エピソード102 決意
空中で浮遊しながらお互いに睨み合った。
化物。先程そう罵られて怒りが沸々と湧き上がるのを感じる。
「お前の主人は、ミラを殺したんだぞ」
胸が痛む。正確には”惑わす力”を使って殺させた。
俺が、殺した──
「あの”力”だって、悪魔のものだって知ってんのかよ」
「────」
しかし、呟くように問い掛ける口は塞がらない。
グルツは短剣を構えるだけで沈黙。左腕の鉤爪に力が入った。
「答えろよ、グルツ──」
もう、我慢の限界だ。
壊す。こわす。コワス。すべて、破壊してやる。
黒いドロドロとした感情が視界を覆ってゆく。
「エルウィンは、何処だ!!」
その叫びを最後に、俺の正気は泥に沈んでいった。
◆◇◆◇◆◇
白銀の灯火が再度点灯して、僕は目が醒めた。
辺りを見ると、聖堂の内部は滅茶苦茶に荒らされ、まるで嵐が巻き起こったかのような状態で驚いた。
しかし、もっと胸を痛める光景が目の前に広がっていたのだ。
「ミラ、ミラぁ!」
「……まさか、こんな事になるなんて」
壇上で亡骸を抱いて泣きじゃくるカナリア。その後ろでやるせない想いに歯痒さを隠せないでいるクリスがいた。
僕のことを抱えて一緒に壇上に居たのは、かつて僕のことを攫った男、ノーツだった。彼はカナリアの悲痛な声に目を向ける勇気がなく、俯くばかりであった。
「──先生」
僕は青火に切り替えてクリスを呼ぶ。
「起きたのかい? よかった。キミまで失ったのかと気が気じゃなかったよ」
さすがは先生だ。お世辞を並べるのが上手い。だが先の言葉が本心だったとしても、その顔には喜びの欠片もなかった。
当然だ。目の前の光景を見て、喜べる者など居ない。
静かに横たわるミラは、ステンドグラスによる屈折で日差しを浴びていた。まるで魂が天へと招かれるような演出に、果てのない喪失感が心を覆ってしまいそうになる。
「よかったら、聞かせてくれるかい? 何故こうなったのか。そしてヴァン君は何であんな姿に──」
クリスが催促する。今、何か思考を働かせないと涙が出てしまうと言わんばかりだ。
涙が出てしまったら、もう動けなくなってしまう。悲しみに暮れ、この状況をただ眺めるだけとなってしまう。それを恐れているんだと察した。拳を握る手に、血が滲んで滴っていたのが何よりも証拠。
僕は掻い摘んで説明し、そして”とある頼み事”をクリスに話した。
「──わかった。他ならないキミの頼みだ。全力を尽くすよ」
了承したと頷いたところで早速、クリスはミラを抱いて涙を流し続けるカナリアの肩に手を乗せた。
「行こう。ここだと寂し過ぎる」
「──アイン!」
カナリアの声が聖堂に響いた。
「お願い、ヴァンを助けて! アレだときっと、全部壊してしまう……この国を、みんなも、きっと……そんなの、ミラは望んでない! だから──」
助けて。
涙でぐしゃぐしゃな顔を僕に向けて懇願する。
僕は体を生やしてノーツの腕から飛び降りて、頷いた。
「大丈夫だよ、カナリア──」
”可能性”のフラグメントを奪われて、気も失っていて、不甲斐無いばかりの僕だけれど──
「ヴァンも、みんなも助けるよ」
灯火を熱く滾らせる。
先ずは暴走したヴァンを止める。そしてこの国の人達を救うんだ。
僕が出来ないことは仲間のみんなが受け持ってくれた。代わりに、仲間が出来ないことは僕が受け持つ。
魔法生物にしか出来ない、僕がやるんだ。
僕は、駆け足で聖堂を出た。
今回は短めとなっています。次回はちょっと長くなるかも




