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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード101 交錯




◆◇◆◇◆◇




 一方で、ヴァンが大聖堂の天井に風穴を開けた瞬間を遠くから眺める人物が数多くいた。

 それもそのはず。彼が放った極太の閃光は天井を貫いて天空へ続き、強い光と異音を轟かせたのだから──


「焦らないで、ゆっくり避難してください! 家族と離れた人は一度、果物屋の人のところまで集まってください!」


 呪いが解かれた住人たちを安全な場所まで誘導を率いる少年キノ。彼の行動に感銘を受けて協力を惜しまない人も多い。

 流れる大勢の民を身振り手振りで案内し、声を張り上げて注意を促していた。

 そんな中、ふと、服の裾を引っ張られる。


「どうしたの?」


「あれ──」


 例の拾った幼児が指を差す。

 下町から中央に行くに連れて建物の背丈は大きくなる。上流階級の基本だ。しかし、そのどれよりも高く昇る閃光が人々の目を奪った。

 幼児の視線に誘われたキノも、その一人に収まってしまった。


「あれって……」


 明らかな異常事態。街が不安で響めき始める。




 議事堂でも同じような光景となっていた。


「貴族階級の方々は私の側を離れないでください。安全な場所までご案内致しますゆえ」


 囚われた二十名ほどの貴族たちを連れて、出口まで駆け抜ける。


 道中、立ち憚かる信徒たちを持ち前の剣捌きで叩く。

 無論、殺生などしなくても気絶に追いやるぐらいまでの技量は備わっている。

 彼女を前に、成す術もなく次々と倒れゆく信徒を見て、貴族たちは拍手喝采だった。


「た、助かります」

「てっきり、もう助けは来ないものかと……」

「軍部も捨てたものではありませんな!」


 出口を掻い潜り、外に出てシエルは異変に気付く。


「あれは──」


 轟音を耳にして、議事堂の天辺に視線を向けた。奥から閃光の柱が天を穿っていたのだ。

 方向からしてメタトロニオス大聖堂。シエルは妙な胸騒ぎを覚え、


「ヴァン・リール・ヴァルヴァレット……」


 直感で彼の名前を口にするのであった。




 そして轟音は近くにいる者ほど、狼狽に苛まれる。


「今のって──」


 収容所にいるカナリアとクリスが視線を交わす。

 外から聞こえる地鳴り。発信源はすぐ側だ。


「あの……急いで逃げた方が……」


 すでに目的のレラの兄、ノーツの解放は成し遂げた。

 弱腰に早めの撤退を提案するノーツに、二人の少女は頷いて走り出そうとする。


「あ、あの──」


 カナリアが言い忘れていたと振り返える。

 先程まで交渉していた相手。独房の管理者に頭を下げたのだ。


「ありがとうございます! 急なお願いを聞いて頂いて──」


 紫色のローブを着込み、タバコを燻らせる管理者の男は相当な実力の持ち主。その気になれば力づくでも規律を重んじてカナリア達を追い払う事もできた。

 しかし、クリスが名乗った途端に態度を改め、難なくノーツを解放させたのだ。

 男は払うように手を振って、続けて述べようとするカナリアの感謝を遮った。


「いいっていいって。お嬢には助けてもらった恩がある。こういう時は優先してお嬢の頼みを聞くってだけさ」


「カナリアくん、急ごう」


 後ろからクリスに催促され、カナリアはもう一度深く頭を下げてから収容所を後にした。


「……あの方角だと、メタトロニオス大聖堂だね」


 収容所を出て、三人は走る。

 本来であれば、ノーツ確保とミラが不在の確認が取れた場合はクリスの屋敷に向かう予定だったが、急遽変更して異変の大元へ急ぐ。

 クリスの推測通り、道沿いを辿って行くと、破壊された聖堂が目に入った。


「あれって──」


 カナリアの胸にズキンと痛みが突き刺す。

 破壊された聖堂。その門に二つの影があったのだ。




 他にも、ヴァンの変貌した姿を終始見届ける人物がいた。

 大聖堂から一歩離れた建物。その屋上で見下ろす神父──ヌートの姿がそこにあった。

 彼は、いつもの柔和な笑みをやめて二つの影を眺める。


「よぉ」


 後ろから突如現れた男に声を掛けられても、見向きもせずに注視し続ける。


「──やはり貴方の仕業でしたか、ケムダー」


 ポケットに手を突っ込みながらニタニタと笑みを浮かべてヌートと肩を並べる”貪欲”の悪魔。

 彼も同じくヌートと同じ景色を眺めて「お、やってんねー」と軽い口調で笑った。


「こんな命令を下した覚えはないのですが」


「いーじゃねぇか。細けぇコトはよぉ」


「すでに支障が出ている。これでは折角創り上げた”偶像”が台無しだ」


