エピソード100 変貌
本日は二本立てで更新しております。前ページからの更新ですのでそこからの続きとなります。
どうして、こうなってしまった。
すでに冷たくなった体を抱え、滴る涙が彼女の頬を打って濡らす。
「貴様、何をしてる!」
信徒の声を耳にして振り返ると、そこには鎧兜がベンテールを上げて緑色の火を見せていた。
何をしているのかは、こっちが聞きたい──
誰か、助けてくれ。
彼女を、救ってくれ。
そんな言葉が頭の中で渦巻くばかりで、状況は何も変わらない。
自分に足りなかったものは何だ?
答えは至極簡単だ。”力”だ。
このどうしようもない状況を引っくり返す可能性──”力”が必要だった。
──”力”が欲しいか?
誰だ。
頭の中で声が響いた。
その問い掛けに勿論、頷いた。
魔法でも奇跡でも何でもいい。とにかく欲しった。
──目の前に”居る”だろう?
声の先には、信徒に再度捕まった小さな鎧兜。
アイツは魔女が産んだ魔法生物で、特別で、変な奴で、数々の危機を乗り越えた仲間で、相棒とまで思っていた存在。
アイツなら、何とか出来るのだろうか。
──お前は、あんな小さな存在に願いを託すのか?
いいや。俺は俺の力で成し遂げなければならない。
先ずは、アイツ──虚の王を、この手で!
──なら手を伸ばせ。欲望のまま、”貪欲”に!
「寄越せ──”力”を、俺に寄越せぇぇぇ!!」
「!」
鎧兜に向かって手を翳す。
すると、灯火から一つの光が自分の手の中に収まっていった。
魔法生物はショックで気を失ったのか、灯火が消え、ただの鎧兜になってカランと乾いた音を立てて床に転がった。
奪い取った光が、胸に宿る。
【フラグメント解放:可能性】
「ぐっ──ああああああああ!!」
脳裏に文字が過ぎり、意味を理解する前に身体中が軋む痛みを帯びた。
襲い掛かる痛みに、耐えられず叫ぶ。
「オエっ」
彼女の遺体を横に寝かせ、その隣で嘔吐する。
吐かれたのは異物。大量の鉄の部品の数々だった。
体の中が軋む。内臓のすべてを造り替えられる感覚。鉄が、ガラクタが己を造り替える。
体外に異変が生じたのは、まず背中からだった。
まるで羽化する事への悦びに感極まるように、皮膚を突き破る。鋼鉄のツバサ。
次に右腕。血管から無数の鉄の管が突き破り、腕を覆い、あるカタチに変貌を遂げた。
それはアディシェスが持っていた、筒状の武器。
これの用途はすでに理解している。
「エルぅウィィィン!!」
もう、痛みなどどうでもよくなった。
己の中に渦巻くのは復讐。怒りと悲しみが『奴を探せ』と怒号の声を張り上げる。
壇上から聖堂を見渡す。しかし、信徒が数人いるだけで本命が見当たらない。
「──この空間かッ」
思えばこの”外殻”のせいでミラを失った。
忌々しい空間に終わりを告げるべく、右腕を真上に掲げる。
「砕け散れぇぇぇ!!」
張り上げる声に応じるように、胸に宿る光が輝きを増す。
そして腕の筒から極太の閃光が一直線に走り、大聖堂の天井を穿つ。同時に、何かが割れる音が耳の端で拾う。
だが右腕から放たれた閃光の轟音の方が勝った。絶大な威力の反動が風圧となって聖堂内を駆け巡り、荒らす。
「うぁ!」
「何だぁ!?」
狼狽える信徒たちは吹き飛ばされ、壁に激突して、今度こそ意識を失う。
空間は破壊した。奴は何処にいる──
「何が起こっているというのだ」
いた。
涼しげに壊れていない長椅子に身を潜ませていた。
初めて狼狽える素振りを見せるが、それでも端麗な顔を崩さない。
奴が睨む目に、豹変した自分の姿が映っている。
殊勝な心がけだ。今すぐ壊してやる。
「エルウィィン!」
腕を構えるが、放てと命じても反応しない。
すぐに”力”が枯渇したと判断し、ツバサを広げた。
「お前を、殺す!!」
確固たる意志が、体を動かす。
壇上を蹴って一直線にエルウィンの元まで飛ぶ。その最中にもう片方の腕が変化した。
鉤爪。村にいた大鷹に模した形状の腕を突き出して突撃する。
奴の体をこのまま引き裂いて──
「王子!」
ならなかった。
横からエルウィンを庇うように突き放し、間に割り込んだのはグルツ・アーバンハルト・シャルヴィだった。
爪先の間に挟まる形で彼を捕らえ、そのまま壁に激突し、さらに壁が壊れて場外に。
「褒めて遣わすぞグルツ。貴様に掛けた呪いを解く。其奴との再戦、思う存分愉しむがよい!」
「感謝致します! 王子こそ、どうぞ御無事で!」
「しまっ──」
聖堂内で奴の声が響くと同時に、指を弾く音が奴の姿を掻き消す。
場外に逃げられてしまったら、見つけるのに時間が掛かってしまう。
「黒の理解よ──超高圧高速水!」
追おうと地面に貼り付けていたグルツから目を離すと、鉤爪の間から腕が伸びて魔法が放たれた。
「ッ!」
「覚えているかよ、ヴァン・リール・ヴァルヴァレット。今度は俺様が相手になってやるぜ」
瞬時に躱し、その場から一旦離れる。
立ち上がる黒装束の男。虚ろな目は正気を取り戻しており、明確な敵意を向けてくる。
かつての同僚、グルツが立ち憚かった。




