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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード79 性分

 王都でクーデターの発生。その知らせは僕やアドニスに衝撃を与えた。

 クーデターとは、既存の支配勢力の一部が非合法的な武力行使によって政権を奪うことを指す。圧制に縛られた国ならばいざ知らず、今の王都でクーデターが起こるとは考えにくかった。だからこそ、耳を疑ったのだ。


「シエル、本当か?」


 早速アドニスが裏を取る。この事実を彼女が知らない訳がない。

 隣に立つシエルは至って冷静に頷いた。


「はい、少佐が王都に潜ませていた調査部隊からの急報──それが来たのは先日の夜のことです」


「こいつらが知っている理由は」


「レヴィ副司令曰く『個人の判断で軍を動かすことはできない』と仰っており、少佐が戻られるまでは待機の方向を取っておりました。ですが、内容が内容なので、詳細を周知させる者を私個人で選別し、秘密裏に連絡した次第です」


「……なるほど」


 淡々と答えるシエルにアドニスは目を伏せて咀嚼した。

 つまり、事実を知っているのはここにいる全員と、レヴィ副司令というあの男だけだということだ。

 アドニスが遣わした調査部隊というのも、前々から上層部の動きが気になると言っていた点から派遣させていたのだろう。それが意外な所で役に立ってしまった。


「クーデターか。確信はなかったが、予期はしていた」


 彼女は目を開いて椅子に背をもたれさせ、タバコを吹かす。灰が、ポロと床に散らばった。


「起こした張本人はエルウィン王子だろう。前々から現国王の政治が気に食わないとほざいていたからな」


 エルウィン──その名前を聞いて目を見開いたのは他ならぬ僕と姉弟だった。

 学園登校の初日、初対面が強烈だったが故に、記憶には新しい。あの傲慢に服を着せたような王子が主犯だと聞いたら、クーデターというボヤけた輪郭が恐ろしい形相へと変貌するのにそう時間は掛からない。

 思えば初日以降、まったく学園に来なかったことも含めて考えれば、符合してしまう点に納得する。

 丁度、あの頃にアドニスから魔物討伐の依頼された。ルースリスの言う通り、これが陽動だとするなら本命は王都内でのクーデターだと言う事になる。


(王子が、悪魔と通じていた……?)


 何かとてつもなく悪い予感が灯火を揺らす。大きな悪意が足音を立てて背後に迫る、そんな悪寒が走った。

 それはヴァンも同じなようで、


「──だったら、今すぐ向かうべきだ!」


 推測するアドニスに喰らいついた。


「リール・ヴァルヴァレット、貴様には我が隊を救ってくれた恩義がある。しかし、貴様の命令には承服しかねる」


  ヴァンの力説に、はっきりとノーを突き付けるアドニス。

「何故だ!」とすかさず問い詰め返すが、彼女はタバコを咥えつつ座り直してテーブルに頬杖を着いた。


「まず第一に、貴様の”思惑”に民が入っていない。皇女様だけを連れて去るのであれば、勝手に一人でやればいい」


「──ッ!」


 核心を突かれ、ヴァンが口籠る。

 以前から彼はミラの身を案じていた。アディシェス戦を迎える前でも、この村に来る前でも、彼はずっと主人のことだけを考えていた。

 だから見透かされていてもおかしくはない。アドニス達はあくまで民や村人を守る名目で動く正義ある軍人なのだ。一人の護衛騎士の我儘で勝手に私物と化しては今後に差し障ると暗に提示していた。


「第二に、貴様の言う通りに軍を動かしたとして、メリットはあるのか否か。答えはノーだ」


「圧制に敷かれてもか……!」


 ギリギリと歯を食いしばってヴァンは半分脅しのようなセリフを吐いて反論する。

 やれやれと彼女はタバコの先に溜まった灰を指先で叩いて落としながら首を横に振った。


「敵が王都に攻めて来たなら、残りの兵士どものケツを蹴り上げてでも動きはするさ。だが、今回はクーデター……言ってしまえば内乱だ。止めに入るにせよ、相手は同じ王都の人間であり、広い観点から見れば同郷の身内。それに剣を向けるよう強制させられる兵の気持ちが、貴様に理解できるか?」


