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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 四章 〜無感動〜
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エピソード63 戦場

 戦闘開始からそれなりに時間が経過した。


 広範囲に渡って円形に、そして半球型に地形が抉れた中心で、鉄の竜が降り立っていた。広くなった場所で永遠と小さな鉄の塊を排出する。

 小さな鉄の塊と言っても、巨大な鉄の竜と比べて小さいと喩えているだけで、実際は人の大きさと左程変わりない。使われている部品がチグハグなのだが、一見して同じ形をしている汎用型。手足があるため自ら歩むことができ、腕そのものが剣となって襲い掛かる私兵。人間と違うのは俊敏性のカケラもない、不気味にガタガタと動くカラクリ人形。普通の大人相手なら取るに足りない相手だ。

 しかし、兵士ひとりが剣同士でぶつかってみると力量はそこそこある様子。痛覚がないため、人間にとっての負傷が負傷とならないしぶとさ。何よりも数が問題だった。

 それだけならまだ何とでもなる。普通の一般兵でも知恵を絞れば怪我を負わずに攻略はできよう。そう簡単に事を運ばせてくれないのが世の世知辛いところである。

 宙を這い回る”何か”がいるのだ。

 俊敏に飛び回るソレの大きさは人の頭部ほど。平らな形状をしており、ぶら下げている武器で遠距離攻撃を仕掛けてくる厄介者。歩兵と人形が接戦している時に横槍を入れて拮抗状態を端から崩して回っている。数は人形ほど多くは無いが、放っておけば着実に戦力を削いでいくであろう代物であった。

 転生者の知識で喩えるなら『ドローン』という言葉が適切であるソレらを、アドニスは便宜上、相手の歩兵を『ジャンク』、空飛ぶ機械を『ホーネット』と命名した。


魔法部隊(ビショップ)、何やら五月蝿いハエが飛んでいる。狙え」


 黄金の玉座に腰掛け、頬杖しながら指示を飛ばす。指揮長から伝令が渡り、歩兵の後ろで控えていた黒魔法使い達が”ホーネット”に向かって一斉に魔法を放った。爆裂に氷結に暴風に雷撃に、様々な魔法が繰り出され、一掃する。

 シエルはいい仕事をした。見晴らしの良い場所に玉座を設置したおかげで戦況が分かり易く助かる。アドニスは心の中で感謝の意を示しながら、次の手を講じる。


「どう見る」


 隣に立つ指揮長、もとい副司令官の男に問いかける。彼は他の部隊から派遣された、かの暗黒時代の戦場を知らないまま成り上がった若輩者。経験が浅いまま他の兵より上に立たれるのは業腹だが、今のうちに戦場を知ってもらう良い機会でもある。部下を育てるのも上司としての役割だ。

 男は「はっ」と背筋を正しつつ返事をして、自分の中での戦況を述べる。


「一見して互角か優位と思われますが、相手の勢力は未だ未知数。アレを止めぬ限り、ゆくゆくはジリ貧になるかと」


「まぁ、そうだろうな」


 鉄の竜が再び”ホーネット”を生成し、蜘蛛の子を散らすように上空へ飛ばす。

 彼のいうアレという行為。自ら兵を創り出す異形の偉業。あれだけの数を排出して尚、体積が縮まる様子を見せない物理法則の無視。

 誰がどう見ても、アレを止めろと言い張るだろう。


「奴は、こちらを伺っている」


「……と、言いますと?」


「あれだけの主砲を備えておきながら、我々に直接向けなかった。何故だと思う」


 鉄塊を見つめながらアドニスは彼に教育を施す。


「威嚇、でしょうか。無益な殺生を避け、報復を恐れたとか」


「違うな」


 もちろん、普通の人間相手ならそういう考えもあり得るだろう。

 しかし、今回は何かが仕組まれている。ずっとモヤモヤしていた疑念を、彼に向けて口にする。


「ここに来た時、奴は立ち塞がった。ここから先へは行かさん、とな……しかし妙だろう。あの一撃をこちらに向けず街道を広場にした。わざわざこちらが戦いやすい場を設けた」


