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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード67 外殻(クリファ)その1


「何あれ……」

「こいつは……」


 ヴァンとカナリアがほぼ同時に驚愕の声を漏らした。徐々に見えてくる黒いドーム状の半球体、あの副司令の男が言っていた未知なる魔法がそこに阻んでいた。街道を中心に辺りの森林すら覆い包み、まるでそこだけ異空間と化している。結界、または領域と呼んだ方が正しいのだろうか。どちらにせよ異常事態なのは間違いない。

 馬を走らせて半球体に近付くと、逃げ延びたであろう討伐軍の後衛部隊の兵士何十名かが立ち往生していた。何としてもこじ開けようと魔法を放つが、傷一つ与えること能わずに終えるのが遠目からでも分かった。


「アイン、このまま突っ切っても弾かれるかどうか判るか?」


 ヴァンの唐突な質問に僕は困惑した。馬を止めたところで目の前の部隊に阻まれる可能性は大いにあり得た。案内人兼、身元保証人の兵士たちを置いて行ってしまったツケである。馬を走らせて突入してしまう方が時間短縮にもなる。

 しかし弾かれるかどうかなんて、今聞かれても答えようがあるのだろうか。今初めて目にしたのだが……


「ワカラナイ!」


 青火に変換し、急ぎカタコトで答えた。

 もういっそ安全を考慮して馬の足を止めさせた方が賢明である。


「じゃあ止めるね」


 カナリアも僕の意図を汲み取って手綱を引こうとする。がしかし──


「いや、そのまま突っ走る」


 ヴァンがゴーサインを強行。


(へっ?)

「なんで!?」


「あの偉そうなおっさんが言うにはアドニス教員や他の兵士たちがあの中に居るらしい。つまり入るだけなら容易ってことだろ」


 何その謎理論。なら何故聞いたし。

 馬は騎手であるはずのカナリアの意思に叛いて前へ前へ駆け出してゆく。もう目前であった。


「オイそこの騎兵、止まりなさい!」


 僕たちに気付き、通せん坊する一人の兵士。だが暴れ馬の如く走るのを止めない魔法生物の足に数秒も待たずして、


「ごめんなさーい! 退いて〜〜!!」


「うぉ!?」


 涙目になりながら叫ぶカナリアの警告に抗う術なく押し退けられてしまった。

 快調に飛ばす馬は、僕らを乗せたまま黒い半球体に潜り込んだのであった──




 球体に弾き返されることなく、すんなりと潜り抜け、中へと入った。

 すると、突如頭の中で声が鳴り響く。


『愚かな人間共よ。我が外殻にて、その心、痛みのない世界へ誘おう』


 バチバチ、と脳裏にとある光景が過ぎった。それはクマのぬいぐるみ。日本人形。傘。本。鍬……ありとあらゆる”物”が映し出された。これが何の意味を示すのかは謎であるが、ただ感じ取れるのは黒く深い悲痛の想いだった。

 近い感覚に覚えがある。ルースリスによって追体験した生前の記憶。そこで嫌と言うほど味わったものに似ていた。そのデジャヴを最後に、僕の頭の灯火はゆっくりと色褪せていった。


「二人とも無事か?」


 呼ばれて意識をハッキリと保たせる。辺りは黒い背景で覆われ、空も遠くに映っていた山も見えない。ここはあの半球体の中。そう理解するには充分であった。

 僕自身は無事であるが、何故か力が出せない。まるで最初ここへ転生した頃のように、手足も生やそうとしても出来ない状態だった。

 対し、姉弟の反応は両極端である。安否を確認するヴァンは平然としており、カナリアは虚な目をしてボーッと虚空を見上げている。


「おい姉さん、しっかりしろ」


「え、ええ……」


 未だ馬に跨ったままの二人。後ろからヴァンがカナリアの肩を揺さぶって気を確かめるが、彼女の反応がやや呆け気味。明らかな状態異常に、ヴァンは訝しげな表情を作る。


「ごめん……でもここおかしいの。不安やら緊張やらしてたはずなのに、入った途端に全部落としちゃったみたいな……」


 この反応は予想外。しかし、考えてみれば当然である。

 相手はあのアディシェス。ルースリスの口振りからして、奴は心を封殺する術を得ているに違いない。つまり──


「ここがそうさせてるって訳か」


 ヴァンと同じ思考に落ち着く。

 これが無感動の世界。僕自身も現在進行形で味わっている良くも悪くも不動の心を強制させる異界。

 ヴァンがなぜ平然としていられるのかは謎が謎を呼んでいるのだが、疑問は後回しにした方が賢明だろう。


「アインは──ってお前、頭の火どうした!?」


 うんともすんとも言わない僕の異変に気付き、ヴァンは急いで馬を降りる。荷物に結んで固定された紐を解いて、鎧兜の中を覗き込んでくる。


「火が消えて……いや、燃えてはいるけど色が透明なのか……つくづく謎生物だなお前。てか生きてっか?」


 ぶんぶんと上下に揺らすヴァン。

 色が消えてしまったってことは、おそらくあらゆる行動に制限が掛かっていることなのは明白。現に青火にならなければ村に居た時みたいに話すことすらままならない。

 とりあえず生きてることを示す為、首元から黒いマナの泥を吐き出して合図した。


「きったね!」


 ひどい言われようであった。


「ともあれ、ここが相当ヤバいってのが分かった。俺は何ともないが、教員たちは……」


 自分たちの状態確認をそこそこにして、ヴァンが視線を半球体の中央へ向いた。

 何十メートル先、街道が続く中、道中に大きな玉座が背中を向けて鎮座していたのが先ず目に入る。何故そこに玉座があるのか疑問だったが、問題はそこから先が無くなっていた事であった。

