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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 五章 〜虚の王〜
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エピソード81 異変その1

 夜──寮の部屋に戻って早々、ミラはベッドに倒れ込んだ。身につけていた皇女としての威厳を保つ為の装いすらかなぐり捨てて、俯く姿勢で羽毛の塊にダイブしたのだ。


 永遠かと思われた魔法生物(アイン)に関する会議──話し合いの結果、”条件付きの保留”。

 散々あれやこれやと言っておきながら結局は決まらず終いかと思われるが、ミラにとっては御の字である。


 内容は至って単純。我がもの欲しさに管理せよという貴族と、今はまだ野放しでいいという貴族に二分され議論が発展。アディシェスという悪魔に狙われている曰く付きの魔法生物(アイン)を、国が総力上げて管理するか否かが問われたのだ。

 貴族たちも考えは様々で、管理下に置けば今後の対策もしやすいと答える者も居れば、管理下に置くにしては危険が過ぎると保守的な意見を唱える者も居た。本心で異を唱える者、下心で意見に賛同する者、我預かり知らぬと関心すら装わない者……二分に別れていても各々の思考は多様なものであった。平行線だけ引き続き、時間だけが過ぎていく。


 それで”保留”となったのだ。ひとまずドーラ家によって詳細を明かさねば話が進まないということで、皆が渋々ながらも飲み下す。

 その間、ミラは中立の立場にいた。当事者の一人という事もあり、必要な情報だけを貴族たちに公開し、決断を委ねた。

 ここで下手に梃入れをして天秤が傾くとどちらに転んでも困ったことになる。管理下に置かれればアインは強制的に引き剥がされてしまう。将来、国を担う皇女としても奪われるのは癪であるし、何より彼はもう自分たちの仲間なのだと認識していたに他ならない。逆に保守派に傾けばアインの存在が疎ましく思われ、連れてきた張本人たちにも矛先が向かうに違いなかった。どのみち自分たちはこの王都に滞在できなくなってしまう。それを避ける為には中立中間、どっち付かずで引き延ばさせて終わらせるかに掛かっていた。


「はぁ……つかれたぁ……」


 結果はこの通り、彼女の勝利で幕を下ろしたのだ。途中、傾き始める天秤を拮抗に持ち込ませるよう、要所要所でアシストの声をかけたのが幸いした。

 どっちの味方だと詰め寄られれば「中立ですから」と返して涼しい顔の裏で舌を出す。さすがは皇女だけあって状況把握能力も途中で白を切る胆力も長けていた。


 ベッドに寝転がり、仰向きになって天蓋を見つめる。

 目に浮かぶ護衛騎士の姿が焼き付いて離れない。こんなに離れ離れになったのはいつぶりだろうか。

 瞳を潤ませて、寂しさを紛らわす為に寝返りをうつ。

 朝になれば戻って来てくれるだろうか。はたまた明日の夜になれば。それとも明後日になってしまうのだろうか。そんなことが頭の中で永遠と繰り返された。

 日中の疲れからか、程なくして微睡みが襲いかかり、瞼が自然と降りてゆく。


 その日、月夜は無く、暗い霧に包まれていたことも知る由もなく──




 朝を迎え、ミラは支度をした。

 風呂で体を洗い、寮長に挨拶し、日課のお祈りをしてから食事を済ませて寮を出る。

 今日も今日とて王政の役回りを果たさればならない。離れた土地で暮らす父に向かって小言で文句を垂れながら、憂鬱な気持ちで昨晩来た道を辿る。


「……今日は何だか天気が崩れそうですね」


 空を見上げて立ち込める暗雲に眉を下ろす。憂鬱な日に限って空も同調して彼女の心の空模様を物語っていた。

 きっと神様も同じ気持ちなのかもしれない──ミラはそう割り切って歩みを進める。


 道中の街の様子は静かなものだった。降り出しそうな空のせいなのかとも思われたが、何とも異常なほど静寂を保っている。

 不思議に思いながらも王政議事堂へと足を運ぶと、そこであの伯爵が後ろから慌てて駆け寄ってきた。


「ミラ皇女殿下、ここに御居ででしたか……」


「マエストロ伯爵?」


 肩で呼吸する彼は大量の汗をハンカチで拭い、律儀に一礼してから恐ろしい剣幕で詰め寄った。

 いつもと違う彼の表情に察しが付かずに疑問符を浮かべていると、「急いでこちらへ来てください」と腕を引っ張られて走り出したのだ。


「ちょ、マエストロ伯爵!? どこへ!」


「一度建物の中へ! ここでは目立ち過ぎます!」


 訳も分からず議事堂に入る。

 議事堂の入り口にはエントランスが広がっている。何本もの柱が立ち並び、それぞれ歴代の王の姿を象った銅像が肩を並ばせている。二人はすぐさま近くの柱の影に身を潜めて隠れた。


「どういう──」


「しっ──」


 影の中で問い掛けようとするミラに、彼は人差し指を口に当てて黙らせた。


「あの二人は何処へ行った」

「行くとするならこっちだろ、行くぞ!」


 すると入り口近くで男二人の声が響き渡る。伯爵が覗き込むと、そこには白い布で顔を覆い隠した曲者が三人。彼らはエントランスの中央へ走り去っていき、やがて姿が見えなくなった。

 ただならぬ雰囲気に、ミラの空模様がどんどん暗くなってゆく。


「今は説明している時間がありません。こちらへ」


 喋ってもいいものなのか迷っている内に伯爵が再び手を引いて誘導し始めた。不穏な空気に緊張し、駆け足が辿々しくなってしまうのを無理矢理抑えて彼についてゆく。

 向かった先は議事堂の裏門──ではなく、とある一室だった。

 エントランスから横に広がる道へ突き進み、突き当たりにある一室。鍵は掛けられてなく、普段は貴族たちの溜まり場にもならない倉庫となっていた。

 隠れ蓑には持ってこい、と言いたい所だが、所詮は鍵もない部屋。すぐにあの曲者に見つかってしまうだろう。


「伯爵、どうしてここに?」


「ここには特別な仕掛けがありましてね……殿下」


 彼はミラを呼ぶと、積み上げられた荷物を退かした所に眠っていた地面を指差しした。

 地面には人ひとり収まる程の大きさを誇る円形を結ぶ紋章が描かれており、中央には口を開けた男の像が掘られていた。


「この口に手を入れてください」


 状況が状況である。命じられるがままにミラは像の口に指で触れた。

 口の部分は窪みになっており、部屋の暗さも相まって底がない。不安に駆られながらも思い切って口に手を入れた。


 瞬間、目が白い光りを帯びた。


「これは……!?」


 焦って手を引っ込み、彼に視線を向ける。伯爵は部屋の入り口で外を伺っている最中であった。

 異変の声に反応して伯爵は柔らかな笑みを作って短く解説した。


「それは転送装置でございます。(ケテル)を持っている方のみに反応します」


 円形の輪に光の壁が生まれ、徐々に光が強くなっていく。

 ”転送装置”。そう耳にしてミラはようやく察した。これは緊急時用の仕掛け。正門裏門にも魔の手が潜んでいる可能性がある以上、これに頼るしか他ないのだ。


「貴方は──」


「ワタクシは同行できません。ここに囚われている貴族たちを逃し、案内する役目がございます故」


 伯爵はそう告げて視線を外に向けた。

 何が起こっているのかは理解できないが、只事ではないのは理解できる。彼の心強い言葉を最後に、ミラの周りに光が充満していった──

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