほとんどストーカー的な理由で、途中からこの家に住むことになり、一緒に過ごす時間が増えた雪は毎日ため息をつきながら生活している。


 ところでニートと呼ばれるに至ったのは、新人の読み方を間違ってニートと読んだ王子が原因である。

 しかしここで大切なのが、ニートだからそう呼ばれているものではないということだ。

 なぜなら彼は雪と同級生、つまり学生である。


 そしてこの男は以前、「白雪と同じ中学に通うため」という理由で、雪の通っていた中学校に無理やり転校して来た前科持ちだ。それ以降この男と共に通学するようになった。お察しのとおり、現在は同じ高校に通っている。


 新人のその堂々としすぎる態度から、「ストーカーと言えるのか?」という議論に度々なったことから、ストーカー(仮)の位置付けとしている。ここまでストーカーに寛容な王子たちや雪は少しどうかしているのだろうが、それについては今は置いておこう。ひとまず、高校からはお互い通信制になったため、通学の機会が中学に比べて減り、雪のストレス度も少し低下したのは幸いである。


 本来ならば王子と共に過ごす時間が一番好きな雪は、居るだけで疲弊する男と共にわざわざ行動する時間などはっきり言って「どうでもいい」のであるが、今日だけは“王子のお祝いケーキを買うため”というミッションを遂行中のため、いつもよりため息をつく数は少なかった。



『うるさいわね。あ、次の道を右。あともう少しすれば見えてくるわよ』

 雪の言葉を聞いた新人は、目を輝かせて、

「おっじゃあ急ぐぞ白雪!」

 そう言うと、急に走り出した。

 万が一コケたりでもしたら、箱の中のケーキはオジャンだ。


「!ちょっと…!ケーキ入ってるんだからあまり揺らさないでよね」

 雪もそれを追って走り出した。新人の身の安全よりも、ケーキの心配をしながら―――



 雪はあの日、王子の手を取ったことをいまだに理解できていない。

 後悔しているというわけではない。むしろ感謝しているぐらいである。手を取らなければ、こうして王子たちと楽しく生活することはなかっただろう。今の自分がどうなっているかはわからないし、そもそもここまで生き延びているかすらも謎である。だが、雪の通常の思考からすれば、王子の手を取ることなどまずありえない。だからこそ、なぜ手を取ったのかと疑問を抱き続けている。


 しかし雪自身は、その疑問を解明しようとはしない。なんとなく理解したいとも思わないのだ。だから、ずっと疑問を抱くだけである。これは、あの日から―――ずっと変わらない。


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