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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード69 再戦

最後辺りを改変させて頂きました。急な変更に誠に申し訳ございません!

 戦車から飛び降りた先には騎兵隊の近くだった。アドニスなりの配慮だろう。馬は無傷であり、機兵の群集からも離れていた。

 辺りに散らばっている機兵の残骸から察するに、あの戦車によって蹴散らされたと読むべきだろう。どこまで計算で、どこまでが偶然なのか計りかねるが、それでも彼女の働きには感謝せねばならない。

 しかしあの戦車を引く馬は本当に何者なのだろうか。アレから離れたおかげで意識がハッキリと覚醒した僕は、遠くで乗り捨てた自分たちの馬を探し、見つけた。

 無傷のまま起動停止状態で横たわっているそれは、依然沈黙のままである。おそらくアレが魔法生物としての死。灯火に焼べるマナが尽きた行末だった。人間で例えるなら大気を取り上げられた窒息死。一歩間違えれば僕自身もああなっていたであろう。あの場に居座っておいて生きているのが不思議だ。


「馬を借りるぞ。姉さん、いけるか?」


「うん……」


 騎兵隊の兵士からの承諾を待たずに、空いている馬に跨ってマナを送る。

 兵士たちは虚ろな目をするだけで返答できる状態ではなかった。訝しげに視線を向けては来るものの、心ここに在らずと言った様子。命令を聞いて明確に動けるようになるのは、上官であるアドニスか他の上官のみだろう。故に、難なく馬を借りられることに成功したのだ。

 馬が産声をあげてカナリアを騎手と認め、再び戦場を駆け走った。


 向かう矢先にシエルの姿が見える。道中でカナリアのステータスを確認すると、もうマナの残量が心許なかった。それもそのはず。ここに来る前に彼女は村で枯渇寸前まで魔法をぶっ放していたのだから当然の結果。レベルは変わらず40をキープ中。


「シエル大尉!」


 真っ直ぐ突っ切ると、辺りに騎兵も兵士も居ない妙な空間に出る。場所は下半球の中心地。ここだけ別次元の戦闘が繰り広げられていた。


 片手に持つ刀剣を見えない速度で鉄塊を斬り伏せるシエル。だが、刃は芯まで届かず傷を作るだけ。その間、鉄塊から不規則な機動の攻撃を放つ。尻尾らしきものが枝分かれし、八つに分裂したそれをまるで触手のように薙ぎ払う。

 まずは跳躍し、これを回避。続く残り7つの触手を刀剣で弾き、躱す。まるで空中ブランコの芸当を見せつけられているかのような華麗な技。

 しかし鉄塊もこれまた卑怯な手を試みる。彼女が宙を舞っている間に、刀剣にて傷付いた部品を覆うように他部品をガチャガチャと組み替えて補っていく。みるみると傷口が塞がり、せっかく与えたダメージも振り出しとなってしまう。


 カナリアがシエルの名前を呼ぶ刹那、常人では混乱するほど目まぐるしい展開を織り成していた。

 これに割って入る余地が僕らにあるのだろうか。あのヴァンですら呆然としている有様である。


「なぜ来たのですか、カナリア・フル・ヴァルヴァレット。ヴァン・リール・ヴァルヴァレット」


 触手を残らず切り落として着地。シエルはバラバラと部品が落ちるのを視線で追いながら二人を叱る。

 彼女の後ろに馬を止め、ヴァンが剣を抜いて加勢せんとばかりに戦闘態勢に移った。


「なぜ来たかって、コイツを倒す為だ。アドニス教員からも許可を得ている」


 端的に答えて、彼は鉄塊を睨む。


「やはり来たか。"器"を持つ人間共よ」


 鉄塊が懐かしそうに電子音を鳴らす。鈍色に輝く青いコア。ガラクタを継ぎ接ぎした巨体。尻尾と翼と思しき部品の寄せ集め。

 ルースリスの心を奪い、村を攻めるよう嗾け、この空間を創った張本人。


「祖国で世話になったな──今度こそ引導を渡す。受け取れよ、アディシェス!」


 ヴァンが彼の国での邂逅を語り、そして宿敵に告げる。

 ”鉄の竜”との再戦と相成った──




 ”鉄の竜”は以前とは比べ物にならないほど強くなっていた。否、正確にはこちらが『ステータス以上の力を発揮できない』というフィールド効果によって制限されているため、そう感じるだけに過ぎない。だが、それを加味してもアディシェスの防御力は常軌を逸脱していた。

