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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード74 遭難

前ページの最後辺りを追記してあります。そのため今回は少し短めです。

 機械の亡骸を眺めていると、後ろでアドニスが声を掛けてきた。


「終わったか。それでは戻るぞ、”器”殿」


 相変わらず皮肉めいた言葉を投げるのがお得意らしい。

 人がせっかく余韻に浸っていたのにも関わらず、急にクレーンで持ち上げられるようなやり口で現実へ引き揚げられる。一度彼女を睨み付けたが、もうすでに背を向けて歩き出していた。このままでは置いて行かれると思い、元来た道へ引き返してアドニスの後を追った。


 アディシェスの企みは杞憂で終わり、無事に帰路に着いたのは良いが、こうして二人きりになるというのは初めてである。ある意味、第一印象が怖いの一言であるから余計に気まずい……

 無言のまま並んで歩いていると、二手に別れた道に出た。


「……こんな道があったか」


 独り言のようにアドニスは呟くが、視線は僕に向いていた。暗に同意を求めているのか、知っているのか尋ねているかのどっちかだろう。

 そんな彼女に僕は首を横に振る。言い訳だが、行きしはかなり焦っていた。周りの光景に目を向ける程、余裕がなかったのだ。

 それはアドニスも同じのようで、しばらく口元を指先で摩って考え込む。


「おそらくこっちだ」


 指を差した方向は左。アディシェスが作った地形の内側だった。内側へ進めば嫌でも街道に出る、そういう魂胆なのだろう。

 僕も同意する。あの広い空間に出なくても、街道に出れば正解だ。

 僕たちは何の疑いもなく進んだ。


 しばらく歩くと、また別れ道。

 今度は迷わず左へ。


 また別れ道。こんなにあったか?

 不安を募らせながらも、左の道を選択──




 引き戻ってから数十分。すでに辿り着いてもおかしくない距離を歩いているのにも関わらず、禿げた道筋が続くばかり。


「────」

「────」


 お互いに自然と歩みを止め、しばらく考え込む仕草を見せて、辿り着いた答えに膝を着く。


「迷った」


 街道の横にこんな複雑怪奇な道があってたまるか。僕は心の中で愚痴を溢す。

 日はまだ道を照らしてはいるが、下手をすればこのまま遭難である。マヌケにも程がある。


 アドニスは終始、口元を摩っている。そんなにタバコが恋しいのか、苛立ちすら見せる始末。


 がさっ──


 急にすぐ近くの茂みが揺れ動いた。

 アドニスは咄嗟の判断で飛び起き、剣を抜いて茂みを睨む。


 ガサガサ……


 しばらく見つめていると、茂みから一匹の兎が顔を覗かせた。

 兎は僕たちを見るや否や、再び茂みに潜って姿を隠す。逃げていったのだろう。静寂が包み込む。


「…………」


 それでも尚、アドニスは鋭い視線をあちこちに向けて警戒を解かない。

 何か潜んでいるのだろうか。僕は彼女の足をツンツンと突いて事情を聞こうとした──


「──っ!」


(ちょちょっちょ!)


 ビクッと体を跳ねらせて彼女は剣を問答無用でこちらに向けてきた。銀色に濡れた剣先が僕と捉えて離さない。それよりも彼女の瞳が真剣(マジ)だった。

 僕は咄嗟に降参の合図として両手を挙げて首を横に振り続けた。

 己の体に触れてきたのが見知ったものだと気付いて、アドニスは深い溜息を吐いて剣を収めた。危うく殺されるかと思った……


「驚かすな。ただでさえタバコが無い。不用意に近寄れば思わず斬ってしまうぞ」


 脅しのような文句に僕は従うしか選択がない。全力で首を縦に振って意思を伝える。


「しかし、参ったなこれは……」


 思ったよりも弱っていたのか、アドニスは頭を抱えた。

 鬱蒼とした森林の真ん中。心なしか、先程より暗く感じる。


「とりあえず動かねば事態は変わらん。ついて来い」


 そう告げると足早に先へ先へ歩みを進めてしまうアドニス。

 本来なら下手に動かない方が賢明であるはず。戻って来なかったら異変に気付いてヴァンたちが助けに来てくれるかもしれないのに。

 僕はそう思って、言葉にしようと青火を焚いた。

 だが、思いを口にする前に一つ、後ろの方からカラスの鳴き声がした。


「っ!」


 またも剣を抜いて警戒態勢。あまりにも鬼気迫る表情に僕は押し黙るしかない。


──そんなことを繰り返しているうちに、本当に空が暗くなってきてしまっていた。


 一向に辿り着く気配を見せない道は、果てがないように見える。暗くなって先が見えなくなってしまったら尚更である。

 虫の羽音。動物の鳴き声。風で木々が叩く音。周りに人が居ない為、何ともはや不気味さだけが際立ち、漂わせる。

 僕は我慢できずに口を開いた。


「アドニス、なんか変」


 村にいた頃より流暢に話せてきていることに、自分の成長を感じる。意外と難しいのだ。

 足早に歩む彼女がピタリと止まった。


「……そういえば、喋れるようになったんだな貴様」


「うん、魔法で」


 僕が彼女の前で言葉を発したのはこれで二度目。地味にヴァンが餓者髑髏と化したアディシェスにトドメを刺す時に叫んでいる為、彼女は言うほど驚きを見せない。

 アドニスは二度目の深い溜息を吐いた。


「何故それを早く言わんのだ……」


 言った瞬間、剣で刺し殺して来そうなオーラを放っていたからです。なんて口には出せない。

 しかしもっと早い段階で披露しても良かったかもしれないというのは、僕の過ちでもある。これは反省しなければ。


「では魔法だ。貴様の魔法でここが何処なのか察知はできないか」


 アドニスの提案に、僕は思わず手を打った。

 青のセフィラ。探知能力を使えば容易く他のみんなの位置を割り出せるではないか。

 なんでもっと早く言わないんだよ、と僕はルンルン気分でアドニスを半分責める。口には出さないが。


「貴様、今無礼なこと考えたな?」


「イイエ、ナニモ?」


 こういう人の心を読む勘だけは冴え渡っている。なんともやりづらい相方である。


 僕は早速、青火に願いを込める。

 感覚を研ぎ澄ませ、ヴァンたちの位置を知覚しようと試み──


「あ、アレ……?」


 途端、全身から力が抜け落ちそうになった。体の構築が解けてしまい、鎧兜だけが地面に落ちる。


「どうした」


 明らかな異変に、アドニスの顔にも動揺が走る。

 体が維持できないほどの眩暈。似たような経験を一度起こしている。


「ま、マナが……」


 思えば度重なる連戦と、あの(ゲリュオン)が原因だろう。頭の青火が急激に萎んでゆくのが分かる。このままでは本当に危うい。

 アドニスの呼びかける声が聞こえるが、徐々に遠くなっていく。

 僕は抗う余地なく微睡みに負け、薄れゆく意識に溺れていった──

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