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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 三章 〜漆黒の鎧〜
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エピソード58 予想の斜め上


──アイン、おいアイン!


 誰かが僕を呼んでいる。

 微睡みの海の中から引き揚げられる感覚を感じながら、僕は眩い世界へと目を開けた。


「アイン殿!」

「生きてるかアイン!」


 途端、視界いっぱいにむさ苦しい二人の男の顔が映る。


(────ガクッ)


「おい今起きてたろ!!」


 せっかくの起き迎えが男の顔二つってのは、さすがに嫌過ぎた。

 再び意識を途絶えさせようと寝たふりを試みるが、ヴァンに鎧兜を振り回されて無理やり起こされる。

 やめろ、目が回る!


 僕は急いで手足を形成させ、目覚めたことを示した。


「よかった、アイン殿……」


 いい歳こいたおっさんが涙を浮かべて安堵する。

 厳つい顔の割に女々しいところあるよなこの人。


(てか、アフェクさん背中!)


 そう言えば、ジンを救出するためにアフェクが出動し、ルースリスに勘づかれて背中を斬られたはずだ。

 長い間、幻想の中で生前を追体験したり、ルースリスとの決着に付き合わされたりしたせいで直前に起きたことを忘れていた。


 僕がアフェクの後ろに回り込み、背中を見やる。

 確かに、右肩から左の腹脇までの背中に傷があった。服が裂かれ、なぞる様に皮膚が斬られている。

 だが、もう血は止まっているみたいだった。


「わたしの傷か? 安心しろ。こうなることも予想して鎖帷子(くさりかたびら)を着込んどいた。傷は見た目より浅い」


 よく見ると裂かれた服の下に鎖でできた生地の装備が見えていた。

 しかし、それにしたって血潮が尋常じゃなかった気がするが……


「あの木のおかげでもあろう」


 アフェクが指差した先に、例の”神木”が向けられる。

 依然と青い輝きを放っており、神々しさは衰えを見せていない。


「直接的な治癒効果はないが、鎮痛作用があるみたいだ。アイン殿のおかげで応急処置も簡単に済んだ。助かったよ」


 静かに頭を下げて礼を言うアフェク。


 改めて辺りを見回すと、座り込むアフェクとヴァン、そばにジンが横たわっているのが分かる。

 少し離れた場所に”神木”が佇み、その隣には漆黒の鎧──ルースリスが鎧兜だけになって静まり返っていた。


「それよりもお前どうしてたんだ? いきなり光ったと思ったら、お互い急に動かなくなるしよ……」


 ヴァンが座り込んだまま聞いてきた。

 最後の方が萎み気味だったのが気になったが、アフェクがすかさず補足した。


「ヴァン殿はアイン殿を深く心配されていたのだ」


「誰が心配なんかするか! 情報が知りてぇんだよ俺は!」


「今はこんな天邪鬼なことを言っているが、終始、動かなくなったアイン殿を呼び続けておったのだぞ」


「テメェおっさん、その傷一つじゃ物足りねぇだろ! もう一つ増やしてカッコ良くしてやんよ!」


 赤面しながらヴァンは剣を抜こうと暴れるが、それは御免だと絆された張本人に宥められる。

 彼なりに心配していたのは明白。嬉しく思う一方、心配をかけて申し訳なく思う。


 しかし、どう伝えればいいのだろうか。

 まずはルースリスに敵意はおそらく無いと伝えるべきなのだろうが──


「んっ──」


 ザザッと、ヴァンとアフェクが素早く警戒態勢に移った。

 この場に寝ているのはジンともう一人。

 目を覚まそうとする機械混じりの声の方に目を向けて、二人はそれぞれ剣と杖を構える。


「ヴァン殿、ジン殿を連れて行け」


「何言ってんだよおっさん。その傷じゃまだ無茶できねぇだろ」


「今はアイン殿もいる。少しばかりの時間稼ぎぐらいなら──」


 二人が目を逸らすことなく真っ直ぐに”神木”の方を見ながら、この後の行動を急いで打ち合わせる。

 やいのやいのと言い合っている内に、”神木”にある鎧兜に変化が起きた。

 鎧兜の首袖からどろりと液体が漏れ出ていき、やがて体を形成する。

 小さな手足は、今の僕とほぼ同じぐらいの大きさで、ベンテールから白銀の炎が灯る。

 漆黒の鎧を纏う様子はなく、再び起動したルースリスがぼんやりと辺りを見回して、ついにその視野に僕を捉え、


「アイーン!!」


「「…………は?」」


(…………は?)


