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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード71 心

 ”グスタフ”は地に伏した。黒煙を巻きながら轟音を立てて解体していき、あらゆる部品が地面にばら撒かれる。

 後ろで戦っている兵士たちの音も止み、機兵の掃討が完了したことも相まって、場の空気は勝利を予感させた。


「やった、のか……?」


 ヴァンが戸惑いながら呟く。アドニスの問答で終わる呆気ない幕引きに、一同みんな顔を見合わせる。


「まだだ」


 アドニスが釘を刺した。同時に空を指差して一同の視線を誘導させる。空はまだ黒い半球体に包まれたままだった。

 勝利の余韻に浸るのは早い。


「──我々は、屈する訳にはいかない」


 どこからかアディシェスの声が響く。すると、"グスタフ"の残骸が独りでに動き、みるみると集まり……やがて一つの形と成す。

 生前、日本妖怪に”餓者髑髏(ガシャドクロ)”というのがあった。戦死者たちが埋葬されなかった魂が集まって現れる巨大な骸の怨念である。今度はそれだった。

 この世界では未知なる鉄の部品が山のように積み上げられ、吸い込まれていき、骸を形成する。頭蓋から始まり、肩、腕、肋、腰とこの世の地上に姿を現す。

 肋の奥には青色に輝く今までと比較にならないほど大きいコアが収められていた。心臓とでも言うべき弱点。あれを壊さぬ限りはこの鉄塊は動き続けるだろう。


「今度は骨ですか」


 シエルが悪態を吐く。変幻自在の鉄塊には良い見せ物だが、事場合によっては厄介に他ならない。

 彼女が再び剣を執り、戦闘態勢に入ろうとしたところでヴァンが手で制した。


「……何の真似ですか」


「ここは俺にやらせてくれ。アイツには言ってやらないと気が済まない事が山程ある」


「貴方一人で行かせるとでも?」


「頼む」


 シエルの刺すような鋭い視線にも負けず、ヴァンは頭を下げた。彼の性格をよく知っている彼女にとって、拒否の言葉を喉奥に押し込ませるには充分だった。

 それでも引き止めようと動くシエルに、今度はアドニスが肩に手を置いて引き止める。アドニスは無言だったが、目だけで合図を送る。ここで出しゃばるのは無粋であるぞと言わんばかりに。

 渋々了承するシエルを尻目に、ヴァンは僕とカナリアの方を向いた。


「アイン、姉さん。アイツが張ってるこの空間を如何にかする。後のことは任せた」


「勝算があるの?」


 カナリアの素朴な疑問。

 無表情でも奥底で揺らぐ顔が覗かせる。細やかな変化。だが確かな兆候を見せていた。


「──分からない。ただ、アドニスの言葉で奴の中の”何か”が揺らいだ。そんな気がするんだ」


 勝手な憶測。希望的観測としか言いようがない、ただの直感。それでもヴァンはそこに勝機があると踏んだ。

 僕は心の中で大きく頷いた。彼の行動は間違っていないと断言は出来ないが、彼にしか出来ない役目があるなら心から応援するまでだ。

 いつでも魔法の発動ができるように準備は万端。あとはタイミングを外さずに彼の勇姿を目に焼き付けるのみ。


「単騎で挑むか、小僧」


 最終形態と思しき巨大鉄髑髏、アディシェスが再びヴァンと対決する。


 ヴァンは地面を蹴った。


 傷だらけで足取りも覚束ないはずなのに、気力を振り絞って疾走する。

 前回の戦いでコアを破壊するカナリアの姿を目にしている彼は、鉄部品の山を駆け上がり、真っ先に髑髏の肋へと剣を向ける。


「無駄だ──」


 アディシェスは呪詛を唱えた。

 それはプログラミング言語の羅列。配列を読み取り、組み替え、削除し、新たなコードを打ち込む。

 唱え終えると同時に、空間にいる一同に異変が生じた。


【レベルの”反転”を実行】


 視界に映る”ステータス”。その中心で大きな文字で警告される。


 この土壇場で、あろうことかアディシェスは反則技に手をつけた。敵を倒しても”レベル”だけ上がるばかりで変動しないヒットポイントの仕様はそのままに、”レベル”を反転させてヴァンのヒットポイント上限数値をレベル1相当にしたのだ。たったの十六としかない初期数値。たとえ何を被弾しても、体のどこかに掠めても体力ゲージが減るのであれば、おそらく即死である。ボス戦で”レベル変動”など、まさに禁じ手。クソゲーでしかない。

