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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード95 作戦

 街の一帯が落ち着きを取り戻し、クリスが感嘆を声をあげた。


「いや、驚いた……いつの間にこんな芸当ができるようになったんだい?」


「あはは、色々あったんです」


「ああ、色々とな」


 カナリアが困った笑顔を作って答えると、ヴァンも釣られて頷いた。

 魔物集団の討伐という名目の旅路は、そう簡単には語れない。


「やっぱり騎士の兄ちゃん達は凄いや!」


 事情を詳しく聞きたそうにするクリスの前に遮るのは、いつかの少年キノだった。

 目を輝かせ、両手の拳を上下に振って感動を表す姿は、やはり子供。しかし、以前のように泣き弱って鼻を伸ばす事はもうなさそうである。

 彼も彼で、成長したという証である。


「てか、なんで先生とその子は一緒にいるの? 背中の子供も、なんか訳ありそうだけど……」


 カナリアが問うと、二人はお互いを見つめ合ってから頷き、経緯を話した──





「殿下が独りで収容所に、だとォ!?」


 驚愕したのは無論、ヴァン。食い縛った歯を剥き出しにして険しい表情を隠さない。


「それも昨日の事だ。到着しているなら動きがあってもいいんだけど──」


「僕らはこの通り、逃げるだけで精一杯で……」


 クリスとキノが交互に説明をする。

 ミラと別れてからというものの、依然、状況が変わらず終いという訳である。


「でも、おかしいんだ。クリスさんの屋敷に向かおうとしても別の場所に着いちゃうんだ。道はあってるはずなのに──」


 キノが続け様に述べた。

 どういう事か首を傾げていると、シエルが割って補足する。


「おそらく、霧の影響だと思います。以前、地形の認識を阻害する魔法の中に、霧を扱うものがあると軍部内の報告書にあったのを記憶しています」


 蜃気楼という現象がある。

 光の屈折によるもので、本来遥か遠くにある建物が近くに見えたりする。水を求めて彷徨う砂漠でオアシスを見つけたと思い、走っても走っても辿り着けないような例え話がまさにそれである。

 霧の元は水だ。光の屈折を利用すれば、虚像を作り上げることも可能なのだろう。

 こんな広範囲に霧を生み出す魔法使いがいるとするなら、相当な実力の持ち主という事にもなるが……


「もしかしたら、ミラ君も──」


 収容所に向かっている筈が、敵の手に渡っているかもしれない。

 顎に手を乗せて思考するクリスの不安が、ヴァンを逸らせる。


「行くぞ」


「ちょっとヴァン、行くってどこに──」


「決まってるだろ!」


 カナリアが引き止めようとするが、彼の行先は決まっているようだった。

 しかし、クリスも加わって先走る彼を足止めする。


「収容所にいる確率は低い。行くなら議事堂の方がよっぽど可能性としては高いよ。あそこには有力貴族が囚われているはずだから」


「そこにも居なかったらどうする」


 ヴァンが意地悪なことを聞くと、クリスはすかさず提示する。


「──収容所に向かう。私たちは元からそこに向かうつもりだからね」


「先生、でもそれじゃ時間が……」


 足りない。カナリアがもう一つの懸念を挙げる。

 この広大な土地をしらみ潰しに探すのは以ての外で、要所要所を狙って探しても時間が圧倒的に足りない。ただでさえ、ミラの行方が不明になってから半日が過ぎようとしているのだ。


「他の場所にも霧があるし、手分けして探すのも難しいよね……?」


 キノも懸念の一つを提示する。

 問題は山積みであった。


「ッ……どうすりゃいいんだ……」


 ヴァンが悔しそうに拳を握り締める。

 一刻も早く駆け付けたいのに、阻む問題に足踏みするしかない状況に激しく焦燥する。

 みんなが険しい表情を浮かべて沈黙が流れた。このまま行動しない方が最も危うい。


「──では、こうしましょう」


 そんな時、シエルから鶴の一声が掛かった。皆が一斉に彼女の方へ視線を向ける。


「アイン、アナタには協力して貰いますよ」


「……僕?」


 説明する前に一度、僕に声をかけてから作戦を提案するのであった。




 街中をゲリュオンが駆け走る。そして馬の頭部にしがみ付く形で、僕は"(ネツァク)"を起動させていた。

 前方に漂う霧を吸い、マナへと還元させて噴出させる。ゲリュオンがそれを糧に、足を列車のように回す。


 馬の背中には手綱を握るヴァン、後ろにクリス、カナリアと続き、最後尾にはシエルが跨っていた。

 残念ながらキノは状況を鑑みて戦力外通告。正気に戻った住人たちを安全な場所まで避難させる役に転じてもらった。クリスの背中におぶっていた幼児も託して。


「作戦は理解していますね?」


 馬に揺られながら、確認の為にシエルが尋ねる。真っ先に反応したのはカナリア。


「はい、まずは議事堂でシエル大尉を降ろして──」


「次に、収容所に私が──」


 クリスが自分の役割を答え、


「俺たちが”しらみ潰し役”ってワケだろ」


 最後にヴァンが答えた。


 まさに合理的な作戦だった。

 ゲリュオンの移動速度に加えて鬱陶しい霧の除去を兼ねつつ、要所にはシエルとクリスが馬から降りる形で捜索。残った僕たちは霧を浄化しながら王都を駆け巡るというものだった。