 口調を改め、ヌートは横目で彼を睨み付けた。ヌートなりの怒りの表れである。


「そこんトコ、上手くやってのけンのがテメェの仕事だろ?」


 それを愉しそうにケタケタと笑って受け流す”貪欲”。

 しかし笑っているのも束の間。「それによ──」と真顔になってケムダーは睨み返した。


「”無感動(アディシェス)”も必要なんだろ。オレ”ら”の計画にはよ」


 わざわざ強調する言い方に、ヌートは苦い表情を浮かべた。

 ケムダーは更に追い討ちをかける。


「テメぇは見下し過ぎなンだよ、人間を。オレらが崇拝する人間は、こんなもんじゃねぇ」


 各々、覗かせている瞳に何を映しているのか。それは誰にも解らない。

 立ち並ぶ悪魔も、駆け出す少女たちも、そして宿敵に燃える傀儡に相対する騎士にも──


「ま、それまで仲良くしようや。その為の組織なんだからよ」


「貴方の助言、肝に命じて置きましょう」


 静かに目を閉じて、ヌートは再び地上で繰り広げられる人間同士の争いに視線を移す。

 ”鉄の竜”の再誕──その筋書きを思い浮かべながら、まるで劇を愉しむかのように柔和な笑みを作るのであった。




◆◇◆◇◆◇




 二本の短剣を構えて、グルツが詠唱を口にする。


「黒の理解よ。覆い隠してしまえ。彼の者は真実を拒む罪人──『隠者の霧(ビナー・フォグハイドハーミット)』!」


「なっ!?」


 彼から大量の水蒸気が噴出された。

 瞬く間に辺りが霧に包まれる。王都中の霧は、奴の仕業だったと気付く。


「だからどうした!」


 警戒したが故に遅れを取ったが、攻撃でなければダメージはない。

 鋼鉄のツバサを広げて羽ばたかせ、突風を巻き起こさせる。

 霧は風のない場所に留まる現象に過ぎない。風通しさえ良くなれば、ただの霧雨だ。すぐに視界が晴れ渡る。


 相手が”(ビナー)”の持ち主なのも、それが水の系統を得意とするのも予習済み。

 故に、次に出る行動も予想できる。


「──ハイドロプレスカノン!」


 背後からの遠距離攻撃。

 水を限界まで圧縮されたレーザーが背中に迫るが、それを翻るように躱し、勢いを余らせて右腕を振り翳す。


 威力を抑えれば、放つことはできそうだ。


「俺の、邪魔をするなぁぁぁ!」


 腕の筒から、閃光の弾が放たれた。

 先の一撃とは大幅に威力が控えめだが、生身の人間相手ならこれで落ちる。

 グルツには、アイツの行方を吐かせる必要もある。当たれば無事では済まないが、死にはしないだろう。


「ハイドロジェットカノン!」


 だが、グルツは反射的に跳躍した。いや、空を飛んだ。

 足裏から高水圧の水が噴射し、その勢いで滞空を可能にしたのだ。

 的を外した弾は、そのまま一直線に地面を抉って消失してしまう。


 なんという汎用性の高さ。以前の彼とは大違いである。

 状況が違えば拍手ものだが、そんな余裕は最早無いに等しい。


「ちょこまかと──」


 今度は狙いを空に向けて二、三発放つが、思ったより狙いが定まらず空振りに終わる。

 そのまま逃げられてしまえば、行方を眩ませたエルウィンを問い質せない。

 鋼鉄のツバサを大きく広げて、再び羽ばたかせた。今度は己自身も空へ昇る為に──


「来ると思ってたぜ!」


 飛翔が仇となった。

 滞空を中断し、重力に加えてジェット噴射で降ってくるグルツ。短剣の矛先を一点に向けて、まるで流星の如く迫ってくる。


 かつて自分が体現した剣術に、非常に酷似した攻撃。皮肉とでも言いたげに繰り出してくる相手に、苛立ちが募る。


──ガギン!


 鉄同士がぶつかり合う音と共に火花が散る。


「ぉぉおおお!!」


 鉤爪を盾にして短剣を防ぎ、そのままツバサを羽ばたかせて飛翔する。


「クソっ──」


 僅かながら押し負けてるグルツは、片目を強く閉じて食い縛った。

 もう片方の(まなこ)は開いたまま、敵である自分を睨み付ける。

 その気概は良し。だが納得が行かない。


「何故だ。何故、俺の邪魔を──」


 何故と繰り返す口調も、あの”鉄の竜”を彷彿とさせる。

 もしかしたら、精神はもう支配されているのかもしれない。


 グルツは上昇する勢いに歯軋りをしながら答えた。


「王子はこの国を担う王たる器だ! お前みたいな化物に、くれてやるワケにはいかねぇんだよ!」


 建物より高く位置するところでグルツは力一杯短剣を振るって突き放した。

 足裏から水を噴出させて再度、滞空──決闘の場所が空中戦と相成った。

先日、初めてレビューを頂きました!めちゃくちゃ嬉しいです!

これを読んで頂いている読者の方々達には感謝ばかりです(感涙)

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