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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード77 緑(ネツァク)

先日より追記しました。

◆◇◆◇◆◇




 幻想(ともしび)が終わり、元の焚火の地へと舞い戻る。

 ベンテールを下ろし、アドニスの様子を伺うと彼女は地面に横たわって寝息を立てていた。一雫の涙を浮かべ、かの英雄の名前をうわ言で呟きながら──

 焼きたての魚は起きた後でも食べられる。僕はそう思い、炭と化した薪を眺めてアドニスが見た夢について考える。


 過去の英雄たち。ユースと添い遂げた二人の女性のことは知っていた。ユースの夢を覗いた経験があるからだ。

 ヴァンの母がリルという女性で、カナリアの母がフルール。性格は違えど、面影は確かにあった。

 そして凱旋の最中にいた後ろの二人──青年と魔女。特に魔女の方が気に掛かる。


 僕は”西果ての魔女”の家で誕生したのだ。依然として魔女は行方不明だが、もし彼女が僕の産みの親だとするなら、この手掛かりは大きいのかもしれない。

 先ず感じたのは存在感の希薄さ。儚げと言い換えるのとは少し違い、魔女のくせに何処か影が薄いのだ。それが魔女としての特性というのなら頷けるが、ルースリスの幻想で出会った魔女とはエライ違った。

 彼女は一体何者なんだ……

 僕は心の中で存在するのかしないのか判別付き難い女性のことを思い出しながら空を見上げた。


 空は、暁の色に染まりつつあった──




 アドニスが起きたのは日が昇る手前。小鳥の囀りで目を覚ましたのだ。

 気恥ずかしいのか、互いに無言のまま彼女はもう冷え切っていた魚の身にかぶりついた。

 久々に思われる食事を手早く済ませ、火起こしの事後処理を行い、早々に立ち去る。


「昨日はすまなかったな」


 歩みを進めて雑草から禿げた道筋を辿る中、アドニスが急に謝罪を述べた。

 彼女が謝る事は何もない。強いていうならそのまま寝落ちてしまったことへの謝罪なのだと勝手に補完する。


「こっちこそゴメン。急に力を使って」


「あれがお前の”力”か……」


 能力と言ってもいい。僕に備わった一番の魔法。それを耳にして彼女は静かに笑った。


「形はどうあれ、”彼女”に逢えた。記憶の断片に過ぎないが、それでも私が私で在る為に何をすればいいか、ようやく思い出せた──感謝する」


 昨日みたいに鬱屈した雰囲気はなく、今の晴れ渡った空のようにアドニスの瞳は輝いていた。

 自分が自分で在る為に。忘れないで、と助言するフルールの言葉通り、彼女もきっと失った兵士のことを忘れず抱き続けるだろう。

 それは酷く重たい。容易じゃない事は確かだ。しかしそれでも、自分の”憧れ(ルーツ)”を思い出した彼女ならもう一度立ち上がれるはず。

 潰えた想いごと、胸に焚べて──


「そういえば、お前に一つ礼をせねばな」


「れい?」


 歩みながらアドニスは思い出したかのように閃いて手を叩いた。


「アイン……と言ったな。お前、我が部隊に入れ」


 まさかの勧誘で唖然した。

 ヴァンの時もそうだったが、彼女は所構わず気に入ったものを近くに置きたがる節がある。部隊への入隊という事は軍に所属するという訳で、その所有権とか巡る争いとか勃発しそうで怖い。

 そもそも僕はカナリア達とまだ一緒に居たい気持ちがある。


「お、お断りします……」


「そうか」


 丁重に申し上げると、アドニスは「ふーむ」と唸りながら顎に手を乗せる。入隊を断られるのは承知の上だったのか、とりあえず言ってみた感がすごい伝わった。


「何か欲しいものはないか」


 思い悩んでも仕方ないと肩を竦めて問い掛けてきた。

 突然聞かれても困る。


「御礼なんていいよ」


 元々、見返りを求めてやった訳じゃない。彼女が前向きになったのならそれで満足なのだ。

 そう思って首を横に振ったのだが、アドニスは明らかに不機嫌な表情を浮かべた。


「我が家系の沽券に関わる。魔法生物といえど、受けた恩はそれ相応に返さねばならない。答えなければ私の婿養子になることも検討せねばなるまい」


(婿養子!?)


 とんでもないことを耳にした気がして、己の耳を疑う。だって魔法生物ですよ。人間じゃないんですよ?

 立ち止まって驚愕する僕の反応を見て察したのか、彼女も歩みを止めて涼しげに続けた。


「なに、問題はない。異形だろうが何だろうが、愛があれば(つがい)になれる。王都の神父どもが常々説法垂れている言葉の一つだ」


 ”愛”とか”番”なんて言っちゃったよこの人。一番縁遠そうな言葉にギャップを覚え、思わず頭の火がバーニングファイアー。

 そもそも結婚は愛が無ければならないんじゃないの? こんな不誠実な事で結婚しちゃって大丈夫なわけ?


