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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 三章 〜漆黒の鎧〜
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エピソード42 精神安定

 詠唱を唱え終えた直後、衝撃が巻き起こった。

 風が僕たちを囲むように吹き荒れ、やがて一つの巨大な蒼い光の柱が天を穿った。

 雨雲が円を描いて弾かれ、さっきまで降り続いていた雨が止む。

 光が収まった時、そこには神木が佇んでいた。


 詠唱の最中(さなか)、アフェクが掲げた握り拳から雫が地面に滴り落ちた。

 そこから一つの芽が出、みるみるうちに成長して木に、木はやがて大木に、そして瞬く間に神々しさすら感じる神木へと成ったのだ。

 大きさが恐ろしく、

 さながら、ジャックと豆の木よろしく、神父と神木である。

 冷たい雨と打って変わって、淡い青の粒子が木漏れ日のように降り注ぐ。


「ギィィ……」


 するとどうだ。寸前まで攻撃態勢だった大鷹が立ち止まり、ありったけの敵意や殺意が嘘のように晴れているではないか。

 舞うように両翼を羽ばたかせて地面に降り、村人たちすら見向きもせずに大人しく羽の毛繕(けずくろ)いを始める。赤く灯った目が黒い瞳になっていて、もはや戦意は微塵も感じられない。

 それどころか、普通の動物に戻ったような気さえする。


 村人たちが驚愕するには充分だったのだが、更なる出来事が起こった。

 後続に続く魔物たちである。

 他の飛行型の魔物は、大鷹よりも小柄なカラスの群れ。

 その数は尋常ではない。イナゴの大群の如く、黒い大きな塊となって襲いかかって来た時には、辺りは瞬く間に(つい)ばまれた血肉の海が広がるだろう。

 しかし、黒い群れはいくら経っても襲いかかって来る様子が見えない。

 それもそのはず。

 この神木が現れた光の衝撃で、空を覆う群れは(ことごと)(チリ)のように消えてしまったのだ。


「か、神の御業(みわざ)じゃ……」


ーーおおおおおおおおおお!!


 一人が呟くと、いっせいに村人たちが歓声をあげた。

 神の奇跡が起きた、と。


「神の御業ではない!」


 しかし、歓声に負けない鋭い声が場を制した。


「この魔法は、わたしの願いと、そこにいるアイン殿が、お前たちの闘志を()べて創りあげた、我々の力だ!」


 アフェクの言い直しに、村人たちは再び歓喜する。


「ちっこいの、よぉやっちゃのぉ!」


「ワシらの気ィを汲んで、こげなでっけぇ木を……」


「ぬしぁ、えれぇマナヌアじゃ!」


 マナニアの発音が訛るとマナヌアになるのか。

 村人たちから称賛を受けて、思わず照れてしまう。


 村人たちの勢いは増していき、場が最高潮に達する。


「皆の者、村を取り返すぞ!」


 アフェクが号令を出すと、みんなが声を張り上げて階段を降り始めた。

 まずは武器を所持している者や若者衆が先陣を切って降りて行き、下で戦っているであろう兵士たちの元へ駆けつける。

 続いて女子供たちが階段が厳しい老人たちを補助する形で降りていった。


「まずは武器を揃えよ! 戦えぬ者は食べ物をありったけ掻き集め、男たちと共に行動せよ! 御老体たちは安全な場所まで固まって動け!」


 勢いのまま、指示を出すアフェク。

 村人の大体な割合は、戦える男衆が四割、女子供が五割、残りが老人となっている。

 本来なら、この窮地の最中で戦力にもなれない六割はこの場に残るのが先決である。

 しかし、全員が社から出た。

 混乱する様子もなく、恐れや怯えを見せる様子もない。


 これこそ、神木の力。

 これこそ、(ケセド)の真骨頂。


 精神の安定。それは元来、魔法を放つ際に必要とされる集中力を飛躍的に向上させるというのが目的であった。

 単騎では役に立てない魔法でも、他者に付与させる効果は絶大で、魔法の効力が二倍にも三倍にもなるという。

 それが先人達の知恵によって、青の魔法は”精神を操るもの”へと昇華させた。

 それを更に変異させたのが、対象を眠りへ誘う魔法や混乱させる魔法。


 クリスの教えが、ここに来てようやく理解した。

 アフェクが創ったこの神木は、辺り一体の精神を、文字通り”安定”させたのだ。

 揺れ動くことのない闘争心こそ、今の魔物たちにとっては、たとえ農民であっても脅威になり得るだろう。


「わたしたちも行こう、アイン殿」


(ああ、行こうぜアフェクさん)


 アフェクが手を伸ばす。

 手を掴むとすぐさま抱えられ、のんびりと待機していた大鷹に向かう。


「乗せてほしい。できるか?」


 大鷹の頬に優しく触れながらアフェクが問うと、任せろと言わんばかりに鳴き声を上げた。

 しかし、どうやって乗るのだろう。

 馬に(またが)るとは訳が違う。(くら)もなければ手綱もない。


「キィ!」


「のわっ!?」


 アフェクがよじ登ろうとするのが(じれ)ったいのか、(くちばし)を器用にアフェクの首元の服を啄むと、乱暴に己の背に乗せた。

 そのまま両翼が動き始め、砂塵を巻いて地面から離れる。


「おお? おおお!」


 いい歳したおっさんがまるで少年のような声をあげる。

 無理もない。今まで感じたことのない浮遊感。地面が遠くなっていき、空が近くなっていく開放感。景色が全て下に降りて行き、地平線まで見渡せる絶景。全身を風が吹き抜ける爽快感。

 走っていく村人たちが米粒のように小さい。

 ノスタルジアにいた時のカナリアも、こんな感覚だったのだろうか。


「あ、あああアイン殿!? し、しっかり捕まるんだぞ! おち、おおおおち、おちちちち!」


 アフェクは目を固く閉じて未知の感覚に慌てていた。

 てか、精神安定の魔法はどこいったよ。まさか発動者は対象外なのか?

 そう思っているうちに、大鷹は翼を傾けて大きく降下して助走をつけた。


 そういえば、大型の鳥って普段は風に身を任せて宙に浮いて、獲物を捉える時は下にまっすぐ降下していくんだっけか。

 流線型を描いて降下する様は、第三者から見れば目に見張るものがあるだろうが、大鷹の視点だとジェットコースターのそれだ。

 安全装置がない分、スリルは桁違いなのだがーー


「いやぁぁぁぁああ! 落ちるぅぅぅ!!」


 このあとアフェクは生涯、高所恐怖症に(さいな)まれる事となるとは、言わずもがなであった。

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