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第1話「俺はKちゃんを、高々と跳ね飛ばしたのだった」

モヨコ、小説を書き、俯瞰し、少女に出会う。


 ドダダダダダダダダダダダダ!


 夜。

 とあるアパートの六畳間で、俺はキーボードを高速で叩く。

 その音はまるで機関銃。

 俺の指は稲妻。

(ブラインドタッチは出来ないので)タブレットの画面をチラ見しながら、俺は俺の物語を、言葉の木塊から彫りだしていく。

 

『そう、ある朝、私は病院で目覚めた。初めは自分がどこにいるのか……何故、鳳仙花の壁紙が囲む私室でなく、こんな見も知らぬ所にいるのか。さっぱりわからなかった。しかし、ここが病院であることはすぐわかった。何故ならkokohatotemoseiketude……』


 は、いかん!手が滑ってローマ字モードに切り替えてしまった。慌ててバックスペースを押して、ミスタイプを消していく。『ら』の部分まで消してしまってから、なんか、今日はもう終わりで良いか、なんて思い始めてしまった。

 こんな初歩的なミスするなんて、疲れている証拠だ。やmetoitahougaii……ほら、またやってる!


 俺は文書を保存して、小説エディタ『ゴーストライター』を閉じた。疲れた。本日の作業時間は2時間半。5334文字(空白除く)。うん、まあまあだ。俺は頷く。このスピードで書けるやつはそういまいて。書くスピードは自慢の一つだ。

 俺はタブレットを休ませるため、充電器を抜き、スリープモードにしてデスクの上に平置きした。そしてポケットからスマートフォンを取り出し、とあるサイトを開いた。そのサイトは


『小説家になるんだよ!?』


 という、小説投稿サイトだった。投稿サイトの中でも最大級の知名度と規模を持つサイトで、ここからのアニメ化や書籍化は珍しくない。だから、文学賞投稿を目指すジャンル違いの俺でも、存在は知っていた(ちなみに、まだ賞投稿用作品は完成していない。一つも!)。

 だが、このサイトのメインはいわゆる『ライトノベル』と言われるジャンルであって、太宰や芥川や、ちょっとズレても乱歩や夢野久作を志す俺には、まったく関係がないものだと思っていた。


 しかし、ある日、そうも言っていられなくなるような、とある事件が起こったのである。


 それは、つい一週間前のこと……。





 ドダダダダダダダダダダダダ!


 夕方。

 とあるコンビニの事務所で、俺は机を勝手に借りてキーボードを高速で叩いていた。バイトの休憩時間でも、俺は小説を書くのをやめない。俺の集中力は、それこそ神か悪魔かと言った勢いで、もはや邪魔を出来る者はどこにmoinaida……間違えた!!

 俺は憤慨してブルートゥースのキーボードを地面に叩きつけた。当然キーボードは壊れ、FとUとCとKのキーが宙を舞った。そしていずれもバラバラの方向に散りじりになってしまった。

 

 しまった、これでは俺の悪罵のレパートリーが一つ減ってしまう!

 俺は慌ててキーを拾っていった。今考えてみれば、キーを拾ったところでキーボードが壊れているのだから、実は何の意味もないことだったのだが、その時の俺は気がつかなかった。気がつかないで、FをCをと見つけ出し、Uを廃棄弁当を入れる青いカゴの下から救い出し、残りのKちゃんを残すのみとなった。


 しかし、コンビニバイト経験者の方ならご存じだと思うが、コンビニの事務所は色々な物が乱雑に置いてあって、汚いのだ!だからキーボードのキー1つ見つけるのも、鬼のように苦労する。もしファイルやら紙類やらが詰まったロッカーの下に滑り込んでいたなら、まず見つからない。

 バイトが終わってからならばあるいは、ということではあるが、とにかく今は無理だ。だって、後5分で休憩が終わってしまう。しかし、俺は諦めたくなかった。


 Kは大事な仲間だ。

 俺がよく使う「糞」にも「こんちくしょう!」にも「企画倒れ!」にも、たくさん使う。今書いているSF物の舞台である惑星、「ケカキココキーコ」なんて、Kを打たない所は、な、なんとハイフンしかないのだ!あいつがいないと、俺は生きていられない!見つけなければ!俺は両手をついて、Kの捜索を開始した。


 この捜索が、実は何の意味もないことに未だ気付いていない俺は、必死になって探している。こうして俯瞰してみていると、実に滑稽だ。悲しくなってくる。

 自分のアホさ加減はもちろんのこと、それに加えて、こういう神の如き視点で見るのが、自分の恥ずかしい映像というのが、悲劇的じゃあないか。虚しい、セルフ・カタストロフ。

 どうせ見るなら、もっとなんか、ないもんか。女子高生のお風呂、とか。

 

 ………………

 

 いかん、作者の品性が疑われる。と、とにかく俺は、涙ぐましくもKちゃんを探した。四つん這いになって荷物の下を覗いたりして、どかせる荷物は移動させて、大捜索を行った。でも、見つからない。あー、畜生!そう心で叫ぶと、カウンターの方から武者小路先輩が休憩にやってきた。


「時間だぞ、モヨコ君!」

 自慢の口ひげを指でつまみ、ピン!と弾き、武者小路先輩が言った。糞!タイムリミットか。俺は天を仰いだ。

 その俺と今、過去を観察している俺の視線がちょうどぶつかったが、あの時の俺は気付かなかった。当然だ。これは俺の打っている、回想シーンなんだから。時間軸的に考えて、今こうして俺を見ている俺は、あそこには存在しない。