 今一度、ステータスを確認する。相手の体力とマナ数値は四桁。両方とも三千台に上り詰めていた。レベルと思わしき数値は見当たらなかった。

 対してシエルのレベルは87。ゲーム通りに参考するなら、決して勝てない数字ではないと思いたい。


「くっ……姉さん、魔法を!」


「わかった」


 思いの外、苦戦を強いられるヴァンがカナリアに支援を要求。馬から降りて、僕を抱えたまま魔法の詠唱を唱える。

 残りのマナ残量を気にしている場合ではない。心を失っても宿敵との対決に異を唱えるはずもなく、彼女は手を前に翳して撃ち放とうとし──


「…………出ない」


 不発。

 マナの粒子が手元に集まるだけで、肝心の魔法が発動せずに霧散したのだ。


「どうした、早く!」


「……やっぱり出ない。魔法が発動しない」


「なに!?」


 ヴァンは再生した尻尾を間一髪で避けながら予想外の展開に声を荒げる。


「くそッ、どうなってるんだ……!」


「魔法の使用は不可です。この空間のせいでしょう」


 シエルが補足しながらヴァンのアシストを行う。彼女を助けるべくやって来たのに、逆に足手纏いになってしまっていた。


「魔法の原理は知っているでしょう。セフィラは術者の強い望みや願いを糧に発動する。心を奪われた者達では、魔法の発動ができない。かく言う私も、この有様です」


 なんとも厄介な空間だろうか。

 過去に自分の魔法の強大さを自慢げに謳っていた生徒たちを思い返す。この世界では、魔法の強さが優劣を測っていても過言ではない。現に、魔法があれば大量に湧いた機兵など敵ではないはずなのだ。それを封殺されては戦力が激減である。

 シエルも何度か魔法を使用しようとしたのだろう。しかし無駄に終わったと、自分の無様な姿を晒して答える。


 僕の頭の灯火も同じ原理だと推測する。今まで幻想で繋がってきた人の心。それが力となり、駆使して苦難を乗り越えてきた。その心の灯火さえも吹き消されては文字通り手も足も出ない。

 このままでは、数では勝っていても実質互角に渡り合えるのは一人だけ。


(あれ……じゃあ何で魔法生物は動くんだ……?)


 ある疑問が思い浮かぶ。馬にしろ、アドニスがタバコを吸うために使用したあの紙にしろそうだ。魔法が使えないなら僕自身も起動停止を余儀なくされてもおかしくない。


(いや、違う。糧とする願いや渇望が無いだけで、それらを必要としない魔法なら使用できると言うことか)


 自分の中で答えを見出す。この空間は魔法が使えないじゃない。魔法を使うべく必要な要素が欠けるが故に使えないってだけだ。なら、マナだけで構築するモノなら動くはずだ。魔法生物であるあの馬たちのように。マナ自体は存在するのだから、それらを駆使して魔法を使うことは可能ということになる。

 ならあの戦車の中でヴァンとアドニスが話していた”魔法具”。アレなら──


「幾ら足掻いても無駄だ」


 アディシェスが両翼を広げて羽ばたかせ、翼の内側から鉄の破片を霰のように投げつける。的になったヴァンはこれを剣で防がず、掻い潜るように前転をして弾幕回避。懐に潜りつつ鉄の竜の腹に剣を振るった。

 しかし鋼鉄の塊に物理的ダメージが通るはずもなく、剣は刃こぼれと火花を見せるだけで鉄同士がぶつかる音が虚しく響き渡る。

 諦めの悪いことに、どこかに脆い箇所はないか探しつつ剣を振るうヴァン。彼の行動に悪魔本人も呆れた様子を見せ、冷たく尻尾で遇らう。


「ぐあっ……!」


「何故、足掻く。以前とは違うということを身を持って知ったであろう、小僧。我々が保有するこの機体と”外殻”の前に、抗う術はないと何故気付かぬ」


 彼を地面に叩き付けたのち、今度は攻めあぐねているシエルに敵意が向いた。背中から棘のように生えた銃口を嵐の如く弾丸をお見舞いするが、対するシエルは刀剣を手前に翳す形で高速回転させて弾丸を弾く。アニメでしか見た事ない芸当を最も容易くやってのけたのだ。

 アディシェスからすれば、シエルの戦闘能力は脅威的に映っているはずである。だからなのか、取るに足りないヴァンを虫ケラみたいに遇らい、無駄だと勧告することで余計な的を削いでおこうという魂胆が見えていた。


「誰が……諦める、かよ」


「ヴァン、私も──」


「来るな!」


 ヴァンが折れそうな剣を地面に突き刺して立ち上がる。一撃、たった一撃喰らっただけでもうよろけていた。体力ゲージが大幅に失い、彼のヒットポイントは半分以下にまで減少していた。

