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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピそード78 帰還

 幻影を頼りに道を突き進む。すると呆気なくゴールが見えた。

 鬱蒼とした草木を分けると、目の前に張り巡らされた柵に辿り着いた。


「……村だ」


 アドニスが呟いた。せっかくのゴールなのに、声色に高揚感はなく、むしろ顔色も悪い。

 当然だ。幻影を出し続ける為にずっとマナを吸い続けているのだ。マナが枯渇すると体調不良を起こすのは、どの物語でも一緒なんだなと思い、僕はベンテールを下ろして発動させた魔法を中断させる。それと同時に、楽しそうに歩む幻影は霧散し、マナへと還った。


 柵は先日の早朝に作られたもので、柵の間からにはテルル村が顔を覗かせていた。

 僕たちが歩いてきた道はどうやらあの街道すらも超えて村の脇に着いた様子。馬の移動速度なら時間は経たないが、あの曲がりくねった迷路を歩きで彷徨ったのなら納得がいく。


「不思議なものだ。二十年も前だとはいえ、こうも変わっていては思い出しようもなかったのだが……」


 僕は青火に変換してアドニスの感想に補足を加える。


「あの魔法はマナに残っている”残り香”みたいなのを再構築して再現したものなんだ」


「残り香だと?」


「そう。マナの素ってのが言葉にしづらいけれど、みんなマナの残り香みたいなのがあるんだ。今回はアドニスがあの湖に来たっていう思い出を参考に創り上げた」


 ざっくりした説明にアドニスの顔は険しい。説明する側の僕も、言ってて分かりづらいと反省する。


「難しい話は後だ」


 彼女は間を置くこともなく切り捨て、柵を腰の剣で叩き斬る。

 開けた柵を乗り越え、僕たちはようやく帰還を果たしたのだった。





「何処に行ってたのよ!」


 村の中央、司令室と化した村長の家で出迎えたのはカナリアの怒号だった。

 あれから一向に戻って来ない僕らを探してくれていたらしい。


「ゴメンナサイ」


 僕は青火のまま謝罪の言葉を捻出して鎧兜を下げた。

 無駄な心配をかけてしまった事への後ろめたさ。それとは裏腹に、カナリアが自分のことを深く想っていた事に嬉しく感じる。


 アドニスはというと、シエルからタバコを受け取っており、何食わぬ顔で一服。

 不公平だと思うのも束の間。シエルからの小言が徐々に炸裂していくのを見て、僕は改めてカナリアに感謝した。小言に対してのアドニスも聞き飽きたと言わんばかりに、悠長に紫煙を吹かす。


「まったく、アナタはもっと少佐としての自覚を──」


「ヴァーミリオン大尉」


「はっ──」


 小言もそこそこに、アドニスはシエルを階級で呼んで中断させた。


「犠牲者はどのぐらいだ」


「村人に負傷者は居りません。ですが我が隊は現在、総勢四百名と少しといった所でしょうか」


「半分以上、か……」


 元々、一千名ほど居た部隊だ。そこから二割を村に残して、あとの八割がアディシェス戦を迎えた。

 魔物の攻撃を喰らって村に居た部隊はほぼ壊滅だったのを見るに、逆説的に考えてアディシェス戦では半分を減らした計算になる。

 約六百名が殉職。勝利というには些か重たい空気であった。


「遺体は村人たちの意向でここで埋葬してもよいとのこと。遺品だけを回収して王都に運ぶ手筈となっております」


「ご苦労だ。あとで失った兵士の記録をリストアップして私に報告しろ」


「はい。ですが、六百名近くとなるとそれなりに多くなりますが」


「構わん──」


 タバコの火がバチっと火花を散らす。彼女の表情に一点の曇りもなく、翡翠の瞳をギラつかせて宣言する。


「私はアイツらの人生を踏み台にしてここにいる。それは今も昔も変わらん……だが、忘れて終いにする事は決してしない。人の死に重い軽いなどない。慣れるつもりもない。かと言って嘆き続けていつまでも引き摺る訳でもない。私は、アイツらの魂を一人残らず”軍神”に焚べてやると心に決めた!」


