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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 三章 〜漆黒の鎧〜
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エピソード48 幻想の中



──もう何度目の幻想(ともしび)だろう。

 実際のところ数えるほどしかないが、それでもこの力に助けられた記憶しかない。

 何せ、心が通じる度に何故か都合よくコトが運ぶのだ。

 一度目はカナリア。二度目はユース。三度目はキノ。四度目はレラ。五度目はアフェク。

 どれもが窮地を救ったり、心を癒やしたりした。その度に、僕は自分を取り戻していった。

 今回もそれを願って、僕はこの”幻想”を呼び出した。


 真っ白な空間の中、一人の女の子が膝を着いて泣いていた。

 背丈が低く、茶色に染めた髪が特徴的だった。格好は学生服で、生前僕がいた世界と同じところから来たのだと分かる。


 近寄って、女の子に手を差し出した。

 もう泣かなくていい。辛いことがあるなら吐き出せばいい。

 そう思って、手を伸ばしたんだ。

 彼女は嗚咽まじりに呟いた。


「誰もアタシを必要としない」


 違う。キミを必要とする人は必ずいる。


「頑張っても報われない」


 違う。これからはキミの行動次第で報われる。


「もう、傷付くのはイヤ」


 なら、その傷が癒えるまで、僕がそばにいる。


「偽善者」


 彼女はそう呪詛を零すと、僕の差し伸べた手を掴んだ。

 ドロドロと形状が崩れていき、滴ったドス黒い泥が僕をまとわりつく。


「アタシも同じような力を持ってること、忘れてない?」


 なんてことだ。またしても失態。彼女はこの”幻想”の中においても彼女(ルースリス)のままだった。

 すぐさま振り解こうとするが、泥は徐々に僕を覆い尽くしてゆく。


「見せてよ。アンタの過去(ノロイ)を──」


 彼女の胸元には、白銀の火が灯っていた。その色が黒に変色したのを最後に、僕は泥に飲み込まれた。

 薄れゆく意識の中、僕は今までの彼女の言動に何かが引っ掛かっていた。

 何故、彼女は──


 …………

 ………

 ……

 …


 チャイムが聞こえる。

 まるで揺り籠にいるような微睡(まどろ)みから中々抜け出せず、このまま眠り続けたいという欲求に駆られる。

 しかし、耳には僕を呼ぶ声もチャイムに混じって聞こえてきた。


「──と」


 肩を揺さぶられる。

 待ってくれ、今起きるから。


「──こと」


 ああ、もう誰なんだ。

 この眠りは決して安くないんだぞ。


「まこと!」


 耳元で呼ばれ、一気に微睡みが覚める。


「あーもーうるせぇ! せっかくいい気分で寝てたのに」


 体を起こす。どうやら机に突っ伏して寝てたようだ。

 あれ。体がある。


「あれ、なんで僕、ここに……」


 瞼を擦りながら疑問を口走ると、僕を起こした張本人が呆れたように溜息をついた。


「何言ってんの。もう放課後だよ」


 十数個の机と椅子。そして黒板。夕焼けが眩しく辺りを照らす光景は、まさしく教室だった。

 反射的に、声の主へと振り向くと、そこには一人の女子生徒がいた。

 美しく長い黒髪に端麗な顔立ち。宝石みたいに輝く瞳と心地よい凛々とした声色。

 活発的で堂々とした面立ちは気品さすら感じ、思わず目を奪われる。


「あや、せ──」


「ん? なに鳩に豆鉄砲をゼロ距離連射喰らったような顔してんの?」


「それ鳩が可哀想だろ……」


 彼女の一言に、僕は反射的にツッコミを入れた。

 長年の付き合いから生まれたやりとりに、安堵すら感じる。

 僕は彼女から目を逸らして、見惚れていたことを隠す。


「まことって、いっつも寝てるよねー。逆に疲れない?」


「なにを言うか。これが一番効率いい睡眠学習法なんだって」


「その割に万年赤点ギリじゃん」


「うぐっ」


 この女、いつも痛いところを突いてきやがる……


「万年成績上位クラスの才女様には僕の気持ちなんて分かりっこないやい!」


 強がりである。

 あからさまに頬を膨らませソッポを向くと、彼女は静かに笑いを堪え、


「ありがとっ」


 そして嫌味もなく微笑むのであった。

 その表情が、一挙一挙の動作が、目を惹く。

 しかし、何かが引っ掛かる。

 僕は確か──


「ぁぐっ」


「え、ちょっと大丈夫?」


 何かを思い出そうとして、激しい頭痛が襲いかかる。

 目玉の奥をスプーンでくり抜かれるような痛みに、僕は思わず頭を抱えた。


「い、いや大丈夫。ちょっと寝過ぎた……」


 だがそれも一瞬で収まり、僕は心配する彼女に手のひらを見せて制した。

 それにしても、何かがぼやけている気がする。

 他の誰でもない、己自身が……


「なぁ、僕って誰だっけ?」


 そんな質問を、気づけば彼女に投げかけていた。

 彼女は目を白黒にさせてから一拍置いて、また深い溜息をついた。


「寝ぼけるのも大概にしてよね……まこと。あなたは六堂(ろくどう)(まこと)。ちなみに私は綾瀬。綾瀬(あやせ)ひかり。思い出した?」


 半分以上やっつけで綾瀬は答えた。

 そうだ。僕は理だ。凡人で、何不自由なく学校に通う男子生徒。成績は下の中で、運動はそこそこ。帰宅部で、家では逃げるようにネットとゲームざんまい。

 もう一度教室を見回して、何か抜け落ちたパーツを繋ぎ合わせる。

 ここは学校。三原高等学校。都市部からやや離れた自称進学校。

 目の前にいるのは綾瀬。綾瀬ひかり。僕の幼馴染みで、父親が外人のハーフで、今は単身赴任の父と別れて母と二人暮らしで、頭が良くて、運動も抜群で、容姿端麗で、人気者で──


「……あー、本当に寝ぼけてたみたい。ゴメン」


 僕は綾瀬に一言告げ、席を立った。

 教室の時計を見ると、短針は五時を指していた。

 もう帰らないといけない時間だった。

 素早く帰り支度を済ませる。


「なーんか、今日のまことって変」


 その間、綾瀬は待っててくれた。別に待たなくてもいいのに。てか別にわざわざ僕を起こさなくてもいいのに。

 だが、それが彼女の持ち味なのだ。

 いつも一緒にいる。誰かの隣にいる。それが綾瀬なんだ。


「帰ろっ」


 教室を出ようとした時、彼女は嬉しそうに微笑みながら言った。

 おう、と頷いて肩を並べて教室を出る。

 夕暮れの、なんの変哲もない日常に、頭の中にあった違和感は徐々に薄れていった──

ようやくアインの過去が明らかに。ここまで書けたのも読者の皆様のおかげです!感謝!良ければ評価やブックマークもよろしくお願いします!モチベ上がります!

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