 と、これまた猫撫で声で呼ぶのだった。

 後ろの二人は当然耳を疑い、もちろん僕も予想外の反応で思考が追いつかない。

 固まる僕らを他所に、ルースリスは僕の方へ走って近寄り、抱き着いてきた。


(ちょ、ちょちょちょ、まっ!!)


「もうアイン、先に起きてたんなら起こしてよ! 女の子の寝顔を覗き見なんて減点対象だし! ま、まぁ? そんなに見たかったんなら、今度二人っきりの時でも……」


 なにやらプンプンと怒っていると思いきや、急にモジモジと恥じらいながらとんでもないことを口走る始末。

 何をどうしたらこうなる。いや、どうしてこうなった。


「アインったら、なにボーっとしてるの。アンタは、その……アタシをこんな風にした責任、取る義務があるんだから!」


(せき、にんっ!?)


 僕に抱き着きながらルンルン気分で舞い上がっているルースリスを、後ろの二人は唖然とする。


「おっさん、俺、夢でも見ているのでしょうか」


「ヴァン殿、冷静に。敬語出ていますよ」


「じゃあ、一体こりゃどういう事なんだよ!? さっきまで殺し合っていた奴が、寝て、起きたら、乳繰り合ってんだぞ!? しかも魔法生物と魔法生物とで!!」


「我々、グラッド教の教えにはこうある──めでたい日には、赤いメシを炊くのだと……」


(ねぇなんの話? なんの話してんの!?)


 抱き締められながら後ろを見やると、アフェクが遠い目をしていた。


「赤い食い物か……余ってただろうか……」


 ダメだこいつ。早くなんとかしないと。


「おーい!」


 そうこうしている内に、さらに後ろの方から声がした。

 声の主は、カナリアだった。

 数人の村人を連れて、カナリアは手を振って駆け寄る。


「魔物があらかた片付いたから助太刀に来たよ──って」


 ビシッ、と何やらカナリアの中で亀裂が入る音がした。


「……これ、どういう状況?」


 カナリアの視線の先は、アフェクやヴァンを通り越して、僕に向けられていた。

 その目がやたら暗く、恐ろしいと寒気が走った。


「か、カナリア……どの?」


「ね、姉さん?」


 カナリアの異様な雰囲気にアフェクとヴァンも逸早く感知し、どう説明しようか慌てふためいている。

 僕はというと、未だにルースリスに抱き締められており、背中から感じるドス黒いオーラに頭の灯火が弱々しく揺れていた。

 対しルースリスはお構いなしといった様子で頬擦りをしてくる。鎧兜同士、ゴリゴリと削れる音だけが響くのが滑稽である。


「あーいーんー、アインアインアインー」


 しかも語尾にハートマークが付くような甘い声を鳴らしながら、めいいっぱい甘えてくる。


 ゴゴゴゴゴ……


「お、鬼じゃあ……」

「修羅場じゃあ……」

「おそろしやぁ……」


 カナリアに付いてきた村人たちが恐れ慄く。

 てか”神木”あるだろ! なんでみんな冷静にならないの!?


「アーイーンー」


 後ろからドスの効いた声が僕を呼ぶ。


「どういうことか、説明しなさーーーい!!」


 とうとう怒り爆発したカナリアの声が、村中に響き渡るのであった。

久しぶりにギャグ回!最近暗い話ばっかりだったのではっちゃけました!

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