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転生魔法生物が世界を救うまで、あと  作者: カイザー
第一部 三章 〜漆黒の鎧〜
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エピソード26 行軍

 例の約束の日になった。

 アドニスに言われたとおり、村はずれに(ひそ)んでいるであろう魔物集団の討伐に(おもむ)いた。


「すごい数だね……」


 ザッ、ザッ、ザッ──大勢の足音が、文字どおり足並み(そろ)えて突き進む。

 行軍に圧倒されるカナリア。ぞろぞろと城門から出てくる隊列は、果てしなく長い。


「実際、我々に続くのはこの三分の一になります」


 隣のシエルから補足が入る。

 軍は、全体でおよそ三千の兵士。必要以上の人数かと思われたが、各地に散開(さんかい)して他に魔物が潜んでいないか調査も()ねているという。


 僕たちはアドニスの本隊に配属され、他の兵士たちに囲まれながらウマに乗って出発。

 かくいうアドニスはというと、前方にて他の幹部クラスのヒトたちと打ち合わせとなっており、今この場にはシエルが()()うカタチだ。

 ちなみに、僕はカナリアと同じウマに乗っている。彼女の前に座って、落ちないよう両腕に挟まれているという状態。カラダが生えてもまだまだ子供扱いで不満だが、仕方なし。


 空は雲ひとつない快晴。(みずか)ら危険地へ足を踏み入れたくない僕らにとっては、皮肉にも絶好(ぜっこう)の討伐日和(びより)である。

 トリの(さえず)りが心地いいはずなのに、周囲に重々しい鎧の(こす)れる音が邪魔をする。


「──ミラが心配?」


 カナリアがヴァンに耳打ちした。

 じつは、この場にミラはいない。王政の方で急用ができたとのことで、またも不在となってしまった。

 王都を出てからというものの、ヴァンが後ろ髪を引かれるように何度も振り返るため、さすがに鬱陶(うっとう)しく思ったカナリアが肘で小突いたのだ。


「……そんなわけあるか」


「全然そんな風に見えないけどっ」


「言ってろ」


 本来なら、彼も素直にこの状況を受け入れざる得ないのだ。

 皇女(ミラ)を危険な場所に連れていけない。だがこの身は騎士。なぜ彼女の元から離れなければならない──そんな複雑な気持ちでいっぱいなのだろう。


「アナタたちのことを考慮すれば、ミラ皇女も同行しても良かったのですが……タイミングが悪かったとしか言いようがないです」


 シエルが申し訳なさそうに答えた。


「いえいえそんな、先生たちが悪いわけじゃないんです!」


 さっきの会話が皮肉と捉えられることを恐れたカナリアが、胸元で手を振って否定した。


「ヴァンが勝手に彼氏ヅラしてるだけなんで!」


「余計なことを言うな」


「あでっ」


 弟から脳天直撃のチョップが入る。


 かの日の夜。彼はミラに告白をして、それが両想いだったと花咲いたのは、ここ数日内で一番のイベントであった。

 いつもなら拳ひとつぐらい飛んできそうなはずなのに、今の彼は極めてしおらしい。ソッポを向いて赤面を隠してらっしゃる。どうやら満更でもないらしい。


(てか、彼氏ヅラて……)


 真新しいゴシップの露見(ろけん)に、シエルが眉をひそませた。


「カナリア・フル・ヴァルヴァレット」


「え、先生? どうしてそんな顔を? まさか学園内って恋愛禁止とか?」


「ここでは”先生”ではなく、”大尉”、もしくは”隊長”と呼ぶように」


(え、指摘するのそこですか?)


