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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 三章 〜漆黒の鎧〜
33/318

エピソード32 開戦


◆◇◆◇


 頭の灯火が揺れた。

 白銀の火は、たまに不自然な動きをする。それは僕の感情によって大きくなったり小さくなったりもした。

 しかし、この時は直感で理解した。何かが来る、と──


「アイン、そこのヒモ取ってくんねーか」


 ヴァンが指示してくるが、それも耳に入らない。いや、入ってきても集中ができないのだ。

 灯火が荒れ狂うほど揺れている。あっちだ。あっちに行けと命令しているようで、気になって仕方がない。


「おいアイン、頼むから今は手伝いぐらい──って、オイ!」


「ちょっとヴァン、うるさい!」


「いやアインが勝手に走って──」


「えっ!」


 僕は体が出来てからここ何日かで密かに素早く移動できる手段を模索していた。


 この小さい体で二足歩行は、いくら生前が人間でも遅過ぎるし、頭の鎧が重くてバランスが取りずらかった。

 体積は変わらないが、体を自在に変化はできる。そのことを逆手に取って、僕はいろんな動物の姿になってみたりもした。

 その中で一番しっくりきたのは猫の姿だった。猫なら、この体積でも俊敏に動ける。

 問題は重たい鎧部分だった。猫の頭部では支え切れないので、背中に着けるよう調節した。言わば、鎧兜が生えた猫である。

 慣れるまでは時間が掛かったが、その努力がこうして実を結んでいたことは素直に喜ばしい。


「見たことないケモノ姿だし可愛いと思うけど、鎧が可愛くない!」


 後ろのカナリアから不評の声があがっていた。まぁ、どこの世界でも鎧が生えた動物なんてキモいだろうけど、そんなハッキリと申し上げなくても……


 それでも僕は足を止めずに走った。

 ヴァンもカナリアも、その後を追う。

 茂みを抜け、舗装されていない野道を僕たちは全力で走る。


「ねぇ、アインが向かってる先って──」


「あの方向は軍が今朝出発した街道だ」


 僕の行先を思い出して、二人は内心焦りを見せる。

 普段見せない僕の行動。それが何を意味するか薄々勘付いているようだった。


 駆け抜けて行く先に、村人の集団が見えた。


「て、敵襲じゃあ!」


 逃げてくるのを見て、ヴァンが声をあげる。


「おいお前、この先に魔物が出たのか⁉︎」


「んだ、兵士たちが言いちょった! オラたちは他の兵士たちに伝えてから村の皆を非難させっぺ!」


 青年が答える姿は、一端に覚悟を決めた男の顔をしていた。あの様子なら他の村人も大丈夫だろう。

 村人とすれ違い、僕たちは速度を上げた。




 その後、逃げる兵士たちとも遭遇。


「た、助けてくれ!」


「バケモンが、村に……!」


「落ち着け! 今あそこに誰がいるんだ!」


 ヴァンの問いだす内容は的を射ていた。

 逃げ出す兵士たちに、一見して怪我はない。このパニック状態なら逃げる選択肢もやむ得ないのだが、それにしては後ろから魔物が襲ってくる様子が見当たらない。


「アフェクだ……アイツ、俺たちを逃がそうとして……」


「──ッ」


 最後まで耳にする前に、舌を打って足を動かし始めるヴァン。

 たった一人での時間稼ぎなど、無謀に過ぎないのだ。




 景色が前から後ろへと流れていく最中(さなか)、異様な空気が体を撫でる。

 今までにない不穏な雰囲気。頭の火が急げと大きく揺れ続ける。


「アフェク!」


 後方でカナリアが叫んだ。

 視野の先には、立ち(すく)む男の姿があった。


 アフェクが対峙する先。街道には魔物の軍勢が入り口を塞ぎ、その内の小さい漆黒の鎧が目に入る。


(アイツだ)


 言い逃れようがない。同族の灯火が見える。

 僕は狙いを(さだ)めて地面を蹴った。

 漆黒の鎧の腕が刃物に変化し、アフェクの眼前に瞬間移動したかのように現れる。


(間に合わないッ!?)


 その時、鎧の中の白銀の炎が火花を散らせた。


 昨晩の夜、カナリアが王冠(ケテル)教に属していることを知った。(ケテル)はミラのセフィラだったはず。魔法系統は『時間』。


(白の王冠よ。秒針を(とど)めよ。星の輝きすらも、我が心臓すらも。この白銀は刹那を生きる灯火──『ケテル・ファウスト』!)