 ミラの事に関して堪え性のないヴァンにとっては性分に合っており、王都の地理に詳しくなくても霧を頼りに進めば捜索の二度手間は省けるという、一石二鳥どころか三鳥ぐらいの作戦に、異議を唱える者など皆無だ。

 伊達に”軍神”の右腕を担っていない。


「カナリア・フル・ヴァルヴァレット、間違えてます!」


「え、ええ!? 私なにか間違えました?」


「今は大尉ではありません! 一時的とはいえ、今は部隊から除名された身です。立場を考慮するなら先生と呼びなさい!」


「あ、ああ……はい……」


 カタブツなのは相変わらず。これには他のメンバーも呆れ顔になる。


 しかし、"(ネツァク)"を一度見せただけでこんな作戦を立案するとは、素直に称賛する。

 僕も幸か不幸か、霧のおかげでゲリュオンに跨っても息苦しさを全く感じない。痛快豪快、ゲリュオンが踏み締める勢いでタイルが割れ、足跡を作ってゆく。


「そこを右に、次の大通りを真っ直ぐ突き進むんだ」


 手綱を握るヴァンに道案内をするクリス。彼女の指し示す道は的確に、最短距離を描く──


 そうこうしている内に、坂道を登って議事堂に辿り着いた。

 寸刻もしない内に霧を吸い付くし、横に長い豪邸が姿を現す。同時に、十数人といるフードを被った人間にも出会す。


「彼らは?」


「端的に言って、敵だ」


 シエルの質問に、クリスがざっくり告げる。


「了解しました」


 議事堂の正門に辿り着くと、シエルは馬の背中を蹴って跳躍した。

 着地と同時に、後目で僕らを見て微笑む。


「作戦通り、ここは任せて頂きます」


「ミラを見つけたら合図をお願いします!」


 カナリアが念押しして、別れを惜しむ間もなくゲリュオンが方向を反転させて議事堂から背を向けて駆け出す。


「何者だ!」

「捕らえろ!」


 フードを被った曲者たちが突如やってきたシエルに剣を向けた。


「──任せてください」


 背中越しに自信満々で受け応えをして、シエル・ヴァーミリオン・エスパーダは腰の刀に手を付けた。




 シエルの戦力ならあれぐらいの敵など、どうって事はないだろう。それはアディシェス戦で目にしていた僕達ならではの結論だった。

 霧を晴らすことで迷う事なく到着できたのは、すでに立証済み。僕たちは颯爽と次の地点に到着したのであった。


 収容所。重々しい響きに寸分違わず体現した建物を前に、クリスとカナリアが降りる。


「後のことは頼んだよ」


「ミラが居たらちゃんと合図するから、聞き逃さないでね!」


「ああ、そっちもあの嬢ちゃんの兄貴、ちゃんと連れ出せよ」


 クリスが頑なに収容所に行くと決意していたのは、ヴァンが言った通りである。

 レラの兄、ノーツ・オランド・シーデンの救出。他でもない少女の頼みだ。

 彼女には体の構築の件で恩義がある。ヴァンもカナリアもクリスも、面識がある以上、後回しにはできない。


 二人を残して、ゲリュオンは三度駆け出した。

 こうして残ったのは僕とヴァンだけとなる。


 道筋をとりあえず真っ直ぐ進み、霧を吸い込んで隈なく皇女の姿を探す。

 これから途方もないことを、それでも直向きにやるしかない。

 広い国を、”ついで”と申すのは心痛いが、操られた人達を助けると思って突き進む。


「──っ、待て」


 しばらく進んだ先で、ヴァンが手綱を引いた。晴れた前方に、フードを被った人達が何やら集まっている光景を捉えた。

 ゲリュオンは素直に速度を落とし、ヴァンが再び手綱を叩くのを待つ。あの暴れ馬が、数回の乗馬によって彼を騎手足り得ると認めたのだ。これにも驚きだが、問題はそこじゃない。


 議事堂でも見たフードを被った集団。奴等は正門の入り口で見た住人たちと違って操られている節が見られなかった。

 加えて、クリスが敵と下した相手。同じ装いを見かければ、何かがあると踏んでも仕方がない。


「……まさかっ!」


 少しの間を持って、ヴァンは見上げた。

 そこは巨大な聖堂。僕が目にした感想はそのぐらいで、デカイという点以外、特に何の変哲もない施設だと思っていた。

 しかし、彼は違う。思い当たる節がある顔つきだった。


「メタトロニオス大聖堂──玉座を崇めるこの国最大の宗教団体」


 ヴァンが口にして、僕もハッと気付く。

 玉座を連想させるのは当然、国王。そしてかのクーデターの主犯であろうエルウィンは第一王子である。


「アイン、ちょっと我慢しろよ!」


(え……?)


 ヴァンが再び手綱を鞭のように叩くと、ゲリュオンが待ってましたと前足を掲げて走り出す。

 向かう先は、集まる群れの中であった。


「どけどけぇ! 怪我しても知らねぇぞ!!」


(ちょ、ちょちょちょ!)


「な、なんだ!?」

「きゃっ!」

「うお!?」


 集団の中を問答無用に突っ走る。

 体積が他の馬より三回りほど大きいゲリュオンも、器用なことに踏み潰すことなく合間を踏み締めて突撃。視線の先には大きな門とは隣に位置する壁であった。

 デジャブが過ぎる。王都の正門を突き破ったことを、ここで再び繰り返すというのか。

 僕の待ったも、掛けることなく、激突するのであった。

これで回想は終わりです。次回、めちゃくちゃ戦闘します。

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