 ヴァンが僕を片手に抱えて恐る恐る近寄って、ようやく詳細が分かる。地面が広範囲に渡って抉れていたのだ。蟻地獄のように下半球へ広がる地形に、地平線から上空へ半球に覆う真っ黒なドーム。まさに球体。陽の光もないのに光景だけはハッキリと見える異空間は、さながら専用のバトルフィールド。


 下半球では、文字通りの戦場が繰り広げられていた。

 数多の兵士が相手するのは、これまた数多の機兵。ガラクタの寄せ集めみたいな見た目の機械兵士が覚束ない動きで人間に向かって剣を振り回していた。

 有象無象が蠢く最中、一際目立つ存在が二つ。

 一つはあの”鉄の竜”。ノスタルジア国で対峙した時の形状とは少し違っていたが、間違いなくアディシェスだった。それと対峙している一人の女性。ポニーテールに括った紺色の髪が乱れながらも刀剣を片手に振りかざす、シエルの姿であった。

 もう一つは群集の中、一機の車輪を馬で引いて駆け回る女性。燃え盛るような赤い髪を風に靡かせ、怒号の声を張り上げながら指示を出すアドニスの姿。


 二つの戦力が盤上を煌めかせていた。


 しかし、一見して場を捲り返そうと見栄えする光景だったが、注目すると様子がおかしいことにすぐ気付く。

 まずは兵士。指示通りに動きはするが、何とも頼りない雰囲気を漂わせている。言葉を言い換えるなら覇気が全く感じさせないのだ。虚ろな目で敵兵を眺めている場面が多く、危うく機兵に斬られそうになるところをアドニスが車輪で轢き潰す。その繰り返しであった。

 そして肝心なシエルである。単騎で鉄の竜を押さえ込んでいるとは言え、決め手に欠けているのか中々踏み込めていない。

 兵士たちとシエルの実力を考えるなら、もはや敵にならないはずの相手に拮抗されている。否、逆にアドニスの機転で拮抗に持ち込めていると言った方が妥当だろう。


 ヴァンは逸早く天秤が些細なことで傾くことを悟り、行動に移った。

 後ろで馬に跨ったままぼんやりしているカナリアに声をかける。


「俺たちも行くぞ」


「ねぇヴァン、この数字、何かな……」


「数字? 一体何の話を──」


 虚空を見上げたまま、カナリアが呟く。今はそれどころじゃないと遇らおうとして、ヴァンは押し黙った。

 僕もカナリアの言葉を聞くまで気付かなかったが、確かに視界の端に数字らしきものが見える。緑ゲージに青ゲージ。その横に表示される数値の羅列。生前の記憶が蘇る。


(これ、ステータス……?)


 家に引き篭もって何時間も眺めていたから瞬時に理解する。見慣れた表示。ゲーム内で存在するそれは、極々ありふれたもの。体力ゲージと魔法ゲージだ。

 ヴァンの方を注視すると、彼の体の横に体力ゲージが表示される。ご丁寧にレベルまで表示されるオマケ付きだ。

 ヴァンのレベルは51。対し僕はレベル5。雲泥の差で言葉も出ない。ちなみにカナリアは40ぴったりだった。


「どこまでもふざけた空間だな」


 何を思ってか、ヴァンは未知であるはずの数値に対して怒りを露わにした。

 カナリアの後ろに再び跨り、彼女の肩に手を置いて囁く。


「いいか、絶対攻撃を受けるな。生き残りたければ剣でも魔法でも使って対処しろよ」


「うん……」


 返事はうわのそらだが、カナリアが頷くのを見てヴァンは続け様に指示を口にする。


「先ずはアドニス教員へ向かう。あの傍若無人は平気そうだからな。行けるか?」


「わかった。行くよ」


 何気に失礼なことを言いつつも、ヴァンは的確に目標を定める。

 この場において足手纏いになった僕は、ただヴァンに掴まれたまま見届けるしかない。もちろん、隙があれば魔法の一つや二つ唱える心構えは出来ているが、この空間を何とかしない限り足掻いても無駄に終わるのが目に見えていた。

 幸い、魔法生物の馬は問題なく動く。カナリアがマナを注入して馬を起動すると、彼女の青ゲージが少しばかり目盛を減らすのが見え、確信へ至る。

 やはり青ゲージはマナの残量を表している。そして言われるがまま動くカナリアは、さながらキャラクター。NPCプレイヤーとでも言うべきだろうか。

 馬を走らせ、下半球の戦場に向かってノンストップで駆け出していく。


「ちょちょちょい待ち! 待って馬鹿姉! 速い速い!」


 さすがのヴァンも、助走とは思えないスピードに冷や汗を掻いた。弧を描く斜面とはいえ、出始めは崖のような状態である。勢い任せで降下する恐怖には抗えない。

 風を一身に浴びる。おそらく街道を突っ走っていた速度と差程変わりなかった。


「だいじょぶダイジョブ。怖くないし」


「それが異常状態なんだって気付けぇえ!!」


 ついに崖際を跳んで重力に身を任せ駆け下ってゆく。ヴァンは目に涙を浮かべて騎手の姉にしがみ付くしかなかった。

異世界転生といえばゲーム世界に忠実なステータス!

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