「順番なんてどうでもいい。番になってから育む愛もあるだろう。人の営みとは型にハマらぬ方が燃え上がるもの。昨日、私の裸を見た責任も取って貰う良いチャンスだしな」


 ああーーもう、僕のバカァ! めちゃくちゃ拝んちゃってるよ!

 過去の行いに頭を抱える。ここで覗きのツケを払わされるのか。

 でも冷静によく考えたらアドニスは家系的にも裕福な貴族だし、しかも美人で何より巨乳である。比較と喩えを引っ張り出すなら、カナリアはクラスメイト内の可愛いアイドル系。アドニスは世界を股にかけるグラビア系。本人もこう言ってることだし、ここは婚姻届を用意して僕なりに責任を取るべきなのでは──


「そうなると父上殿に挨拶せねばな。ああ見えて結構溺愛するタイプだ。本気で殺しに掛かるかもしれんな」


 前言撤回。ちゃんと御礼は何がいいか考えよう。

 てかバイオレンス家って怖い人ばっかりなのだろうか。苗字からして既に暴力的っぽいし。


「さぁどうする。答えないなら私と花道を歩むか? それとも我が部隊に入るか?」


 畳み掛けるように不敵な笑みを浮かべて言い寄るアドニス。僕を揶揄って遊んでいるようにも見えた。

 僕は必死に頭の火を燃やして考える。


 欲しいもの、欲しいもの……


 折角だから今後の役に立てるものがいい。役に立つものといえば武器なり魔法なり──

 一瞬の閃きで、僕は思ったことを口にした。


「──まほう!」


「魔法?」


「そう、アドニスの魔法が見たい!」


「そんなものでいいのか?」


 訝しげに問うアドニスに、何度も頷いてファイナルアンサー。

 訳を掻い摘んで話している最中、彼女は終始つまらなさそうに相槌を打つだけだった。途中で舌打ちをして「婚期を逃したか」と指を噛む仕草を見せる程である。

 さてはヴァンを勧誘したのも婚姻相手を確保する為ではなかろうか……そんな末恐ろしい想像をしながら僕は村であったことを話したのだった。





「──つまり、セフィラを手に入れたということか」


 アフェクとのやり取りを思い返す。

 何がトリガーになってセフィラを解放させられたかは不明だが、あの場での窮地を救ったのは他でもない(ケセド)である。

 アドニスのセフィラは見た事がないので判別の付きようがないが、それでも貴族令嬢となればそれなりの魔法は使えるはず。魔法の使い方は千差万別。たとえセフィラの色が僕と同じ白や青あっても、彼女なりの使い方を今後の参考になればと思ったのだ。


「ますます不思議なマナニアだな。まぁ良いだろう」


 この考えに納得し、アドニスは承諾。

「期待はするな」と口添えをして、彼女は早速手のひらを己の前に差し出した。


「私のセフィラは”(ネツァク)”だ。基本原理はマナを粒子体に変化させる、というものらしいが──」


 手のひらから淡い緑色の発光が浮かび上がった。彼女の瞳と同じ色の翡翠の粒子が宙を舞い、大気の中へ分散していく。

 しかし、これと言って何も変化が起きない。待てども待てども森の景色が変わる様子はなく、かといって僕自身やアドニスの身に何か宿る訳でもなく、依然のまま静寂が流れるだけであった。