 このままではもう一撃、さっきの攻撃を喰らえば確実に彼はカケラも残らずこの世から消えてしまう。戦力外通告を受けている僕は言わずもがな、カナリアも剣を抜いて戦闘に割って入ろうとしたところでヴァンから制止の声が掛かる。


「まだ立ち上がるか。小僧よ、我々の”外殻”に居座っておりながら貴様の瞳には強い意志を感じる。何故だ」


 撹乱しようと巨体の周りを動くシエルを、今度は力任せに叩き落とすアディシェス。二度もバウンドして地面に打ち付けられた彼女は、すぐさま態勢を立て直し、剣を構える。まるで一才の痛みを感じさせない挙動。しかしてヒットポイントは四分の一を失っている。

 これが外殻の内側にいる者たちの在るべき姿なのだろう。ゲームを動かすキャラクターにダメージが入っても、操作する側に痛みはない。心が無いため、痛む必要がない。


 要するにまとめると、この空間は人の持つ感情を封殺して”ステータス”という枷で縛り付ける。まさに『奇跡を殺す』に相応しい呪いだった。魔法や痛覚の強制遮断はその恩恵に過ぎないのだろう。


「知る、かよ──」


 しかし、彼は違う。理屈や道理は不明だが、ヴァンの心はカケラも失っていない。足取りが覚束ないながらもその瞳に宿る闘志は炎々と燃え盛っていた。


「俺にだって、意地があんだよ……お前をぶっ倒して、ここらの兵士連れ帰って一刻も早く殿下の元へ駆け付ける。それが護衛騎士ってもんだろ、なぁアイン、姉さん」


 同意を求める口調で彼は告げると、シエルと足並み揃えて剣を構えた。

 次に襲い掛かる鉄の竜の攻撃に備え、どこから来ても対処できるように身構えていると──


「実に興味深い。やはり御主も『他が為に己を貫く強い意志』を持っているのだな……」


 アディシェスはヴァンに対する口調を改めて呟いた。機械で在るはずなのに、まるで宝石を眺めるかのように爛々と輝く青い眼で見つめ始めたのだ。

 言葉の裏に、何か深い意味が込められている。そんな何かを垣間見せながら。


「御主らに今一度問う。何故争う。何故抗う。我々は争いを好まぬ。痛みのない世界、この”ステータス”が統べる世界であれば今より平穏に暮らせると、そうは思わぬか」


 しかしそれも束の間。鉄の竜は戦闘もそこそこに、二人と対峙したまま質問を繰り返した。おそらく拉致が明かないと踏んだのだと思うが、実際のところは分からない。

 耳にした僕は不快な憤慨を持った。当たり前だ。甘い誘惑に乗せられた結果がルースリスだ。本当は望まない殺戮でさえ、命じられたまま行動し無理やり背負わされた罪を、元凶を許すはずがない。

 しかしそう思ってはいても口にする術を持たないので問い掛けられている二人をカナリアと眺めるしか出来なかった。


「馬鹿げた話ですね。アナタがそれを言いますか、アディシェス。過去の所業をお忘れですか」


 真っ先に異を唱えたのはシエル。彼女の言う過去の所業とは、ノスタルジア国での一件ではなく、僕が転生する以前の暗黒時代を指しているのだとすぐに理解した。

 どれだけ張本人が争いを好まないと力説しても説得力が皆無。僕らは襲い掛かる火の粉を払う為に、こうして対峙しているだけに過ぎない。


「お前の言う”痛みのない世界”ってのはつまり、ここにいる兵士みたいに生きた屍のような世界ってことだろ。その方が平穏に暮らせる、なんてよく言えるな」


 右に同じく、ヴァンも否定派に一票。僕が伝えたかった言葉をそのまま口にしてくれた。

 悠長に問答をしている場合でもない。二人は耳を傾けるに値しないと判断し、再び地を蹴った。束の間の休息のおかげで息が整い、二人の連携は飛躍的に向上を見せていた。

 左右同時攻撃。反応に遅れるアディシェスも、冷静に対処する。


「愚か……なんと愚かであるか……」


 二人の答えに鉄の竜は嘆く声をあげる。期待した分、裏切られたと言わんばかりに咆哮する。


「他者への排斥。その心があるから争いが生まれ、争いがあるから怒りが生まれ、悲しみが生まれ、また新たな争いの火種になる。呪われた力、その邪な心こそ世界を滅ぼすのだと何故気付かぬ!」


読者様方のおかげで総合評価も上がりつつあります!ありがとうございます!もしよろしければブックマーク&評価の程、よろしくお願いします!

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