 周りを見渡すとアドニスとシエルもレベル1。変動がなかったのは僕とカナリアのみ。

 推測するに、機兵を倒した経験値が罠。"レベル"が上がった分だけ大幅に下げられる。

 こんな姑息な手を使うだなんて、たとえゲームでも相手にしたくない。


 それでもヴァンは全く意に介さず突貫。

 先ずは邪魔な肋の数本に切り込みを入れようとし、弾かれる。

 ついに”レベル”は、ヴァンの攻撃力までも影響を及ぼした。本来、彼の力を持ってすれば覆う鉄骨一本ぐらいは斬り伏せたはず。それすらも封じられてしまったら、もはや打つ手なしだ。

 しかしヴァンは諦めない。宙返りして鉄の残骸の山へ着地し、再び剣を構えて立ち向かう。


「──何故そうまでして抗う。御主は見る限り心を失っておらん。怖くないのか。恐ろしくないのか。痛くはないのか」


「ああ、怖い──今にも吐きそうだ。さっさと殿下の元で膝枕でもされたいぐらいに」


「ならば何故だ。心さえ失えば怖くはない。恐ろしくない。痛くもない。何故、我々の微睡みの夢に堕ちぬ」


 何故。何故。と繰り返すアディシェス。手骨を翳し、押し潰す。

 これを間一髪で回避するが、余波で吹き飛ばされてしまう。

 ヴァンの”ステータス”を鑑みれば、今の彼の状態はガラスのコップ。些細な衝撃でも割れてしまう脆弱な体なのだ。地面に叩きつけでもされたら最後だ。


「ぬぉぉおおおお!!」


 すでに”ステータス”の異変と脅威を知っているヴァンは、雄叫びを挙げて体を捻った。

 天性の才能だろう。迫り来る地面を前に剣を突き刺して勢いを殺し、杖となった剣を軸に地面に足をつけて緊急着陸。五体満足に無傷で乗り切ったのだ。

 手に汗を握る攻防。見ればアドニスもシエルもカナリアも、真剣な面立ちで彼の背中を見つめていた。

──感情が、戻りつつある。


 だが、ヴァンのヒットポイントは減っていた。ほんの些細な衝撃で目盛りが減るのであれば、考えられるのは一つ。防御力の初期数値だ。

 いくら回避したからと言って、吹き飛ばされた事実と衝撃までは防げない。残り10を切った。


 難を凌いだのは良い事だが、ここで致命的な状況に陥る。距離が空いてしまった。

 アディシェスは身体中に設置させた銃口をヴァンに向け、連撃発射。閃光の直線を描いて、彼に弾丸の雨を降らす。

 ヴァンはその場から動かず、剣を真っ直ぐ構えた。目を閉じず見開き、弾丸を剣先で弾かせて軌道をズラす。見たことがある構えだった。

 あれはグルツと決闘をした日。圧縮された水のレーザーを弾いたものと同一だった。


 しかし全てを避けることは出来ない。腿を掠め、脇を掠めて徐々に目盛りを減らしていく。

 8……7……6……


「答えてやるよ、アディシェス──」


 そもそも剣が持たない。数多の戦いで疲弊した刀身は、すでにヒビが入っている上に、銃という弾丸の威力にいつまでも耐えられるはずがない。砕けるのも時間の問題である。

 5……4……


 ここで異変が起きる。

 僕たちの真後ろ。後方から極太の閃光がアディシェスの胸を穿ったのだ。


 振り返ると、玉座に座る男が手を前に翳していた。

 彼の周りには大勢の兵士たちが集まっており、そして例の(ゲリュオン)の姿が目に映る。あの短時間に場所を変えてマナの大砲を放ったのである。


「ガ──」


 再びマナの塊を受け、餓者髑髏は怯む。肋骨が砕け、煌めくコアがついに外気を晒した。

 恩恵はそれだけじゃない。怯んだ末、あれだけの銃撃が止んだのだ。これを逃す手はない。ヴァンはすかさず疾走──


「お前がいらないと切り捨てた”心”ってのは、何も恐怖や怒りだけなんかじゃない」


 もう一度、鉄の山を駆け上り──


「”心”があるから人は繋がれる。助け合おうと手を差し伸べられる。喜びを分かち合える。”心”が無ければ、それこそ他者の排斥に心痛まない愚か者が溢れちまう」


 腰まで辿り着いたところで跳躍し──


「知っていたんだろ、アディシェス! だってお前にも──」


 ボロボロの剣を大きく振り翳して──


「”心”があったんだ!!」


 コアに向かって勢いのまま叩きつけた。




 しかし、ここで”奇跡”の摘取り。アディシェスが持つ”外殻”の真骨頂──


 剣が、折れたのだ。

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