 首を傾げているとアドニスが短く息を吐いた。


「このように、粒子を放つだけで何も起きん」


「え、ええ……」


 何の役に立つんだそれは──

 期待外れにも程がある。僕があからさまに肩を落として落胆すると、アドニスが訳を話す。


「”緑”はどうも未知の領分が多すぎて未だ解明に至ってないのが現状だ。子供先生曰く、マナの素となる仕組みが解れば使い方も自ずと出てくるだろうという見解らしい」


 あの博識なクリスが言うのであれば間違いはない。

 だがこれでは得られるものが何も無さそうである。彼女は己で放出する綺麗な粒子を眺めて憂いた。


「この役立たずな魔法のせいで苦労したよ。才も容姿も家柄も何不自由なく恵まれた私でも、これだけは欠点であり欠落した部分だった」


 魔法で優劣が決まりがちなこの社会で、アドニスは唯一の致命的な欠点を持って生まれてしまった。

 厳しい家柄ならば尚更堪える。容姿も整っていれば周りからの嫉妬でその欠点を揚げ足取りの如く突いてくる。だから他の才能を伸ばすことに特化したのだろう。

 軍に入り、ほぼ剣術と策略だけでのし上がった彼女の苦難が垣間見えた。


「そういう訳でな、これでは礼の足しにもならん。大人しく籍に入れ」


 そう言って悪戯な笑みを作るアドニス。

 謀られた。期待させておいて結局逃げ道を塞がれただけだった。


 にしても、記憶と食い違う点が気に掛かった。クリスの授業で”ネツァク”は『確率』だったと記憶している。

 そもそも確率とはどう言うことか。文字通りならサイコロの目を操れるとかだと安直に推理するが、そんなはずはない。

 あの先生が嘘を教えたとは考えにくい。何かヒントでもあるのだろうか。そう思って、僕は緑色の粒子に手を伸ばした。まだ解明されていない魔法。その未知なる真髄を知りたいと願いながら。

 粒子に手が触れる。途端、脳裏にバチバチと電流が走った──




【フラグメント”可能性”の発動を確認──セフィラ解放:(ネツァク)




 灯火が変色するのを感じる。青火から緑火へ──


「どうした」


 アドニスが放つ粒子を止め、静止する僕を見つめて不安そうに呼び掛ける。

 僕は自分の異変に理解が追いつかず、すぐ青火に戻して答えた。


「なんか、取得できちゃったみたい」


「……今のでか?」


「う、うん」


 証拠としてベンテールを上げて色の変化を見せつける。

 青から緑。それを分かりやすく交互に切り替えるとアドニスは首を捻って頭を掻いた。


「ハハ、ますます不思議なものだな」


 そう苦笑いを浮かべて彼女は深く考えるのをやめたようだ。元々謎の多い魂を持つ魔法生物(ソル・マナニア)。未知の魔法を一瞬で取得してもおかしくないと割り切ったのだろう。

 しかし、僕の中で”緑”のセフィラが強く主張する。まるで鼓動のように熱い。


「──アドニス、ちょっと手を貸して」


「あ、ああ……」


 僕は彼女を呼んで頼みを口にする。

 何か始める気配を察知して、アドニスは戸惑いながらも手を差し伸べた。その手を繋いで青火から緑火へ変換する。

 ベンテールが上がりっぱなしだったのでそのまま灯火が外気に触れている。そこから辺に漂うマナを掃除機のように掻き集めた。


「──っ」


 無論、隣で手を繋ぐアドニスのマナも吸収。

 この”マナの吸収能力”は魔法生物特有の呼吸法だと推測する。ヒントはあの(ゲリュオン)だ。アレは並外れた()を持っているが、今の僕も”(ネツァク)”によって相当強化されていると思われる。

 吸収したマナを漏れなく緑火へ焚べる。風を起こした際に火は強くなるように、頭の灯火も相応の火力を発揮した。

 セフィラが告げている。もっと焚べよと──

 酸素が二酸化炭素に化合するが如く、辺りのマナが”緑”によって粒子と化す。

 まるで灰のように大量に舞う粒子。それが辺り一面に降り注いだのだ。


 直感した。”ネツァク”は決して『確率』なんかじゃない。クリスはいい線を辿っているが、『確率』はほんの一粒ぐらいの解釈でしかない。


 僕は詠唱を脳で唱える。


(──緑の勝利よ、古より眠る因果を今我の元で解き放て)


「これは……」


 アドニスが驚愕の声をあげる。

 大量に注がれた緑の粒子は、とある形を成していた。

 それは人の形。幼な子と手を引く両親と思しき人物のシルエット。目の前の道沿を歩む様子を映しだす幻影──


「わた、し……か?」


 そう、これはアドニスの過去。実際に経験した光景を再現している。

 昔、ここへ訪れたことがあったと彼女は言っていた。ならば記憶しているはずなのだ。脳だけではなくマナ自体にも。それを読み取ることが出来るのが”(ネツァク)”の魔法だ。

 この読み取る力を駆使すれば『確率』もある程度把握できる。クリスもクリスなりに得た力の開拓に、心で拍手を送る。


 よく見ればシルエットは他にもあった。薄っすらとだが、この道を開拓して作業する幽霊の姿。

 これでようやく直感が確信へと至る。

 アドニスは貴族故に己のセフィラの使い道を戦闘に活かせないか模索したのだろうが、”青”に続いてこれも戦闘には向かない。

 使い方も根本から違っていたのだ。ただマナを使用して産んでも意味がない。己のマナを使っても己に還ってゆくだけ。そういう類の魔法なのだ。


 緑色のセフィラ、その力の断片であるこの魔法に名前を付けるのであれば──


追想の再現劇(レミニス・リプロダクションパラダイム)


 過去を映した幻影は、先へ先へ進む。

 思い出を目の当たりにして惚けるアドニスの手を引き、僕たちは再び歩みを進めた。

 彼女の過去に付いて行けば、いずれ何処かに辿り着くのだから──

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