 連想しているうちに、僕は詠唱を唱えていた。


(────)


 見える情景すべての色彩が暗転する。暗転した物体のすべてが動きを止め、静止された世界が広がっていた。

 一歩遅れて、星の公転すら止まる程の重力の負荷が襲いかかって来た。

 詠唱は、以前唱えていたミラのものとは違う、より強力なものを発動させたつもりであった。

 強力な力は、時に己自(おのれみずか)らも破滅させる。これが良い例だ。

 しかし、今はそれどころではない。

 人間に有るものが無く、無いはずのものが有る。それが魔法生物(いまのぼく)だ。


 凍てつくような体を気合いで動かして、僕はアフェクの前まで辿り着いた。

 もうすでに漆黒の鎧は交差させた刃を振り払う動作に移っており、間一髪のところで間に割り込めた。


(解、除ォ!)


 魔法を解く。すると色彩は元に戻り、物体が動きを再開し始めた。


 ガキンッ!


 鎧兜を盾に、刃を食い止める。

 鋼と鋼がぶつかり合り、異音が鳴り響く。軽い衝撃が空間を波打ち、それこそ時が止まったかのような静寂が訪れた。


「……来たか、”器”」


(お前は一体、何者だ)


 互いの顔を見合わせる。

 鎧の奥、そこから覗かせる白銀の灯火が、まるで共鳴しているかのように揺れていた。


数多(あまた)の魔物たちよ、全軍、突撃だ」


 ついに漆黒の鎧が合図を出す。後ろで控えていた魔物たちが待ってましたと咆哮をし、行軍を再開しだした。

 頭上を羽ばたかせていた巨大な鷹、”大鷹(タイヨウ)”が真っ先に、村の中心に向かおうと更に上空へと昇ろうとする。


 アフェクの命は何とか守り(しの)いだが、このまま囲まれれば一緒だった。

 状況は圧倒的に不利。僕一人ではどうにも出来なかった。

 そう、僕一人だったら。


「黒の理解よ、爆ぜよ、大気を震わせ、彼者(かのもの)(ざい)、彼者は(えん)、彼者は(じん)。ビナー・エクスプロージョン!」


 後ろから詠唱を唱える声が聞こえた途端、”大鷹”の体が爆ぜた。

 上空に昇ろうとしたところの不意打ちをモロに喰らい、鷹は再び地面スレスレまで下がっていた。


「なにボサッとしてんだ、おっさん!」


 僕と漆黒の鎧の横を颯爽と駆け抜けるのは、ヴァン。

 携えた剣を抜き、地面を蹴って鷹と並ぶぐらいの高さの宙を舞う。常人では計り知れない脚力。


「ハァァアアッ!」


 剣を振りかざし、両手で柄を握って、思いっきり振り下ろす。

 美しい()を描いて振り下ろした剣は、大鷹の片翼を捉え、一刀両断。見事斬り落としてみせた。


 ギィィィィ!


 片翼を失った痛みから、耳を覆いたくなる程の金切声をあげて鷹は地に伏した。

 それが開戦の幕開けと言わんばかりに、着地したヴァンは、振り返りもせずに軍勢を相手に斬りかかった。

 蛇、狼、鹿、鴉──その他もろもろのありとあらゆる種族の魔物を次々と斬り伏せてゆく。


「ビナー・エクスプロージョン!」


 再度、後方からの詠唱で村へ押し寄せてくる魔物たちを爆撃。


 カナリアとヴァン。この二人の連携は、王都に来る以前から息がピッタリだった。

 そして王都に来てから、アドニスとシエルによる実技を叩き込まれ、その実力は遥かに向上している。

 この異世界に転生してから思うに、おそらくこの二人が最強の護衛騎士。それを間近で見て来たのだ。

 それから、僕自身。今は目の前の敵よりも小さいけれど、自由に動く体がある。


「強力な助っ人だな」


 バチっと、刃で弾かれ、距離が開く。

 猫の姿のまま、着地。


「アフェク、大丈夫?」


「あ、ああ……」


 さっきの衝撃で尻餅を着いていたアフェクに、カナリアが合流した。

 今はアフェクを戦場から離脱させることを優先に、徐々に前線を下げる。僕たちの意思は図らずも一致しており、カナリアがアフェクの肩を担ぐ。

 ここでの僕の役割は、目の前の同族を引き止めること。

 魔物に指示をするのだ。放っておくと後々厄介になる。


「まだ小さい。これが”器”とは、片腹痛い」


(偉そうなこと言いやがって)


「分かるぞ。キサマが言葉を発しなくても、その灯火を見れば分かる」


 考えが読まれているのか、漆黒の鎧はそう(わら)った。


「はぁぁ!」


 奥で一騎当千の如く、ヴァンが暴れまくっているのを尻目に、同族は両腕の刃を構えた。


「せっかく頂いた軍勢を減らすのは本意ではない。まずは駒を減らす!」


(まずい!)


 ヴァンを背中から討つつもりだ。

 予想通り、漆黒の鎧は僕に目も暮れずに振り返り、ヴァンに向かって突進して行ったのだ。

ついに来ました戦闘シーン。めちゃくちゃテンション上がってます!

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