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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード87 追い詰められ

 二人は猛ダッシュをして路地裏の狭い道のりを駆け抜ける。後ろからあの虚な目をした男が二人の背中を追いかける。

 鬼ごっこの次は隠れんぼ、そしてまた鬼ごっこが始まったのだ。”ごっこ”と呼ぶには些か遊びがすぎる喩えだが。


「こっち!」


 クリスが手を引いて角を曲がる。

 この路地裏ではあまり濃霧が行き渡っていないのが幸いし、行先が見通せる分、走りやすい。

 クリスの頭には地図があるのか、入り組んだ道のりをスイスイと辿って行った。


 しかし相手もやはりこの街の住民ということだけあって、中々巻けないでいた。


「先生、次はどっちに──」


 二手に別れた道で一度立ち止まる。ミラは先導するクリスに尋ねるが、彼女からは苦い表情が生まれていた。


「あちゃー、こりゃマズイ」


 視線の先、右方面を見やると無数の足音と影が迫ってきていた。別方向から挟み撃ちする腹である。

 背後からはあの男の足音も近寄って来ている。もはや立ち止まっている時間はない。


「先生!」


「ああコラ、そっちは──」


 今度はミラがクリスの小さい手を強く引いて左の道へ。

 右への道はまだ日の差し込むような明るさがあったのだが、反対に左への道は影となっており、ただでさえ薄暗い路地裏の更に暗い所となっていた。

 濃霧の中でならどちらとも大して変わりないと主張したいミラだったが、地形が頭に読み込んでいるクリスにとっては自ら袋小路へ飛び込むような愚行でしかない。

 結果──


「ウソ……」


 クリスが止める間もなく駆け出した行き先は、道などなく、家と家の壁に囲まれた路地裏の終着点であった。

 端的に言って、行き止まりである。


「どうする皇女様?」


 結局あのまま立ち尽くしても、右の道を選んでも挟み撃ちには遭っていた。

 あの時クリスが苦虫を噛み潰したような表情の意味に、ようやく気付いてミラは己の愚行さを呪う。それと同時にどうやって切り抜けるかの思考も巡らせた。


 相手は数人。魔法を使って突破するか。しかし相手は国民。皇女である身で民を傷つける訳には──


 そうこうしている内にも足音は行列となって近付いてくる。

 追い詰められる二人は、家の壁を背にしてやって来るであろう傀儡たちを見張った。

 どうする。どうする。と思考もろとも袋小路に苛まれながら。


 後ろから伸びてくる手にも気付かずに──




 二人を見つけた男が先頭に立って、住民の一行は物陰に潜んでないか隈なく見渡しながら歩みを進める。

 やがて辿り着く行き止まり。探し物はそこにいるはずであった。


「────」


 しかし、異変に気付いたのは行き止まりに着いてからだった。

 あの二人が何処にも見当たらない。家の壁が静かに佇むのみで、人の気配が全く無い。

 逃げた先がこっちであるなら間違いなく存在しているはず。同胞と合流し、しらみ潰しで追い詰めたはずのに、何故か居ない。


「探せ」


 袋小路から身を翻し、虚な目で脳から発信した言葉を呟く。此処らを洗いざらいひっくり返せという意味ではなく、他を当たるという意味合いだった。

 辺りに居た同胞たちにも伝わり、ゾロゾロと引き返す。考えられるのは右の道のりで上手く隠れ凌いだという可能性。その方が納得がいく。

 元々、意識があるのかどうかすら怪しい集団催眠状態の輩である。標的が霧のように消えれば、他を当たって探す。それは人間も動物も同じ。


 やがて見えなくなった所で、ミラとクリスは止めた息を吐いた。


「た、助かった……」


「よくこんな場所があったね」


 そこは袋小路の角隅にある植木の奥。石畳を模した扉が隠されており、その中で四人(・・)は身を潜ませていたのだ。


「ぶ、無事でよかったです」


 小さな蝋燭を片手に持つ少年がほっと一息をつく。まるで自分の方が追われて捕まえられるんじゃないかと心拍を上げていた様子で、二人は感謝の意を言葉に乗せた。


「ありがとうございます。アナタたちのおかげで助かりました」


「キミたちは──」


 二人は少年と隣にしがみ付く幼児を交互に見やった。

 まだ年端も行かない低身長かつ、弱気な性格が面立ちに滲み出ている雰囲気が特徴的で、胸にペンダントをしているごく普通の容姿の少年。対し幼児も、辛うじて男の子だという点は拾えるが、他は可愛らしい顔立ちが不安に満ちているというぐらいしか認識できない。

 ごくありふれた街の少年と幼児。そのセットが何故、このような場所で、このような場面で救ったのか。


「ぼくはキノっていいます。この子は近所の子で、両親が”あんなの”になっちゃったを見過ごせず、こうやって一緒に……」


 掻い摘んで話す少年の名乗りに、クリスは思い当たる節にぶつかった。


「キノって、レラちゃんが言ってた……」


「レラちゃんを知ってるんですか!?」


 知り合いの名前が挙がり、思わず足を伸ばしてしまう少年キノ。

 扉の中とはいえ、背丈は大の大人が四つん這いで入れるぐらいの高さしかない為、屈んで歩く姿勢から足を伸ばせばどうなるかは想像に固くない。


「と、とりあえずこっちへ……」


 低い天井に頭を打ち、涙目になるキノは唸る声で我慢し、二人を誘導した。

 道中、ずっとしがみ付く幼児を見て、二人は頼りないが信頼できる少年の後ろを追ったのだった。

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