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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード88 再出立

 狭い通路を渡って到着したのは小さな一室。

 台所らしき部屋の床から這い出て、四人は再び合間見えた。


「キミたちはここの家の?」


 狭い場所から解放され、伸びをしながらクリスは子供二人に問い掛けた。

 それを聞いてキノは首を横に振る。


「ぼくたちはたまたまこの家で隠れていただけです。この家の人たちとは顔見知りだったので、路地裏への通路の事も友達から……」


 以前、キノのペンダントを奪って揶揄っていた子供がいた。アインとの一件のあと、勇気を振り絞ることを覚えたキノは、その子たちとも和解し、友達という間柄にまで発展を収めていたのだ。

 以後は彼の言葉通り、家に招き入れられる程にまでなり、あの路地裏を通っていつも遊んでいたのだ。秘密基地のようで少年心を揺さぶる、いい遊び場であったと、キノは頭の中で記憶を掘り返して語った。


「ですがこの通り、この家の人たちも……」


 どうしても声のトーンが落ちてしまう。彼の視線は食卓に向けられ、現状を指す。

 食卓には食べかけのパンやらスープやらが置いてあり、その温もりは未だ健全から察するに、この家の持ち主たちが寸前まで正常だったことを示していた。

 ミラとクリスは少年の心情に触れ、居た堪れない表情を浮かばせるばかりだった。


「──それで、レラちゃんのことをご存知なんですか?」


 落ち込んでばかりもいられない。自分より大人な二人の顔を見て、キノは無理やり声のトーンを上げて尋ねた。先程聞いた知人の名である。

 気を遣わせたと気付き、クリスもいつも通りを装って回答する。


「知ってるも何も、ウチの屋敷で面倒見ている子だよ」


「え、っていうことは……」


「あの家の領主のうちの一人とでも言おうかね」


 なんという偶然か。キノは大きな手掛かりを得たと言わんばかりにガッツポーズをした。


「あの、頼みがあるんです」


 そして自分の目的を洗いざらい話すのであった──





「なるほどね。キミたちをあの屋敷で匿って欲しいと」


「お願いします!」


 頭を下げる少年。隣にしがみ付く幼児も釣られて頭を下げる。少年の仕草を真似て行う姿は微笑ましい限りだが、二人は困惑した。

 自分たちは現在、収容所に向かうという目的がある。その為には時間が惜しいのだ。しかし、だからと言ってこの少年と幼児を見捨てる訳にもいかない。

 しばらく女性二人の間で視線を交わして最善を探す。


「私が──」


 すると、ミラが手を挙げて主張した。


「私が収容所へ向かいます。先生はこの子たちを」


「……危険すぎるよ」


 この場で二手に別れるという算段に、クリスが否を突きつけた。

 ミラの提案は確かに無駄がない。むしろそうした方が効率的ではある。だが、この現状ではリスクの方が勝ってしまうのも事実。

 アインの言葉で喩えるなら”ゾンビパンデミック”。独りの行動ではいずれ限界が訪れるのは明白であった。


「危険なのは承知の上です。私独りでは逃げ切れるかどうかも怪しい」


「なら──」


「ですが、目の前で困っている民がいるのに放って置ける王族が何処にいましょうか」


 ミラはそう告げて意地を張った。

 一人の人間である前に自分は皇女なのだと。受け継いだ血はそう安いものではないと、暗に主張をしたのだ。

 クリスの屋敷に来てから、ミラは強くあろうと気張っていたのだ。こんな所で簡単に折れる訳にはいかない。


「それに、先生(・・)なら生徒の自主性を重んじるのも教師の一環だと思いますが?」


「──わかった。わーかりました!」


 強情なミラに根負けして、クリスは大きな溜息をついて両肩を落とした。

 教師としては生徒を危険な目に遭わせたくないのは本音も本音なのだが、こうも言われてはお手上げである。

 強かというより、やはり強情なのだと思い知らされる。


 話が纏まり、二人は少年たちに再度向き合った。


「てな訳で、家主カッコ仮である私が案内させていただくよ」


 クリスの申し出にキノは安堵で胸を撫でさせた。

 少年はすかさずミラの方へ向き、頭を下げた。


「あの、ごめんなさい。危険なのに無理を言ってしまって……」


 申し訳なさそうにする少年の顔を見て、ミラは足を折って屈み、少年の頭を優しく撫でた。


「大丈夫です。それに、アナタたちも大切な民なのです。謝るのはむしろこちらの方──」


 異常事態に気付けなかった事、迅速に対処が出来なかった事、そして未だに解決に至っていない事。挙げればキリがないが、上の立場の人間として責務を全う出来ていない点については謝罪しなければならない。こんな幼気な子供たちにまで危険な目に遭っているのだ。事が済んだ暁には、休む間もなく国民一人ひとりへ頭を下げなければならないだろう。

 ミラは現状に無力である自責の念をひとまず抑え込み、慈愛に満ちた心で少年の勇気ある行動を称えた。


「ですので、謝らないでください。こういう時は、感謝の言葉の方が私にとっては嬉しいのです」


「は、はい! ありがとうございます!」


 ミラの優しい笑みに頬を赤らめてキノは返事を改めた。

 そしてふと、ある疑問が過り、思わず口にしたのだ。


「あ、あの、お姉さんは皇女様なのですか?」


「ええ、そうです。ここよりうんと田舎ですけれど」


 今さら隠す必要もない。彼女は端的に答えると、少年は目を輝かせた。


「それではあの人は知っているんですか!? カブトの形をした魔法生物と一緒の騎士のお兄さんを!」


「──知っているの?」


 思わぬ所でヴァンの姿が脳裏を過ぎる。鎧兜の魔法生物なんて、思い当たるのはただ一人だけだった。


「前に助けてもらったんです! あれからずっと憧れてて、ぼくも立派な騎士になりたいと思ってて!」


 なんと世間は狭いのだろう。

 レラという少女も、キノという少年も、人が大勢行き交うこの国で彼は人助けをしていたのだ。

 そして、こうして繋がりを見せて自分たちの手助けになっている──


 心に灯った火が、再熱した。


「ええ、自慢の護衛騎士なんです」


 ミラは包み隠さず少年に告げて、立ち上がった。

 あれだけ英雄にはなりたくないと、称えられる程の器ではないと言っていたのに、影できちんと騎士を全うしているではないか。そしてここに騎士(ヴァン)の背中に憧れる少年がいる。かの英雄ではなく、彼にだ。

 負けられない。そう思いながら、ミラは手に力を込める。


「──行きましょう」


 目指すは変わらず収容所。今度はクリスの手助けもなし。ハードモードがより難易度を上げたが、今のミラは瞳に炎を宿していた。

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