 カナリアも少し呆然とする。そんな反応にシエルは怪訝な表情をそのままに、


「返事は」


 と促してくる。


 なるほど。シエルの性格が少し垣間見えた気がした。

 普段、生徒たちのことを「くん」呼びしていたのに、ここに来ていきなりフルネームで呼ぶぐらいだ。

 部下の兵士たちにも、階級で呼び合うのであろう。当然っちゃあ当然だが。


「あはは……私たち軍人じゃないのでシエル”さん”って呼びますね」


 カナリアもそのことに気付いたのか、曖昧な笑みを浮かべてやんわりと否定。

 一拍置いてから「それもそうか」と彼女が納得。


「では私も呼び捨てにするとしましょう」


「そうしていただけると助かります。あははは」


 堅苦しい軍人の(かがみ)。アドニスならきっとそう表現するだろう。

 実際、シエルの表情はイマイチ読みづらい。初見では凛々しい人だと思っていたが、感情表現を表に出すのが難しいのだろうか。それとも、意図して表に出さないのだろうか。


「ところで、”彼女ヅラ”というのは?」


 このタイミングで掘り返すのか……


「じつはヴァンってば、ミラに愛の告白を──ぐべっ」


 今度は無言でゲンコツを喰らうハメに。


「愛の、こくはく……?」


 シエルが反芻(はんすう)して唱える。

 そして理解に(およ)んだ途端、ボンっと赤面するのであった。


「そ、そそそそそれは……その、どういった状況で?」


 興味津々である。

 感情表現に関しては、おそらく後者だったと結論。


 そのあとは何とも楽しいひと時だった。カナリアがペラペラと語り、その都度(つど)ヴァンからチョップを受けていたのだが、一緒に行軍していた兵士たちから思わぬ称賛を得ていた。

「まさか隊長が恋愛に(うと)かったとは」「やるなー坊主(ボウズ)」「ぎゃく玉の輿(こし)じゃん」などなど。


「俺の話はいい。殿下が来れないのはこの際、仕方がない。腹立たしいが百歩譲って良しとする。それよりも──」


 ヴァンがある人物を尻目(しりめ)にして、話を区切る。

 視線の先には、かのクラスメイトが同行していたのだ。


「ん〜〜〜今の話……とてもエモぉーショナルで、ドラマトゥぃぃックで、セぇぇンチメンタルで、ポエぇーティックで、つまるところロマンティぃぃッック!」


「なんで変態(コイツ)がいるんですか、シエル”先生”」


 ひと(きわ)目立つ白馬のマナニアに乗車しながらにして半裸。自分の肉体を抱くような仕草(しぐさ)を繰り返しつつキメポーズをする、褐色肌の残念系イケメン。クリフトリーフ・ジン・アークライトがそこにいた。


「彼はその……ついてくると言って聞かなかったのです」


 彼が嫌味を込めて『先生』呼びしたのにも関わらず、ソッポを向いてゲンナリと答える。その様子から察するに、相当なやりとりがあったのだろうと推測。ご愁傷様。

 ヴァンもヴァンで、ミラの不在には納得しようとしているのに、彼と一緒になるのがどうも気に入らない感じだ。悩みのタネが(カゴ)いっぱいに詰めて背負ったような人物だ。気持ちはわかる。


「東大陸国の職人だろ……てか侍女はどうしたんだ」


「ノンノンノン、ノンノン日和だよヴァン・リぃぃール・ヴァルヴァレーーッツ!」


 白い歯をむき出しにしながらクリフトリーフはヴァンに近寄る。これはかなりウザい。


我輩(わがはい)とて一国を(にな)う造形家。愛する民を守るべく動くのは、親方(おやかた)の務めとして至極当然であろう! あとエルドライトはうるさいので置いてきた」


 もっともらしい言葉を並べているが、その挙動ひとつひとつに自身の肉体美を()せつけるようなポーズを取りながらであった。てか子供みたいな理由で侍女を置いていくなよ。

 ヴァンの頭に青筋が浮かぶが、それでも自制心を保っている。さすがだ。


「こんなヤツが国の頭領になるなら、いっそ滅びた方がマシだな」


 前言撤回。本人の前でトンデモ発言。

 だが、それを失言だと(とが)める者は誰一人としていなかった。言われた本人も、


「はっはっは、我輩の美しさで滅ぶ国があるのなら本望だろう!」


 と、まるできいちゃいない。

 器がデカイのか、単なる馬鹿なのか。その鋼のメンタルを前に打ちのめされたヴァンは、頭を抱えて溜息をつくばかりだった。


「あ、そうです」


 ここでシエルが思い出したかのように手を叩いた。嫌な予感しかしない……


「アドニス少佐から言伝(ことづて)です。『彼も有数な貴族。もしものことがあったら処刑ものだと(きも)(めい)じておけ』と──」


(ん?)

「え?」

「は?」


 ヴァンだけじゃなく、僕もカナリアも耳を疑う。


「『皇女の代わりなんだから喜んで引き受けろ』、だそうです」


「はっはっは、全力で我輩を守るがよい!」


 ・ ・ ・ 。


「……無理難題を押し付けやがって、んのヤロぉーー‼︎」


 ヴァンの嘆きが、晴れ渡る空にむなしく響くのであった。

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