「メリット云々の割に、結局は道徳か? 説明になってねぇ。話すなら情に訴えるんじゃなく、ちゃんと利益の観点から話せ」


 今度は煙に巻こうとするアドニスに反撃。こう見えてヴァンは頭の回転は早い。

 お手上げのポーズを取って、彼女はすぐに訂正した。


「我々は以前から上層部の命令でこの作戦に投じている。なら上層部の意向を汲み取るのも少佐という役目だ──つまり、」


 ヴァンと交差する視線の間に人差し指を立てて、アドニスは告げた。


「”政治に関わるな”。この意向を汲んで、私はこの村で傍観する」


「馬鹿げているぞ”軍神”!」


 ついに沸騰したヴァンがテーブルを叩いた。


「民を守るのがお前達の役目じゃないのか、それを傍観だと? ふざけるのも大概にしろ!」


「耳が痛いな」


 激情する彼の言葉に、アドニスは再び背もたれして片方の耳穴を小指で塞ぐ。

 まるで猪突猛進な牛と闘牛士だ。ヴァンが赤髪の気に食わない態度に憤慨し、それをヒラヒラと躱すアドニス。軍を出せ、出せないの問答で見事な構図を繰り広げていた。

 しかし、アドニスの表情が一変して彼を睨む。


「──だがなリール・ヴァルヴァレット、ここで察し良く王都に帰還でもしてみろ。クーデターの制圧に成功するにせよ失敗するにせよ、我々が機微良く働きすぎればどうなるか、想像したまえ」


 一拍の静寂が流れ、ここでようやく彼女が真意を語った。


「たとえ制圧に成功しても、察しが良すぎる部下は扱いにくいと判断される。反感を買う貴族もいるだろう。そうなれば片手間で我が隊は解体を余儀なくされる……所詮、我々は一個部隊に過ぎないのだ」


 先を見越して想像し、アドニスは眉間にシワを寄せた。

 仮に失敗でもすれば言わずもがな、汚名に箔が付くだけ。


「私はまだ、上を目指さねばならない。クーデターと言えど、時に愚か者を演じなければ我が隊は生き残れんのだ」


 故に、軍は出せない。そう締め括る彼女の表情は、この短い時間で判断した断腸の思いの現れだった。


「クソっ……!」


 そんなものを見せられては、ヴァンも下がるしかない。

 大義名分、兵士たちの士気、上層部の意向──何もかも一理ある判断だった。

 この場で話題に上がってないが、『時間の問題』もある。軍を動かせばそれだけ足は遅くなる。王都からこの村まで、行きしで半日は掛かったのだ。王都に帰還を果たせても、すべてが終わって空では水の泡である。


 みんなの顔が俯く。暗く重たい空気が流れ、結局は見ているだけしか出来ない己の無力さに痛感させられる。

 しかし重苦しい空気の中、アドニスは大袈裟に煙を吐いて述べた。


「だから初めに言っただろう。勝手に一人でやれ、と」


 確かに、彼女はヴァンにそう告げていた。皇女を助けたければ単身で乗り込んで救い出せばいい。だが、それが出来れば苦労はしないのだ。

 アディシェス戦でヴァンの体はボロボロ。しかも携えた愛用の剣が折れた。そんな状態でクーデターをどうやって収めればいい。

 少なくとも戦力は必要なのだ。僕やカナリアだけでは心許ないのは致し方ない。理解はしているのだ。

 じゃあ、どうすりゃいいんだ──ヴァンは目で訴えると、彼女はこれまたわざとらしい演技をし始めた。


「あー、そういえば予備のタバコも切れそうだ──ヴァーミリオン大尉」


「はっ」


 階級呼びをする瞬間から演技を辞め、はっきりとした口調で指示を与える。


「特例として命じる、王都に至急向かえ。尚、これは私情の為、一時的な除名も徹底する。いいな?」


「承知しました」


 部隊の除名。タバコのおつかいだけでそこまでするかと思っていたが、これはそういうやり取りではない。

 遠回しに、シエルを助力させるとアドニスは言ったのだ。それが解らない程、この場にいる人間は鈍くない。


「え? タバコの為だけに除名ってやりすぎじゃ……」


 前言撤回。一名を除いて。

 状況を把握できず慌てふためくカナリアに、ヴァンは小突いて黙らせた。


「あ、思えば馬の手入れもしなければならんな。あの暴れ馬は御するのが大変だ。うっかり突っ走るやもしれんなー。数刻も掛からん内に王都にいる番の牝馬の元まで一直線だなー」


 再度、見事な棒読みでアドニスが大きな独り言を口走る。要はゲリュオンを使って、シエルと共に王都へ向かえということだ。


「よし、今すぐ行くぞ!」


 ヴァンが意気込んでアドニスから背を向けて部屋を出ようとする。思い立ったが吉日というが、些か行動が早すぎる。

 あの馬に乗るのには抵抗があった。僕は待ったを掛けようとテーブルに立ち、みんなに向かって手を挙げて考え直すよう主張するのだが、


「なんだよアイン、早く行くぞ」


「そうだ。用が済んだら早く出て行きたまえ」


 ヴァンとアドニスが許してくれなかった。

 決定権を有する中に、僕は含まれていない。頭の火が憂鬱に縮んでいく。


「勝手に私のマナを吸った罰だ。意地を見せろよ、”アイン”」


 振り返るとタバコを吹かして意地悪に笑うアドニス。”(ネツァク)”を使ったことへの意趣返しという訳か……

 いじらしく見つめ返すと、小気味いいのか彼女は肩を揺らして笑った。

 そして、


「性分だ、許せ」


 いつもの口癖を言って不敵な笑みを浮かべるのであった。

虚の王編、突入します。

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