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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 三章 〜漆黒の鎧〜
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エピソード34 地獄

 アフェクを連れて村の奥へ駆け足で向かった。

 道中、村の民家が破壊されているのが目立つ。家によっては火が広がっているところもあった。


「ビナー・プロミネンスバレット!」


 出遭(であ)う魔物に向けて、カナリアが魔法を放つ。

 剣先に炎が集い、炸裂する爆炎。そこから放たれた火炎の弾丸は見事、脳天を貫いていた。

 マナの消費を抑えつつ魔物を(たお)す。効率的な魔法に驚きを隠せずにいるものの、一々感動している場合ではなかった。


「急いで!」


 カナリアが急かす。村人が避難している社までは、まだ道が続いているのだ。

 しかし、肝心のアフェクの足が重い。


「わたしはここで魔物を討つ」


 突然、彼の足が止まった。


「な、なに言って──」

「お前たちは先に行け」


 彼がそういうと、明後日の方向にいる魔物を見つけ、おもむろに魔法を放とうとする。


「やめて!」


 カナリアが身を呈してアフェクの魔法を止めた。

 発動しかかった魔法の残滓が、形を成す前に霧散する。

 この時の彼女の判断は正解だった。あのまま魔法を繰り広げていたら、収拾がつかなくなってしまうところだった。


「いきなりどうしちゃったの! 村の人たちはどうするの、アフェクがいないと上手くまとめられないよ!」


 カナリアが彼の服を掴んで揺らす。

 らしくないではないか、と。昨日みたいな威勢はどこへ行ったのか、と。


「……わたしが招いたのだ」


 ポツリと、アフェクの口から本音が溢れる。

 それは、先程の漆黒の鎧のことなのだと察しが付いた。


「わたしが彼女に言われるがまま、何の疑いもなく、従ったせいで……村が……」


「それは──」


 反論しようとして、言い(よど)む。

 あの魔法生物が敵の手先だったとは思いも寄らない。仕方ないのだと、口にしたところで何になる。

 いくら励ましたところで、今の彼には己の自責の念が絶えない状態。そんな暗い目を、彼はしていたのだ。

 しかし、それでもカナリアは食らい付いた。


「そんな簡単に、諦めないで……」


「偉そうに説法しておいて結局このザマだ。さすがに合わす顔がない」


「謝ればいいじゃない。ここで逃げたら、それこそ()いが残っちゃう」


「悔いなど、当の昔に悔やみ尽くした。ここでも同じ過ちを犯すぐらいなら──」


 それは、昨日言っていた最愛の妻と娘を失ったことを暗に指していた。

 そんなことを言われてしまったら、さすがのカナリアも口を噤むしかなくなる。失った悲しみを、彼女は少しだけ理解できてしまうからだ。

 母親を──まだ幼い頃に亡くしてしまった悲しみを。

 力なく俯く彼の姿が、かつての父を連想させたのか。しばらく考え込むような素振りをみせて、


「いいからついて来て」


 強引にアフェクの腕を引っ張ったのだった。




 僕らはそれから道中襲い掛かってくる魔物を何度も撃退しながら、ついに社のところまで辿り着いた。

 社には、長い階段があり、その下には広場みたいな空間がある。

 曰く、この村でお祭りをする際に使われる場所のようだが、そこでは大勢の魔物と兵士が激戦を繰り広げていた。


「陣形を乱すな! 大型の魔物だけじゃなく、小型でも五人で仕留めろ!」


「第二班、三名死亡! 残りは第十と合流しろ!」


「こいつ、見た目に反して速い! 気をつけろ!」


 兵士たちの怒号が飛び交う。それに劣らない程の悲鳴と獣の咆哮が、更なる地獄絵図を描いていた。

 無惨にも腕を喰い千切られる者、無情にも目玉を(ついば)まれる者、無念にも体を引き裂かれる者。

 体格が大きい魔物には力及ばず、小さい魔物には死角から奇襲され、兵士たちの死体が積み上げられてゆく。


 それでも村人たちが避難しているであろう社には一歩たりとも進ませないと、死中求活の戦いをみせていた。


「ビナー・エクスプロージョン!」


 残り少ないマナを絞り出すように、カナリアは大型小型関係なく爆炎で包む。

 あと一歩遅かったら、本当に取り返しのつかない程の戦力差が生まれるところであった。


「アフェク! 今なら社に行ける!」


「わ、わたしもここで──」


「バカ!」


「あでっ!?」


 アフェクの尻を、割と本気で蹴り飛ばしたカナリア。蹴られた本人が広場に前のめりで転んでしまう。

 大丈夫か……? 大の大人を蹴り飛ばすって相当な威力だと思うんだけど……


 僕の心配をよそに、アフェクが顔をあげると、そこに転がっている死体に目がいく。

 血と臓物を撒き散らしていたであろう所には、さっきの爆炎で半分焦げて異臭を放っていた。


「うっ──」


 込み上げる胃液を何とか堪えて、立ち上がる。


「私も平気じゃないよ。でも、生きてる人たちはもっと怖い思いをしてる。ここの人たちのためにも、今やるべきことを見失わないで」


 カナリアが続ける。


「諦めたい気持ちは誰にだってあるよ。でも、諦めたくない人だっている。この場でみんなに手を差し伸ばせるのはアフェクだけなの」


 死人に口無し。もういないアフェクの最愛の家族は、今の彼をみて何と言うのだろうか。彼が思うとおり、怨み辛みだろうか。それとも励ましの言葉だろうか。それはもう分からない。分かりようがない。

 しかし現実は、彼が奮起しなければこの場は全滅で終わるという未来しかないということだ。


「アフェク殿が来たぞ!」

「頼む、村人の先陣を切ってくれ! 村人さえ脱出できれば、俺らは撤退できる!」

「アフェク、行って!」


 前から後ろから、男に向けて投げかける言葉が刺さる。

 言われるがまま、アフェクはよろよろと導かれるまま、長い階段へと向かって行った。

 立ち塞ごうとする魔物たちを、カナリアと兵士たちが身を粉にして通行の道をひらける。


「アイン、付き添ってあげて」


 歩み出したアフェクの背中を見て、カナリアは僕に告げた。

 その笑みは、ヴァンが見せたものと同じで、さすが姉弟だと思わせた。

 だが、額に浮かべた汗を見るに、もはや余力など残っていないのだろう。


(ここでカナリアを失いたくない……)


 後ろ髪を引かれる思いだ。アフェクと同行すれば、彼女を失う可能性が飛躍的に上がってしまう。

 最後までそばにいたい。そんな気持ちが、つよく白銀の火を波打たせる。

 首を振って駄々をこねる僕をみて、彼女が優しく語りかけてきた。


「ヴァンが言った通り、アインしかできないことがある。だから、行ってあげて」


 その悲しみと(いつく)しみに溢れた目。どこかで見覚えがあった。


『バカ……アンタ、本当、バカよ……』


 それは生前、死ぬ間際(まぎわ)にかけられた言葉。

 別れの中にあった、堪えても(あふ)れてしまう慈愛──


(……わかった)


 僕は意を決して、アフェクの方へ駆け出した。

 あの時は、もう何もできずに死んでしまったけれど、今は違う。

 動くカラダを最大限に活かして、使える力を底尽きるまで、決して諦めないたりしない。

 カナリアを、ヴァンを、そしてみんなを、この場から救い出すまでは──


 空模様は、いつの間にか雨が降りだすほど、暗雲が立ち込めていた。

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