 ちなみに、俺のモヨコという名前は本名で、言葉使いでわかるとおり、男だ。この怪しい雰囲気の名前は、『ドグラマグラ』が好きな両親がそのヒロインの名前から取った物で、子供が出来たら絶対付ける、と決められていたらしい。彼らにとって俺の性別はどうでもよかったみたいだ。

 当然、その名前が引き起こす凄惨な逸話が、子供の頃からたくさんあるのだが……それはまたの機会に披露するとしよう。とにかく、俺はKの捜索を諦めて、武者小路先輩と入れ替わりでレジに向かった。

 

 すると、そこには一人の少女が立っていたのだ。

 しかも、美少女だ。

 大きな目に黒縁眼鏡、小さくも高めの鼻、小さい口。ビビットなピンクカラーのロングヘア(まるでラノベだ)。

 着ているのは近くの中学校のセーラー服なので、中学生なのだろう。そして、下校ラッシュはもう終わっているので、恐らくは部活帰りだ。そこまでは予想できる。


 でも、なんでこの子は商品も持たないでレジに並んでいるのだ???俺は訝しんだ。


 なに?クレーム?中学生が?


 いや、ありうる。少し前に、コンビニの店員を土下座させて、動画をあげる行為が流行っていた。いや、流行っていた、というか、やってるヤツがいた。これもその類いの遊びなのかもしれない。

 だとしたら、怖いお兄さんとかが、どっかにいるかも……。

 俺は周りをキョロキョロと見回すが、この子と俺以外、店内には誰もいない。怖いお兄さんが出てくることは、多分無いだろう。少し、安心した。


「あ、あの……」


 胸をなで下ろしていると、少女が声をかけてきた。

「は、はいっ!」

 突然だったので、びっくりして声が裏返ってしまう。

「ど、どうしましたぁお客様あぁ!?」


 彼女は俺の様子に驚いて、若干引いているようだったが、少し逡巡してから、おずおずと小さい黒い物を差し出してきた。

「こ、これ、落ちてました……」

 彼女からそれを受け取って、確認する。黒い薄いプラスチック。

 白文字で、『K』と『の』、の二文字が刻まれていた。


「うぉぉぉぉぉKちゃぁぁぁぁん!!」


 俺は大喜びで踊り出した。コンビニの監視カメラに残ることも厭わず、踊り狂っていた。

 この時は、自分がどんな踊りをしているかわからなかったが、今こうして見ると、なにがどうして高知県の祭で踊られる『よさこい』をやっているのだ?生まれも育ちも東京都だぞ?俺は。

 少女を見れば、隠すこと無く思いっきり引いている。当然か。今、俺だって引いているくらいだもんな……。


「Kちゃん、愛してるぶちゅぶちゅ♡」

 それに加えて、文字にキスだ。もう、これはヤバイ。過去の自分のことなのに、俺は思わず警察に助けを求めたくなった。「大変変態なんです!助けてください!」って。いや、これはもう、紛う事なき大変態だ。


「あ、あの……」

 少女がまた、緊張しながらも話しかけてくる。そうだ、お礼を忘れていた。


「いや、本当にありがとう!君は未来の文豪を救ってくれた!」

 過去の俺はこう言っているけども、未来の俺もまた何度でも言ってやる。キーボード本体が壊れているから、この喜劇には何の意味もない、と。

 それに気付いていない俺は、彼女の手を握って礼を繰り返していた。

「ありがとう!本当にありがとう!」


「え、ええっと……」

 興奮している俺に、少女が話しかけてきた。

「ん?なに?」

 俺はそこでやっと礼を止めて、彼女の顔を見る。

 少し潤んだ鳶色の瞳。

 上気して桃色に染まる頬。

 か、可愛い……。


「その、Kちゃんって呼ぶの、止めてくれませんか?」


「え?」

 俺はその言葉の意味を考えた。KちゃんはKちゃんなのに、どうして呼んだらいけないのだ?むしろ他になんと呼べと???

 俺は必死になって考えて、なんとなく、思いつくことがあった。

「あ、ごめんごめん、キーボードのキーをちゃんつけなんて、おかしいよね」

 俺は照れ笑いを浮かべながら謝った。


「え?」

「いやあ、そんなことするヤツ、きもいもんね。ごめんごめん、怖がらせて」


 俺は必死に弁明した。していると、段々自分が恥ずかしくなってくる。というか、冷静になって考えると、ヤバイ。気持ち悪い。ぶちゅぶちゅ?だって?うわ、なんだそりゃ、捕まっても文句言えんぞ……。


「いや、本当にごめんなさい。もう、しませんので。はい、お願いだから、許して……」

「あ、いえ、そういうことだったのなら、いいんです」

 少女は一息ついて、俺を見上げた。


「私、名前が『ケイ』って言うので……自分のことかと、驚いちゃって」


 ニコッ、と笑うケイちゃん。

 その笑顔を見て、俺の心は、何故か高鳴った。





『可愛らしい 天使のような その笑顔

  俺は一発で 恋に落ちけり』

 

 モヨコ、心の一首




読了ありがとうございます!

どうでしたでしょうか!?

ラブコメを書くのは初めてなので、感想などいただけたら嬉しいです!

では、また次回!!

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