 言うなればヴァルハラ。彼女は戦死者たちの魂を己の中にある楽園へと連れてやると豪語した。

 アドニスはこれからも戦い続ける。しかしその中に眠る魂が、彼女の支えとなると信じて。

 これが”軍神”。彼女の元で戦うという事はつまり、死後も戦えと言っているようなもの。

 これが、あの幻想で得た彼女なりの答えなのだろう。忘れぬ為に、刻み込む。己が己である為に──


 価値観の相違か、個人的には安らかに眠らせた方が良いと思うのだが、シエルはクスリと笑って微笑んだ。


「成長されましたね」


「後悔するか?」


「少しは。だってアナタ、未だに書類の整理も出来ないじゃないですか。死んでもおちおち寝ていられませんよ」


 アドニスの問いに、皮肉を付けて彼女の意向に賛成の意を示す。これにはアドニスも小さく控えめな笑みを浮かべた。

 死んでも付き合ってやるという彼女たちの固い絆を目にして、少し羨ましいと感じてしまった。


「それよりもアドニスせんっ──少佐、今はそれどころじゃないんです!」


 先生と言い間違えそうになって訂正しながらカナリアが割って入る。なんだか慌ただしい様子にアドニスと僕が首を傾げた。


「ヴァンが──」


──バンっ!


 続け様に訳を話そうとした矢先で、玄関のドアが勢いよく開く音が響いた。


「アドニス!!」


 噂をすれば何とやら。怒号の声はヴァンのものだった。

 部屋の奥へ進むズカズカという足音の他に、後ろでアフェクとルースリスの声が響く。


「ヴァン殿、一旦落ち着いて! 今入っても取り合ってもらえる保証は──」


「そうよ、ちょっと短絡すぎるってアンタ!」


「るせぇ!!」


 そして今いる僕たちの部屋の扉が蹴り開かれた。


「おいアドニス、アイン、戻ってきてんだな!」


 部屋に入って来るヴァン。一日振りの彼の表情は危機に迫るものと同時に怒りに満ちていた。後ろで彼の肩と脚を掴んで引っ張るアフェクとルースリス。だがその抵抗も虚しく、並の人間より力強いヴァンに引き摺られる形となっていた。

 ヴァンの視界に僕とアドニスが映ると、開口一番に、


「アドニス、今すぐ軍を出せ!」


 と進言したのだった。

 これにはアドニスも僕も首を捻るしかない。一体どういう事なのだ。


「ちょっとヴァン、無茶言っちゃダメだってあれほど──」


 さらにカナリアが彼の暴挙を咎めて押し返そうとするが、まるで意に介さない様子。


「よい、フル・ヴァルヴァレット。リール・ヴァルヴァレット、理由を話せ。今作戦で我々は大きな損害を被ったと報告を受けたばかりだ。貴様の我儘、聞くに値するか示せ」


 許可を得て、ヴァンを止めに入った三人は拘束の力を緩めた。というより恐れで硬直したと言った方が正しいのかもしれない。

 アドニスが纏う雰囲気は尋常じゃなかった。あのアディシェス戦でも見せなかった本気の脅し。吸い込まれそうになる翡翠の瞳が、ヴァンを捕えて離さない。カナリアもアフェクもルースリスも、そんな彼女の威圧に押されて冷や汗を流す。


 しかしヴァンは恐れず部屋の奥へ突き進んだ。

 テーブルを両手で叩きつけ、真っ直ぐ上座に座るアドニスの瞳を見返して吠える。


「なら聞いて驚け。お前らが何処かほつき歩いている間に王都から兵が来た──」


 一拍置いて、ヴァンは肺いっぱいに空気を吸い込んで、


「王都で、クーデターが起こった」


 衝撃の事実を告白するのであった。

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