エピソード40 失敗!?
【フラグメント発動:勇気】
(あ、あれ……?)
いつもなら白銀の火から包むように光るのだが、辺りの光景に変化が起きない。
幻想が発動しない。
その代わりに、何か変な文字が脳裏に過るのを感じた。
(し、失敗!?)
いつまで経っても変化しない景色に、僕は慌てふためく。
「ーーーー」
だが、アフェクだけは違った。
目の前の白銀を驚愕した様子で見つめ、やがて目の端に涙を浮かべたのだ。
「ーーありがとう」
そう告げると、体を村人たちに向けて歩み出した。
「みんな、聞いて欲しい」
村人たちが静かにアフェクの声に耳を傾けている。
もしかしたら、助かる道が思い付いたのだろうかーー
そういった期待の渦が張り巡らせている雰囲気だった。
「この状況に陥ったのは、そもそもわたし自身が原因なのだ」
・ ・ ・ 。
「え……?」
「何じゃと?」
(えええええーー!!)
今この状況でその告白は不味いでしょ!
驚愕の事実に困惑する村人たちを見て、僕は心の中で床が崩れ落ちそうな感覚に陥った。
一方で、ヴァンはーー
「あの魔法生物とお姉ちゃんは大丈夫なのか?」
相変わらず、無数の魔物と漆黒の鎧からの攻撃を受け凌いでいた。
顔色ひとつ変えずに魔法を駆使するジンの素朴な疑問に、ヴァンは汗水垂らしながら笑い飛ばした。
「アイツはいざと言う時、とんでもねぇ魔法を使うんだよ」
「ふーん」
「あと、馬鹿姉のことを”お姉ちゃん”って呼ぶの、やめろ」
「いいじゃないか! お姉ちゃん! 良い響きではないかぁっはっはっは!」
「後でしばき倒す」
二人の会話に割り込むように漆黒の刃が襲いかかる。
「くだらないお喋りは終わったか?」
機械混じりの声に、ヴァンが苦笑する。
「ようやくテメェの動きにも慣れてきたところだ」
「だが、そっちの半裸男は限界みたいだな」
「なに?」
振り返ると、連続で放っていた魔法がいつの間に止んでいた。
ジンは余裕そうな表情を浮かべるが、その頬に汗が滴っている。
「おい、まさかーー」
「マナが切れた」
冷静に告げられる言葉に、ヴァンは舌打ちをした。
今、魔物が押し寄せられれば、なんとか拮抗していた状態が崩れてしまう。
しかし無理もない。ここまでの間、ジンは強大な魔法を連発していたのだから。
「ハハハ、キサマらも終わりだ。どのみち、村の方も終わりを迎えているだろうがな」
鎧が嘲笑う。
ジンの魔法で築き上げられた土の城壁が、大きな音を出して砕かれた。
「なっーー」
城壁を壊した魔物が現れる。
まるで丸太のように太い足に、長い鼻。前方に突き出た牙が特徴の、まさに象であった。
象は象でも、マンモスのような見た目である。
パオーン、と鳴くには可愛すぎる声を耳にした途端、ヴァンはジンに向かって叫んだ。
「逃げるぞ!」
「その必要はないさ」
撤退の指示に対して、今度はジンが不敵な笑みを浮かべた。
「切り札は、最後まで取っておいて切り札となり得るのさ」
「お前ーー」
いつの間にか、ジンの手には剣が握られていた。
剣についてはヴァンもよく知る分野なのだが、ジンが持っている得物は初めて目にする形であった。
それは東大陸国で広く流通されているサーベル。刀身幅が板のように広く、誇張するかのような曲線が特徴的だった。
しかし、それだけではなかった。
彼が纏っていたマナの粒子。先程までは黄金色に近い美に相応しいものだったのが一変、青紫色の禍々しい色になっていたのだ。
「ーー荒の他に神は無し。彼者こそ破壊の象徴。創造するが故に、今あるものを砕かんとする厄災」
ジンの口から紡がれるのは、詠唱と言うには程遠い、呪詛であった。
その異様な言葉の羅列に、漆黒の鎧でさえも身構える素振りを見せた。
「何故キサマがそれをーー」
「ーー万物はいずれ崩れ去る。ならば、この手で葬ってやろう。新たに創られるものの為に、形あるもの、すべてを光と化して破壊しろ」
変色したマナの粒子が刀剣に宿る。
黒白する閃光を目にしたヴァンは逡巡した。
(アイン、頼む。コイツはヤバいーー)
小さな魔法生物に捧げる祈りをよそに、ジンが剣を掲げて高々に叫んだ。
「ーー我呪う、禍津・荒之男命ノ息吹!!」
魔法と呼ぶには異質すぎるそれは、辺り一面を光へ包ませた。
また一方、カナリアはーー
「回復魔法が使える人は後方で怪我人の手当をして!」
「嬢ちゃん、上から鳥型の魔物来てんぞ!」
「宙にいる敵は任せて!」
こちらも相変わらず怒号が飛び交う戦場が続いていた。
しかしヴァンとジンの飛び抜けた戦力とは違い、兵士たちの消耗戦と化しつつある。
いくら村の留守を任された部隊とはいえ、総数は二百人はいたはずなのだが、その数を徐々に減らしていた。
素人目から見ても劣勢を強いられているのが理解できるだろう。
無尽蔵に湧いてくる魔物たちは、赤色に鈍く光る目を凝らして血肉を啜ろうと躍起である。
「ビナー・エクスプロージョン!」
ーーもう何発目の魔法だろうか。
カナリアは、爆炎を放つ度に足に込める力が抜けてゆく感覚に襲われていた。
天候のせいで得意魔法の威力も半減し、気を抜けば仕留め損なうこともしばしば起こっている。
「も、もう限界だ……終わりだ……」
苛烈さを極めてゆく中、一人の兵士が頭を抱えて絶望に暮れていた。
何も傷を負ってすらいないのに、戦うことを放棄した者も少なくない。
それでもカナリアは兵士の腕を掴み、立ち上がらせる。
「まだ諦めないで!」
力なく項垂れる兵士に檄を飛ばす。
「信じて、戦って! 必ず助けは来るから!」
側から聞けば、なんの根拠もない戯言である。
だが、カケラでも望みを捨てなければ剣は握れる。
兵士たちがカナリアの言葉に耳を傾けるのは、彼女の目が希望に満ちた強い輝きを持っていたからに他ならなかった。
(信じてるから、アイン……!)
彼女も心の中で小さな魔法生物に願いを託す。
血溜まりに無情にも打ちつけてくる雨空に想いを寄せてーー
ちょっと短めになってしまいました。