 先ずこの遠征からして疑問だらけだが、そこは割愛する。

 男は黙ってアドニスの言葉に耳を傾けた。


「おそらく奴は待っている……いや、”期待している”。我々が打開してくるのをな」


 要は、遊んでいるのだ。と肩を竦めて端的に締め括る。


「お言葉ですが、それに一体なんの意味が……」


「そこまでは知らん。だが、この先に何かがあると風聴する言葉と、奴自身の行動が一致しないのは確か。こちらと”同じ戦法”を使ってくるのが良い例だ」


 戦場では、出会ってからが勝負ではない。盤上では見えない部分から引っ張り出し、総合し、統計し、相手の性格を計り、思考を読む。

 不可解な部分はあれど、あの鉄塊が歩兵(ポーン)同士をぶつけてくるのであれば、先に動かざるを得ないだろう。

 会話している内に、歩兵達がやや押され始めた。


「先に手の内を明かすのは業腹だが、強烈なのを喰らわせるとしよう。ヴァーミリオン大尉!」


「はっ!」


 アドニスが呼ぶと、颯爽とシエルが現れる。膝を着いて頭を垂れる姿は最高位への敬礼である。


「今より”剣姫(クイーン)”の座を与える。彼奴を少々黙らせてこい」


「御意──」


 承諾すると、シエル・ヴァーミリオン・エスパーダは兵を率いずに跳躍した。

 そこからは盤上がひっくり返った。目にも止まらぬ速さで味方の歩兵の間を抜け、敵陣へ突っ込む。その間、道中の”ジャンク”を斬り伏せ、”ホーネット”を破壊し、あっという間に鉄塊の元へと辿り着いてしまったのだ。

 彼女が手にするのは刀剣。西大陸の大半を占める汎用の両刃の剣とは違い、片刃の曲刀。扱えるのは王都でただ一人、彼女だけである。

 身のこなし、鞘から抜き放つ刀剣の扱い、鉄の塊ですら滑らかに一刀両断する姿はまるで剣舞。芸術すら感じる美しさと華があった。これには側から見ていた兵士たちの息が高ぶる。

 兵士が”軍神”の手足であるなら、さながら彼女は大剣(クレイモア)。圧倒的な実力で標的を屠る単体にして最強の剣なのだ。


「お覚悟を」


 鉄の竜に向けて剣戟を放つ。だが、さすがは鉄塊。欠陥歩兵(ジャンク・インファントリー)と違って刃が最後まで通らない。

 しかし、到底無視は出来ない。煩わしくなったのか、鉄の竜も兵の生成の手を止めて彼女と対峙し始めた。


「ほう、あれを弾くか。中々に硬いな」


「あの、よろしいのですか……?」


 遠目でシエルの様子を眺めながら呟く。緊張感のない姿に、指揮長が恐る恐る声を掛けた。


「何がだ」


「いえ、大尉殿に兵を付けないのかと。無粋な事をお聞きしました」


 再び背筋を伸ばして謝罪を口にする。見れば理解できる内容だった。

 彼女に味方の兵は不要。むしろ、足手纏いになりかねない領域である。一騎当千とはまさにこのこと。単騎でしか発揮できない戦力もあるのだと彼は独りでに悟った。

 世界は何ともはや広いものだ──

 彼はそう心の中で言葉にし、空を仰いだ。雲行きは相変わらず暗雲を漂ったまま静寂していた。


「……勝った気でいるならまだ早い。奴らから目を逸らすな」


 彼の心を読んでか、アドニスはそう釘を刺した。


「はっ、申し訳ございません。しかし、大尉殿の活躍で戦況は巻き返しつつあります。あの大魔法も二度目を放つ様子も見せません。ここの指揮は私に一任し、少佐殿は奥で休まれても良いかと進言致します」


「だと良いがな」


 なるほど、彼はこうやってのし上がっていったのだろう。アドニスは心の中で溜息を吐いた。

 確実な勝利の目前で指揮権を譲渡してもらい、実権を少しでも握る。繰り返せば実績として加算されていき、評価されていく。若輩者にしては賢い世渡りだが、少々戦場を甘く見過ぎている。先程も口にした通り、相手の勢力……いや、戦力は未知数。おいそれと喜んで手放すほど、彼女は柔軟ではない。

 ただ、彼の言うことも一理ある。シエルの投入によって戦況は徐々に押し返しを見せている。このまま”ジャンク”を掃討した後は、控えている”戦車(ルーク)”と”魔法部隊(ビショップ)”で彼女を支援すれば、おそらく押し切れる。

 何かがあるはずなのだ。奴には──

 アドニスは逸る気持ちを抑える為、ポケットからタバコを摘んで口にする。そして魔法道具を使って火を灯そうとして、目を疑った。


「な、なんだあれは……」


 隣に立つ彼も、動揺を隠さずに口にする。

 鉄の竜。あの鉄塊を中心に黒い球体が生まれ、徐々に範囲を広げて包んでゆくではないか。

 球体は敵味方関係なく呑み込んで行き、当然その中にはシエルの姿もあり──


「状況を確認しろ」


「はっ! 魔法部隊(ビショップ)、あの黒いのに魔法を放て!」


 未知なる展開に、”軍神”の瞳が揺らいだ。

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